人気対戦型ゲームの『エーペックス レジェンズ』は基本プレー無料(写真:記者撮影)

成長産業であるゲーム業界。『ファミ通ゲーム白書』によると2021年の世界のゲームコンテンツ市場は前年比約6%増の約21.9兆円と推計される。


そのもうけの仕組みは現在、非常に多様化している。従来のゲーム産業はソニーグループや任天堂などのゲーム用ハードと、それを通じて遊べる家庭用ゲームソフトを顧客が購入する、シンプルな買い切り型ビジネスが主体だった。

現在は、一概にゲームといっても家庭用ゲームに加え、スマホゲーム、PCゲームなどさまざまだ。またゲームの特性ごとに収益を得る方法も異なっている。

多くのヒットゲームが生まれてきたスマホゲーム

スマホゲームとは、スマートフォンなどの携帯端末向けに開発されたゲームのことだ。

代表的な作品は12年に配信開始されたガンホー・オンライン・エンターテイメントのパズル型RPG『パズル&ドラゴンズ』。22年11月には国内累計6000万ダウンロードを突破し、現在でも人気は健在だ。ほかにもMIXIの『モンスターストライク』やサイゲームスの『ウマ娘 プリティーダービー』など多くのヒットゲームが生まれてきた。

スマホゲームで多く見られる収益モデルは、フリーミアム型の運営型ゲーム(基本無料でプレーを始められるがゲーム中に課金要素があるゲーム)だ。

ストーリーを早く進めたり、「ガチャ」でレア(強力)なキャラクターを獲得したりするときに課金が発生する。ここで重要なのは無課金プレーヤーも含めていかにプレーヤー数を維持できるかだ。


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『ファミ通ゲーム白書』編集長の上床光信氏は「ゲームがサーバー上に置かれることで、運用費がかかるようになった。多くのゲームプレーヤーに遊ばれたほうが課金してもらえるため、登録ユーザー、中でもアクティブユーザーが重要指標になってくる」と話す。基本プレー無料のモデルは普段家庭用ゲームで遊ばない人も取り込み、ゲーム人口の増加に貢献した。

対戦型ゲームは、FPS(一人称視点シューティングゲーム)に代表される運営型ゲームである。プレーヤーは銃などの武器を使って他のプレーヤーと対戦する。PCやゲーム専用機などさまざまなハードで遊べ、eスポーツでも親しまれているジャンルだ。

対戦型は利用者数がゲームの価値に直結するため、基本プレー無料のケースが多いが、1人で遊ぶゲームとは異なり、課金の有無がプレーヤーの強弱に直結するようなモデルは好まれない。

課金で戦いが有利にならないゲームを作る

例えば米エレクトロニック・アーツが運営する『エーペックス レジェンズ』は課金推奨方針として「課金で戦いが有利にならないゲームを作ること」としている。よく採用されるのがゲーム内で自分が使用するキャラクターが着用する「スキン」(コスチューム)などへの課金だ。このスキンに試合を有利に運べる要素はない。

ではなぜゲームの勝利に関係ないところでのマネタイズが可能なのか。『ファミ通ゲーム白書』副編集長の藤池隆司氏は「eスポーツやライブストリーミング(ネット上での生配信)が盛んになったことで、自分の好きな配信者と同じスキンが欲しいという人が増えるようになった。またゲーム内でプレーヤー同士がコミュニケーションを行えるため、昔からSNSで見られた『アバター課金』の要素もある」と話す。

ライブ配信の発展やゲームのコミュニティー化の影響で、従来型ゲームに代わり、運営型ゲームがますます台頭している状況だ。

前出の藤池氏は「さまざまなところに“基本無料”の圧力がある」と話す。実際、米ブリザード・エンターテイメントが22年10月に配信開始したシューティングゲーム『オーバーウォッチ2』は前作の買い切り型からフリーミアム型に移行している。

運営型ゲームには、ソニーのような伝統的なゲーム用ハードの会社も力を入れる。

ソニーは22年に米ゲーム開発のバンジー社を買収した。この狙いとしてソニーは、同社が有するライブサービスゲーム(ゲーム内容を更新し続け、長期的にプレーすることができるゲーム)のノウハウ獲得を挙げており、25年までに新規10タイトルの配信予定を掲げる。

米マイクロソフトも22年1月に米アクティビジョン・ブリザードの買収を発表するなど、運営型ゲームの取り込みにいそしむ。

買い切り型の家庭用ゲームも変化

買い切り型の家庭用ゲームも変化しつつある。任天堂は18年から月額課金サービスの「ニンテンドースイッチオンライン」を開始した。同サービスに加入すればオンライン対戦や過去作のプレー、セーブデータ預かりサービスの利用などができる。

世界中の人との通信プレーが当たり前となった今、家庭用ゲームでも、作品によっては同サービスへの加入がほぼ必須になる。例えば22年9月に発売された任天堂のシューティングゲーム『スプラトゥーン3』は4対4のオンライン対戦がメインモードであり、オンラインサービスに加入せずに楽しみ切るのは難しい。

「ニンテンドースイッチオンライン」の会員数は22年9月末時点で3600万人超。同社の安定収益に貢献している。

追加ダウンロードコンテンツの販売も盛んになっている。17年に発売された『マリオカート8DX』は22年から有料で追加コースを販売。23年末までに6回に分けて配信される予定だ。また「ニンテンドースイッチオンライン」と前出のマリオカート追加コースを含む追加パックなどをセットにした新プランも開始しており、買い切り型でも長期で遊んでもらえる施策を推進する。

米アマゾンもクラウドによるゲームサービスを開始。米ネットフリックスも参入するなど、業界はますます活況を呈する。「売って終わり」から「いかに長く遊んでもらえるか」へ。各社の競争が熾烈を極めていきそうだ。


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(武山 隼大 : 東洋経済 記者)