新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のパンデミックが収束しない中、新たに2種類のコロナウイルスが動物から人間に感染する可能性があるとの研究結果が、相次いで発表されました。イヌとブタという、いずれも人間の身近にいる家畜が感染源になったと見られることから、新たなパンデミックの危険性が指摘されています。

Novel Canine Coronavirus Isolated from a Hospitalized Pneumonia Patient, East Malaysia | Clinical Infectious Diseases | Oxford Academic

https://academic.oup.com/cid/advance-article/doi/10.1093/cid/ciab456/6278597

Emergence of porcine delta-coronavirus pathogenic infections among children in Haiti through independent zoonoses and convergent evolution | medRxiv

https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2021.03.19.21253391v1

New human coronavirus that originated in dogs identified

https://news.osu.edu/new-human-coronavirus-that-originated-in-dogs-identified/

オハイオ州立大学食品・農業・環境科学部のアナスタシア・ブラソバ助教授らが2021年5月20日に、「2017年〜2018年にかけてマレーシアで発生した肺炎のウイルスゲノムを解析した結果、イヌ由来のコロナウイルスだったことが分かりました」と発表しました。コロナウイルスがイヌからヒトへの感染性を獲得した事例が報告されたのは、これが初めてです。



「CCoV-HuPn-2018」と命名されたこのウイルスに感染した8人の患者は、いずれも4〜6日間入院し酸素吸入などの治療を受けた後、回復して退院したとのこと。人間に感染するコロナウイルスは、SARS-CoV-2を含めてこれまで7種が特定されているため、このウイルスは8種目となる可能性があると研究チームは主張しています。

ブラソバ氏は「この新しいコロナウイルスに感染していた患者8人のうち、成人は1人だけで残りは子どもでした。従って、このウイルスが大人に重篤な症状をもたらすという証拠は今のところありません。ただし、この新しいコロナウイルスがいずれ人間の間で流行する可能性も否定できません。もしそうなれば、ウイルスとの戦いはすべてふりだしに戻ることになります」とコメントしました。

SARS-CoV-2も、発見当初はWHOにより「ヒトからヒトへは感染しない見込み」と発表されていましたが、後に「ヒトからヒトへ感染する」ことが判明したという経緯があります。

中国で流行中の新型ウイルス肺炎が「ヒトからヒトへ」感染することが確認される、症例数は数日で3倍以上に - GIGAZINE



また、フロリダ大学のジョン・レドニッキー教授らの研究チームも2021年3月に、「2014〜2015年にかけて発熱と診断されたハイチの子ども3人から、ヒトに感染するブタ由来のデルタコロナウイルス(Hu-PDCoV)を発見した」と報告しています。

デルタコロナウイルスはコロナウイルスの一種で、かつては鳥類のみに感染すると考えられていましたが、後にブタに感染することが判明しました。さらに、今回の発表によりブタからヒトに感染するおそれがあることが示唆されています。

研究チームは論文の中で、「ハイチの子どもたちはいずれも軽症だったため、現時点ではHu-PDCoVが健康上の大きな脅威となる証拠はありません。しかし、ハイチではSARS-CoV-2の感染症例が多かったにもかかわらず、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化が予想より少なかったのは特筆に値します」「今回の研究結果はデルタ型コロナウイルスがヒトからヒトへの感染能力を獲得する可能性があることを明らかにしただけでなく、このようなウイルスへの感染がSARS-CoV-2など他のコロナウイルスに対する既存の免疫力の発達に対して果たす役割についても、議論を提起するものです」と述べました。