だとすれば、ナ・サンホより永井謙佑をここで起用した方が面白かった。それに小川の攻撃参加が加われば、仲川の平均的なポジションを10m以上、下げることはできたはずである。

 長谷川監督がなによりすべきことは、「おっ、いつものFC東京とは全然違うぞ」と、スタンドの観衆を驚かせることだった。スタンドはほぼ満員。6万3千余人で埋まっていた。観衆の驚きは、横浜の選手にもベンチにも伝播する。もしそこで、仲川が守備に追われる時間が続けば、スタジアム全体は「おやっ」としたムードに支配されたに違いない。横浜の選手が、違和感を覚えながらプレーすれば、ミスは起きやすくなる。

 長谷川監督は試合後「相手を0点に抑え、4点を奪うサッカーを狙った」と語ったが、そこに間違いがあったように思う。ここで相手を0に抑える必要は何もない。4点差で勝てばいいのだ。5-1でも6-2でも構わないのである。点を奪うことを第一に考えなければいけない状況下で、失点0を重視すれば、肝心の攻撃にブレーキを踏むことになる。観衆を驚かすことはできないのである。

 FC東京はどれほど攻撃的に行けるか。これが焦点だったにもかかわらず、長谷川監督は常識的な戦いをした。FC東京サポーターは、前半の早い段階で、そのけっして攻撃的ではない戦いぶりに、ブーイングを飛ばしているべきではなかったか。

 横浜らしさはGK朴一圭が退場になり10人になってからむしろ鮮明になった。その4-2-3-1は4-2-3に変化した。4-3-2ではなく、10人になってもなお両ウイングを残し、サイド攻撃を貫こうとした。4-2-3にはその強い意志が凝縮されていた。最終ラインの位置も高かった。11人の時よりもと言いたくなるほど、である。

 横浜の優勝は、攻撃的サッカーが効率的サッカーであることを証明したことに意義がある。ともすると堅守速攻の方が現実的かつ効率的に聞こえがちな日本のサッカー界に一石を投じる、模範的で価値の高い横浜の優勝と言いたくなる。

 監督が代わっても横浜はこのサッカーを貫けるか。蛇足ながら、もし貫くことができれば、僕は密かに横浜の隠れファンになるかもしれない。