後ろから蹴ってはいけない…/原ゆみこのマドリッド

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「全勝なんて幸先いいじゃない」そんな風に私が感心していたのは月曜日、今季から日本人の加わったリーガ2部のチームが全て開幕戦を白星で飾ったのをスポーツ紙で確認した時のことでした。いやあ、相変わらず家のTVでは有料チャンネルが見られず、近所のバル(スペインの喫茶店兼バー)に通っている自分なんですが、当然、週末は1部のカードが優先されるため、2部の試合が流れているのなんて見たこともなし。

よって、岡崎慎司選手がサンタンデール(スペイン北部のビーチリゾート)遠征に参加しながら、結局、アラブ系オーナーが土曜のラシン戦までに選手の売却を認めなかったため、サラリーキャップの関係でリーガに登録されず、たった9人しかトップチームのメンバーがいなかったにも関わらず、アドリアンのゴールで0-1と勝ったマラガどころか、香川真司選手が先発デビュー。後半35分までプレーしてテネリフェを2-0で下すのに貢献したサラゴサも、柴崎岳選手がフル出場して、デポルティーボがオビエドに3-2と競り勝った試合も見ることはできなかったんですが、実際、1部のマドリッド勢とキックオフ時間がかぶった場合、私の優先順位は決まっていますからね。

おかげで結局、じっくり見ていられたのはレアル・マドリーTVで生中継のあったRMカスティージャのこの夏、最後の親善試合。ブルゴス(2部B)戦で先発、90分間プレーした久保建英選手だけだったんですが、実況アナや解説者から”タケクボ”と呼ばれていた彼は1-1の同点に追いつくバエナのゴールの起点になった程度で、チームは後半、マリオ・ヒラの一発で逆転しながら、オウンゴールとロスタイムのPKゴールにより、3-2で敗戦とはこれ如何に。水曜のクルトゥラル・レオネサ戦に続き、グループこそ違うものの、同じ2部Bのチームに連敗して開幕を迎えるとなれば、ラウール監督もここはちょっと、気を引き締めてかからないといけない?

そんなことはともかく、兄貴分のジダン監督率いるチームの方はどうだったのか、お話ししていくことにすると。いやあ、金曜の練習で太ももを痛め、全治3週間となってしまったアザールの代わりにこのプレシーズン、ずっと放出要員扱いされていたベイルがセルタ戦に先発したのも驚かされたんですが、それより私の目が点になってしまったのは、昨季の最終戦でイエローカードが累積警告枚数に達したカルバハルが1試合出場停止処分でベンチにも入れなかったこと。だってえ、前日の夜にはCSD(スポーツ上級評議会)が、その処分を帳消しにするというサッカー協会の要請を承認したってニュースが大々的に流れていたんですよ。

それが一夜明けてみれば、いきなり競技委員会がそんな恩赦は認めないという話になっていて、もうホント、狐につままれたとしか言いようがないんですが、大丈夫。前半12分にはベイルが敵DFをかわしてゴール前にラストパスを送り、ベンゼマが決めて、マドリーは先制点を奪うことに。ハーフタイム直前、カルバハルの代理をしていた右SBオドリオソラがデニス・スアレスに自陣エリア近くでボールを奪われ、イアゴ・アスパスを経由して、ブライス・メンデスがフィニッシュしたセルタの同点ゴールもVAR(ビデオ審判)がアスパスのオフサイドを告げ、認められず。

しかも「yo estaba en fuera de juego pero el ultimo que toca el balon es Odriozola/ジョ・エスタバ・エン・フエラ・デ・フエゴ・ペロ・エル・ウルティモ・ケ・トカ・エル・バロン・エス・オドリオソラ(自分はオフサイドの位置にいたけど、最後にボールに触ったのはオドリオソラだった)」(アスパス)という意見もあった中でのことだったため、マドリーにはツキもあるんじゃないかと思ったところ…まさか後半、そのVARにより、モドリッチがデニス・スアレスを倒したタックルが相手のアキレス腱に当たっていることが発覚。レッドカードで一発退場となってしまったから、さあ大変!

いやあ、これは今季からの競技規則厳格化の一環で、後でモドリッチも自身のツイッター(https://bit.ly/33CfqRb)で「悪意のないアクションでの退場。Totalmente involuntaria!/トータルメンテ・インボルンタリア(絶対にワザとじゃない)」と抗議していましたが、もう意図的かどうかなんて関係ないんですよね。とにかく後ろからのタックルが相手のアキレス腱に当たったら、即退場というルールになったため、仕方ないんですが、そのおかげでマドリーの逆境に燃えるという、このところ、ずっとご無沙汰になっていた反骨精神が蘇ったと言ったら、言いすぎでしょうか。

ええ、その直後、アラウホの至近距離ヘッドをGKクルトワがparadon(パラドン/スーパーセーブ)で防いだマドリーは16分にはクロースがエリア外から、弾丸ゴールを決め、もう”ディーゼル(昨季、不調が続いた時に元マドリーのドイツ人監督シュスターにディーゼル自動車のようだと揶揄された)”とは呼ばせないという決意を表明すると、10人でもセルタを圧倒。35分には途中出場のルーカス・バスケスが3点目を挙げ、敵の反撃もロスタイム、18歳のカンテラーノ(セルタBの選手)、ロサダが決めた1点だけに留めて、1-3と快勝したとなれば、プレシーズンのあの心配は一体、何だった?

結局、この夏の新戦力はヨビッチが残り10分、ベンゼマの代わりに入っただけで、あとは昨季からいる選手たちで白星スタートを飾ったジダン監督なんですが、試合後はとうとう「Se va a quedar/セ・バ・ケダール(彼は残留する)」とベイルが移籍しないことを明言。その日は出番がなかったものの、ハメス・ロドリゲスも同じで、ベンゼマ、ヨビッチ、ビニシウス、アザールだけではとても埋められない、クリスチアーノ・ロナウド(ユベントス)移籍と共に消えたゴールを補うのに協力することになったようですが、両者とも一流の選手であるのは間違いありませんからね。ネイマール(PSG)獲得に無理して大金を費やすより、2人をおだてて、いい気分でプレーしてもらう方が効率的とジダン監督も遅まきながら、気づいたのは良かったんじゃないでしょうか。

そして土曜の夜は弟分レガネスの開幕戦を見にブタルケに足を運んだ私でしたが、残念ながら、こちらは昇格組のオサスナに負けてしまうことに。ええ、終始、優勢を保っていた彼らだったんですが、後半には3度も得点をオフサイドで認められず、それもブライトワイテのゴールなど、前の前のロサレスのプレーがVARでハンドと判定される間の悪さ。挙句の果てに終了間際にはオスカルのタックルが、やはりVAR判定でレッドカードとなって退場って、おやおや、レガネスはテクノロジーと相性が悪い?

おかげでチミ・アビラ(2部に降格したウエスカから移籍)がエリア外から決めたgolazo(ゴラソ/スーパーゴール)以外、シュートもなかったオサスナに0-1で涙を飲んだんですが、いやいや。だからって、「Para ganar en Primera no sirve jugar bien/パラ・ガナール・エン・プリメーラ・ノー・シルベ・フガール・ビエン(1部で勝つのにいいプレーをすることは役に立たない)」(ペジェグリーニ監督)というのはちょっと言いすぎでは?ブタルケのファンは今季も変わらず、熱い応援をしていましたしね。この日のように攻撃的なサッカーを続けていけば、沢山ゴールを挙げて試合に勝つのも決して夢じゃありませんって。

とはいえ、彼らにとって気の毒なのは今週末には兄貴分のアトレティコをホームに迎えないといけないことで、いや、まあ、ここまで3回あったブタルケでの兄弟ダービーは全て引き分けと、もう1つの弟分、お隣さんのヘタフェとは違い、かなり健闘はしているんですけどね。ただ今季の相手には、ペジェクリーニ監督自慢の堅守を誇る5人DF制でも抑え込めるかわからない才能の塊が入ったため、もしかしたら、地元初勝利は9月の代表戦明けのビジャレアル戦まで待たないといけないかも。

え、そうは言ってもワンダ・メトロポリターノにヘタフェを迎えたアトレティコはプレシーズンマッチの勢いはどこへやら、最後はお馴染みの僅差勝利で終わったんだろうって?まあ、そうなんですけど、それはこの8年間、1勝どころか、1得点も挙げられず、通算30-0というスコアでシメオネ監督のチームに負けていたヘタフェが一念発起。今年こそはと夏の間、守備に磨きをかけてきた上、右サイドは右SBのダミアンとニヨン、左はククレジャとCBカブレラ側面をDFで固めてきたためで、「No le han dejado espacio en el primer tiempo para que él pueda aprovechar su juego/ノー・レ・アン・デハードー・エスパシオ・エン・エル・プリメール・ティエンポ・パラ・ケ・エル・プエダ・アプロベチャール・ス・フエゴ(前半は自分のプレーをするためのスペースをもらえなかった)」とシメオネ監督も言っていた通り、ジョアン・フェリックスに見せ場は回って来ず。

それでもこの夏、優秀な新加入選手は彼だけではないことをワンダのスタンドを埋めたファンに見せつけるかのごとく、23分には2度目のトライでトリピアーが右側からのクロスを成功させ、モラタのヘッドで先制しているとなれば、先週のロドリゴ(バレンシア)移籍騒動にジエゴ・コスタ(この日は出場停止の上、負傷中)とモラタだけではゴール数に不安があるのかと疑った私が間違っていた?その後、いつものように一歩引いたアトレティコはカウンター体制に移行。36分にはトマスを追ったホルヘ・モリーナがモドリッチ同様、意図せず、相手のアキレス腱を踏んでしまい、こちらも一発退場になってしまったのには胸が痛みましたが、だからって、その5分後にロディが立て続けにイエローカードを2枚もらってロッカールーム行きって、まったく、どこまで付き合いがいいんでしょう。

結果、人数はすぐ拮抗、アトレティコは後半もしばらく、せっかく得意の中盤でスタートして、気分良くプレーしていたサウールを左SBに回して凌いでいたんですが、いやあ、ほとばしる才能というのは絶対、どこかで発現するんですね。ええ、それは9分、自陣でサビッチからパスをもらったジョアンがアランバリをcano/カーニョ(股抜きパス)でかわしてドリブルを開始。ファールで止めようとしたファジルも物ともせず、敵エリアに向かって1人で上がって行くんですから、呆気に取られたの何のって。

これでそのまま、ジョアンがシュートを決めていたら、2007年のカンプ・ノウでそれこそヘタフェ相手にゴボウ抜き。今でも名ゴール集に欠かさず入っている、折しも同じ19歳だったメッシの伝説のゴールみたいになっていたんでしょうが、残念ながら、その日はブルーノが当時、ヘタフェを率いていたシュスター監督が自分の選手たちに「蹴ってファールになろうが止めるべき」と苦言を呈していたのを覚えていたか、荒業を実行。ようやくジョアンを倒したものの…いやあ、エリア内ではマズいでしょ。

当然、ペナルティとなり、その日はコスタがいないため、第2キッカーのモラタがPKを蹴ったんですが、GKダビド・ソリアにコースを読まれて失敗。点差を広げることはできなかったものの、ヘタフェの選手たちにハードなファールの洗礼を受けていたジョアンがふくらはぎの痙攣を起こすと、早々に21分にはビトロと交代させてしまう辺り、シメオネ監督もアトレティコにはかつてない才能の持ち主である彼に最大限の心遣いをしている?

幸い、後半からはカブレラを下げ、左SBのラウール・カルネーロを入れて、徐々に攻撃的になってきたヘタフェもいよいよ、ダミアンをアンヘルに代え、最後はエリック・ガジェゴも使って、同点を目指したんですが、アンヘルのシュートがゴールバーを直撃という不運、アトレティコには幸運が。おかげで試合はアトレティコのお家芸、1-0の勝利で終わったんですが、実は記者会見ではボルダラス監督が、「先週金曜には審判の説明会があって、nos dejó bien claro que esta norma entra cuando había intencionalidad/ノス・デホ・ビエン・クラーロ・ケ・エスタ・ノルマ・エントラ・クアンドー・アビア・インテンシオナリダッド(あの規定は意図的なものだった時とはっきり言っていた)」とホルヘ・モリーナの退場について、世間の理解とは矛盾することを訴えて、物議を醸すことに。

一方、アトレティコサイドは「A nosotros nos dijeron que cualquier jugada al talón de Aquiles era roja/ア・ノソトロス・ノス・ディヘロン・ケ・クアルキエル・フガダ・アル・タロン・デ・アキレス・エラ・ロハ(ボクらはアキレス腱へのタックルはどんなものでもレッドカードになると言われた)」(サルール)そうで、実際、各クラブに配られた覚書にもintencionalidad(インテンシオナリダッド/意図的)の文字はないんですよね。こうなると、ヘタフェだけウソを教えられた可能性が高いんですが、そこは例のカルバハルの件でもわかるように、時として、常識では考えられないことが起きるスペイン。

どちらにしてもタックルした選手に訊けば、わざとやったなんて言う人はいないんですから、「これは変えないと、en todos los partidos habrá expulsiones/エン・トードス・ロス・パルティードス・アブラ・エクスプルシオネス(全ての試合で退場者が出る)」(ダビド・ソリア)という恐れはあるものの、ある意味、公平な処置ではないかと。おかげで今週土曜、コリセウム・アルフォンソ・ペレスにアスレティックを迎える試合で38歳アドゥリスと37歳ホルヘ・モリーナの熟年FW対決は見られなくなってしまいましたが、今季はヨーロッパリーグでの挑戦も待っている弟分には早めに初勝利を掴んでもらいたいものです。【マドリッド通信員】 原ゆみこ 南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。