約55年前、東海道新幹線は開業時の時速が210キロメートル。当時は沿線の都市化が進む前で騒音への配慮は二の次とされていた。新幹線は住宅地で70デシベル以下とする騒音基準が設定されている。

 実際は達成が難しく、全新幹線で暫定値の75デシベル以下にする対策を進めてきた。「高速化しなくても風洞実験へのニーズはある。暫定基準である騒音を低減していく義務がある」(同)と話す。

「ALFA-X」到達時間短縮、400km試験も
 JR東日本は5月、北海道新幹線・札幌延伸開業時に投入する新車を念頭にした試験プラットフォーム「ALFA―X」を完成し、時速360キロメートルの走行試験を始めた。

 深沢祐二社長は「到達時間の短縮は必要な要素だ。スピードアップに、しっかり取り組まなければならない」と意義を強調する。

 時速400キロメートルの高速試験も予定する。厳しい気象環境への対応や地震発生時の安全性確保など検証テーマは数ある中、騒音や振動といった環境性能の向上は最重要課題だ。

 ALFA―Xではトンネル突入時の微気圧波抑制効果を狙い、特徴的な2種類の先頭形状を持たせ、検証を進める。先頭ノーズ部を長くすれば効果は高まるが、座席数は減ってしまうため、バランスをどう取るか課題だ。このほか、すでにパンタグラフやブレーキディスクの改善といった騒音低減のターゲットも定まっている。

 高速化に関する基盤技術を磨くため、鉄道総研の果たす役割も大きい。東京国分寺市の国立(くにたち)研究所では、11月完成予定で新棟の建設が進められている。

 高速パンタグラフ試験装置や低騒音列車模型走行試験装置、高速輪軸試験装置といった各種設備を導入して研究体制を充実させていく見通しだ。

 新幹線で営業時速の最速は東北新幹線の一部で時速320キロメートル。JR東はこれを同360キロメートルに引き上げたい考えだ。

 法律で同260キロメートルと設計速度が決められた整備新幹線区間も、国や線路を保有する鉄道建設・運輸施設整備支援機構(鉄道・運輸機構)と調整して高速化を目指す。

 整備新幹線区間は勾配のきつい北陸や九州を除き、カーブなどの路盤は時速360キロメートルにも対応するように建設されている。トンネル出入り口や高架で対策を施し、騒音・振動が抑えられた場合に、高速化は実現できる。

(文=小林広幸)