福島県田村郡三春町にある三春ダム(写真:bigtora / PIXTA)

現在、日本のエネルギーバランスは転換期を迎えていて、再生可能エネルギーの比率を高めようとしているが、さまざまな要因から、開発の速度が上がっていない現実がある。
この状況に風穴を開けるのが水力発電の増強だと、福島水力発電促進会議(「福島県は「再生可能エネルギー」王国を目指す」:参照)の座長である竹村公太郎氏は言う。福島で進行中の水力発電増強の実践を見れば、そのことがよくわかるというのだ。
日本のエネルギー政策にとって水力増強がどんな意味をもつのか、このたび『水力発電が日本を救う ふくしまチャレンジ編』を監修した竹村氏に前回に引き続き詳しく解説してもらった。

急がれる化石燃料からの脱却

再生可能エネルギー(以下、「再エネ」と表記)の開発は日本全体で推進すべき課題です。2016年の時点で、日本の消費した総エネルギーの94%が化石燃料であり、再エネは6%にすぎませんでした。全世界の化石燃料は、このままの消費を続けているとあと50〜60年しかもたないと試算されています。


さらに、今のペースで世界の人口が増えていくと、開発途上国での化石燃料の消費がますます増加し、資源が50年さえもたなくなり、その時期が近付けば、当然、化石燃料は高騰します。今のように日本が化石燃料に依存していれば、経済が破綻しかねません。

そうした事態を避けるには化石燃料への依存から早く脱却することが必要で、そのためにこそ再エネの開発を進めるべきなのですが、いち早くこれをスタートさせたのが福島県です。

福島第一原発の事故で、否応なく目の前の現実としてエネルギー問題と向き合うしかない福島にとって、再生可能エネルギーの開発は復興のシンボルであり、数々の試行錯誤が行われています。

たとえば浜通り地区では、イノベーション・コースト構想が具体化しつつあり、ロボット産業にエネルギー産業も加えてこの地区に展開しようとしています。

エネルギー産業では、浪江町(なみえまち)に太陽光発電や風力発電による電力を活かした水素製造工場が2019年に着工される計画で、その2年後の稼働を目指しています。

さらに、福島全域を再エネ特区にして、福島が再エネの先進県となり、全国に再エネ開発の波を広げようという構想もあります。

このように、今の福島県は日本で最も再エネ開発に積極的だと言えますが、だからこそ、水力発電増強が再エネ開発全体にとって重要な意味を持っていることに気づくことができたのです。

韓国より低いエネルギー自給率8%

一般に、再生可能エネルギーというと地球温暖化対策などエコロジーと結びつけて考えられがちですが、福島水力発電促進会議では再エネが純国産エネルギーだという点に注目しています。

基本的に、エネルギー問題は食料の問題と同様に、日本の生命線です。エネルギーや食料が足りなくなると、日本人の命にかかわるからです。

ところが、日本は世界有数のエネルギー消費国でありながら、エネルギー自給率はわずか8.3%(2016年)にすぎません。OECD35か国中34位(35位はルクセンブルグ)で、お隣の韓国の18.9%(2015年)よりも低い自給率です(資源エネルギー庁「日本のエネルギー2017」)。

日本は、エネルギー資源のほとんどを海外からの輸入に頼っている状況なのです。

エネルギー自給率が1割にも満たないような国が存続していくには、歴史的に見ても大変厳しいと思います。子どもたちの未来のためにも、なんとしても自前のエネルギーを増やしたいところです。

そのときに重要なのが再生可能エネルギーです。再エネは、太陽光発電にしろ風力発電にしろ、日本の国土で電力を発生させますから国産ということになります。つまり、再エネを増やせば、国産エネルギーを増やすことになるわけです。

しかし、太陽光発電や風力発電の場合、ほかの国と比べて日本が恵まれた条件にあるとは言えないようです。

たとえば、太陽光発電の場合、どれだけの日光が太陽光パネルに当たるかで発電効率が変わり、効率がいいほど電力当たりの原価が安くなります。世界的に太陽光発電が盛んになったこともあり、太陽光発電施設の値段は下がっていて、太陽光発電の原価は下がりつつあります。

日本の場合、太陽光発電の1㎾h当たりの原価は20円を超えていて、まだ火力発電や原子力発電に比べれば割高です。その理由は、多雨である日本の気候では雨や曇りの日が多く晴れの日が少ないため、日射量が少ないからです。

ところが、ほとんど雨の降らない乾燥した気候の国では日射量が比較にならないほど多いため、太陽光発電の原価は1㎾h当たりわずか1円と、日本とはケタ違いに安くなるケースもあるのです。 

また、風力発電に関しては、日本の地形は山が多いために陸上の風は山に邪魔をされて弱くなるので発電量が小さく、しかも複雑に風向きを変えるため発電の効率が悪いのです。これに対して、ヨーロッパの場合は比較的に平野部が広く山が少ないですから、陸上の風が邪魔されにくく、風向きも安定しているので効率のいい発電ができます。

さらに、ほとんど全国の海で漁業を行っている日本では、各地の漁業権との調整の問題もあり、陸上よりも有利とされている洋上風力発電の開発は、特に遅れているという現実もあります。

日本の水力発電は2〜3倍に増やせる

このように、世界的に見て太陽光発電や風力発電では不利な日本でも、水力エネルギーに関しては、非常に恵まれた国なのです。

アジアモンスーン地帯にあり多雨であること。山が非常に多いこと。そして、ダムが全国にあること。この3つがそろっている日本では、水力発電が比較的有利な条件にあるからです。

日本のエネルギーミックスでなかなか再生可能エネルギーの割合が増えないのは、水力を増強しようとしないからです。現在、再エネの割合は約15%ですが、その3分の2に当たる9%が水力発電です。つまり、太陽光発電や風力発電などほかの再エネを全部足したものの2倍が水力ということになります。

ところが今、日本のエネルギーミックスでは水力を伸ばそうとはしていません。新規のダムを建設しなくても、日本の既存ダムの潜在的な能力を活用すれば、自然破壊も資金的な無理もなく、水力の発電量を2〜3倍にできるという事実(「21世紀の日本は「ダム」によって救われる!」)をほとんどの人が知らないからです。

仮に、水力を2倍に伸ばして18%にすれば、再エネ全体の割合が一気に24%になります。実際、日本の降雨量やダムの多さを考えれば、2倍程度に伸ばすことは比較的簡単にできるのです。一番条件のいい水力を伸ばさないから日本の再エネも伸びないという点に、もっと多くの人が気づくべきでしょう。

日本の再生可能エネルギーを増やすという国際公約を果たすためにも、また、純国産エネルギーの割合を高めて日本の産業や社会の不安を減らすためにも、ぜひ水力発電を積極的に伸ばすよう、エネルギー政策の転換を進めるべきだというのが、福島水力発電促進会議の結論なのです。