腸腰筋を鍛えてパフォーマンスアップ

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 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 オフシーズンは体力づくりのためにさまざまなランニングを行っていることと思います。野球に必要な体力要素を鍛えるためには技術練習だけではなく、こうしたフィジカルトレーニングも必要不可欠なものです。さて今回はランニングで特に意識したい股関節周辺部の筋肉、特に腸腰(ちょうよう)筋に関するトレーニングやストレッチ方法などについてご紹介したいと思います。

腸腰筋はどのような役割を持つ?

腸腰筋は股関節と骨盤の動きに関与する

 最近、メディアでもよく取り上げられる「腸腰筋」ですが、どのような役割を持つ筋肉なのでしょうか。腸腰筋は主に股関節前部に位置し、背骨から骨盤の前を通って大腿骨の内側につく「大腰筋」と、骨盤から大腿骨の内側に向かってついている「腸骨筋」を総称して「腸腰筋」と呼ぶことが多いようです(中には「小腰筋」を含めるものもあります)。特に大腰筋は上半身と下半身を連結させているため、歩行やランニング動作、姿勢の維持などにとても重要な役割を担っていると言えるでしょう。

 腸腰筋が筋収縮を行うと、脚が上に引き上げられることになります(いわゆる腿上げの動作)。腿上げ動作によって骨盤は立った状態から前傾(体の前面に傾く)状態となり、脊椎の自然なわん曲(アーチ)をつくり出します。一方、腸腰筋が弱ってしまうと骨盤は立った状態から後傾(体の後面に傾く)状態となり、お尻が「落ちた」状態となり、姿勢も猫背のように背中が丸まった状態になってしまいます。骨盤の位置と姿勢を安定させるためにも、腸腰筋は普段から意識してトレーニングを行うようにしましょう。

ランニング動作の要である腸腰筋

 アスリートにとっても腸腰筋を鍛えることは身体の姿勢を安定させ、効率のよい走り方に近づくことになります。また腸腰筋は身体の外側から触れることの出来ない、いわゆる「インナーマッスル」と呼ばれ、より身体の中心部に近いところで姿勢を維持するため、体幹そのものを安定させることにもつながります。

 身体が前後、左右にぶれてしまうとそれを修正するために力のロスが発生しますし、踏み込んだ足が流れないように素早く腿を上げることは、走力の一つである「足の回転数を上げること」につながります(参考記事:走力を高めるための測定とトレーニング)。腸腰筋を鍛えることは速く走るという点でも非常に大切なものなのです。

[page_break:腸腰筋のトレーニングにおける注意点 / 横向きで行うストレッチ]腸腰筋のトレーニングにおける注意点

膝を曲げ伸ばしすることで腸腰筋は鍛えられる

 ランニングにおいて重要な役割を持つ腸腰筋ですが、どのようにトレーニングを行えばよいでしょうか。基本的には股関節を曲げる動作(屈曲)において、鍛えることができます。簡単に行えるものとしては寝転がった状態で腿の曲げ伸ばしを行うこと。身体が安定しないようであれば頭側に補助者を置く、もしくは何か安定したものを手でつかんで支えにすることで、よりトレーニングが行いやすいでしょう。注意して欲しいのはこのときに膝を伸ばした状態で行うこと。

膝を伸ばしたトレーニングは腰に負担をかけやすい

 頻度や回数が少ない場合はさほど影響はありませんが、この動作を繰り返し行っていると背骨がかなり反った状態をつくり出すため、腰を痛めてしまうことがあります。またもともと腰を痛めている選手はこの動作を行わない方がよいでしょう。腸腰筋は膝を曲げた状態でも十分にトレーニングできますので、あえて膝を伸ばす必要性は低いと考えます。

横向きで行うストレッチ

横向きの姿勢で行うとストレッチしやすい

 腸腰筋は姿勢においても大きな影響を及ぼしますので、練習やトレーニング後には必ずストレッチを行うようにしましょう。腸腰筋の柔軟性が低下してしまうと骨盤の動きが不十分となり、背骨が反った状態のままでは特に腰椎に負担をかけやすくなります。横向きに寝転がって太ももの前面をしっかりと伸ばすようにすると、柔軟性を回復させることにつながります。立て膝の状態で行う場合は、膝の下にクッションなどを置き、膝が地面にあたって痛くならないようにするとよいでしょう。

 身体の上半身と下半身をつなぎ、姿勢維持やランニング動作などさまざまな場面で活躍する腸腰筋。正しいトレーニングとストレッチを行い、パフォーマンスアップに役立ててくださいね。

【腸腰筋を鍛えてパフォーマンスアップ】●腸腰筋は主に大腰筋と腸骨筋から成り立つ、太ももの前側にある筋肉群のこと●大腰筋は上半身と下半身を連結し、ランニング動作や姿勢の維持に大きな役割を果たす●腸腰筋は骨盤の動きをコントロールする●腿上げ動作を行うことで腸腰筋は鍛えられる●寝転がって行うトレーニングでは腰痛予防のため膝を曲げて行う●柔軟性が低下しないようトレーニングとともにストレッチを行う

(文=西村 典子)

次回コラム公開は2月15日を予定しております。

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