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もくじ

ー 真の快適性とは?
ー 正しい運転姿勢 腰のあるシート
ー 適切な視界 サスペンション
ー ダンピングコントロール
ー ステアリング ノイズ対策
ー エルゴノミクス エンジン&トランスミッション
ー さらに多くの要素 それでもポイントは4つ
ー 番外編1:快適な思い出
ー 番外編2:忘れられない乗り心地のモデル
ー 番外編3:快適性を求めるなら チェックポイント

真の快適性とは?

運転しようとしているクルマが、「究極のリラックスをお楽しみください」と話しかけてくれば、ビックリすると同時に、少なくともある高級車ブランドにおける快適性の追求というのは、まるでパロディのようになってしまう危険性を秘めていると考えても仕方がない。

このクルマはメルセデス・ベンツSクラスであり、まさに、粘着性をもつ樹脂テープがセロテープと呼ばれるように、いまでは快適性という言葉を象徴する存在だが、この時、最適なマッサージ付きシートの使い方を教えようとしていたのだ。

だが、自動車における快適性というのは何を指しているのだろう? それは単にサイズのたっぷりとしたシートや柔らかなサスペンションといったもの以上のことを言っているのだろうか?

2005年、Sクラスとその直接的なライバルたちを500kmほどのテストに連れ出したことがあったが、その時、誰がステアリングを握っていようと、ベンツに乗ったテスターの心拍数は、平均で他のクルマの時よりも1分間当たり5回少なく、それはフカフカのシートだけが理由ではなかった。

実際、真の快適性を持つクルマというのは、単にそうしたクルマを望む人間が創り出した空想でしかない。感じれば快適であることは分かるが、ではそれはどのようなもので、どうすれば快適さを作り出すことができるのだろうか?

まず、快適なクルマと、ドライバーを安心させてくれるクルマの間には明確な違いがあるということを認識する必要がある。だが、真の快適が実現できれば、その時には、この双方が達成されているはずだ。

正しい運転姿勢 腰のあるシート

ロードテスターのマット・ソーンダースは、真の快適さにとって必要不可欠なのは、「正しい運転姿勢をとることの出来るドライビングポジション」だと言う。

ドライバーは単にクルマのなかで座っているだけではない。つねに重心を移動させ、自らの腕や足を使って操作を行う必要があるのだから、ペダル類がステアリングホイールに対して正しい位置になければ、ドライバーは体を斜めに傾けて座る必要があり、そんな運転環境は決して快適なものだとは言えない。そして、すぐには分からなくても、しばらく運転してみれば、こうした点には必ず気付くだろう。

同様に、ペダルだけでなくステアリングホイールに対しても正しいポジションをとるためには、ステアリングとシートに十分な調整幅が確保されていることも重要だ。

では、調整幅が大きすぎる場合はどうだろう? それも問題だというのはスペシャルエディターのマット・プライアーだ。「あまりにも調整幅が大きすぎる場合、正しいポジションを見つけ出すことができずに、つねにドライビングポジションを調整し続けることになります」と、彼は話している。

そんな状態はもちろん快適とは言えない。では、シートそのものについてはどうだろう? ここでも誤った認識があると、編集責任者のスティーブ・クロプリーは言う。「かつて、特にルノーがそうでしたが、フランス車がこぞって、非常に柔らかいシートを採用した時期がありました。市街地などでは、最初は非常に快適で豪華に感じられますが、ゴルフやパサートといったモデルがはるかにしっかりとしたシートを採用して登場すると、ボディロールがまだ非常に大きかった時代、いかに腰のあるシートのほうが優れているかということに突如気付かされたのです」

さらに、シートが持つ固有振動数とサスペンションのそれとが、完全に別々になるように設計することが必要だとも言う。「もし固有振動数が同じであれば、振動は2倍になります」とクロプリーは話す。「まるでトランポリンに座っているかのように、上下動を繰り返すことになります。ですが、1970年代や80年代生まれのクルマほどではありませんが、こうした問題は、現代のモデルでも時おり見受けられます」

適切な視界 サスペンション

さらに、基本的な要素は他にもある。マクラーレンが快適に思える理由のひとつに、スーパーカーとしては異例とも言えるその視界の良さが上げられるが、個人的には、視界は快適性を左右する基本的な条件であり、太いピラーや、ハガキほどの大きさしかないリアウインドウ、そしてブラインドスポットの多いクルマの運転は決して簡単ではなく、快適さなど感じることはできないだろう。

そして、多くのひとびとが、真の快適性の秘密というのは、サスペンションのセットアップと、その仕事ぶりに大きく左右されると考えている。この点を説明するには、シャシーエンジニアとロードテスターたちの力を借りる必要がある。

おそらく、もっとも多い誤解というのは、サスペンションが柔らかいほど、快適性も増すというものだろう。だが、これはまったく事実ではない。実際には、どのようにサスペンションをコントロールするかの方が、サスペンションのスプリングレートなどよりもはるかに重要であり、それには多くの要素が関係している。

まず、強固なボディ骨格が必要であり、サスペンションが固定されるボディがぐらついたり、振動したりするようであれば、サスペンションも本来の性能を発揮することなど不可能だ。

つまり、世界最高のオーディオシステムでレコーディングを行ったとしても、駄作は駄作でしかないと言うことであり、クルマのボディとサスペンションの関係もまったく同じなのだ。

それでは、素晴らしく堅固なモノコックボディさえあれば、あとはスーパーソフトなスプリングを組み合わせても問題ないのだろうか? 話はそう簡単ではない。

ダンピングコントロール

クルマの乗り心地というものを、プライマリーライドとセカンダリーライドのふたつに分けて考えてみよう。プライマリーライドとは、コーナーや路面不整に出会った際、どの程度そのクルマが一定の姿勢を保つことが出来るかであり、セカンダリーライドとは、衝撃をどれくらい吸収することができるかということを表している。

非常にソフトなサスペンションを持つクルマが、見事なセカンダリーライドを披露する一方で、路面の起伏に出会う度、パッセンジャーはつねに頭を天井に打ち付け、コーナーではまるで泥風呂を楽しんでいるかのようにのたうち回るハメになるのであれば、決して快適だなどとは言えないだろう。

さらに、覚えておいていただきたいのは、サスペンションセッティングを柔らかくすればするほど、そのクルマは荷重に対して敏感になるということだ。

初代レクサスLS400が、4人と荷物を満載し、起伏の激しい道に差し掛かるまでは、素晴らしい乗り心地を味わわせてくれたことをよく覚えているが、荷重が掛かった状態では、このクルマのロールやうねり、特にピッチングはほとんど我慢できないレベルだった。クロプリーは、「すべてのボディの動きのなかで、ピッチングがもっとも我慢ならないものです」と話している。

対照的に、鏡のような路面でもなければ、ベントレー・コンチネンタルTのセカンダリーライドは褒められたものではなかったが、それでも、ペースをはるかに上げると、いまや残念ながら再舗装をされてしまったものの、かつては酷い路面で乗り心地の評価には最適だった道で、まったく縦方向の動きを感じさせることなく、前へと進んでいったこともハッキリと覚えている。

現代において、本物の素晴らしい乗り心地を達成するための最善の方法とは、強固なボディに、非常にしなやかなスプリングを組み合わせ、減衰力によってそれらをコントロールすることだが、電子制御式ダンパーの登場によって、いまやこうしたコントロールは非常に簡単であり、現行アストン マーティンDB11は、アストン史上もっとも柔らかいスプリングを採用しているにもかかわらず、見事なボディの動きを披露する。

ステアリング ノイズ対策

ほとんど注目されていないが、ステアリングも快適性に大きな影響を及ぼしている。クイック過ぎるステアリングはクルマをナーバスに感じさせ、逆にレシオが低すぎれば、ドライバーには必要以上のステアリング操作が求められる。

可変レシオであれば、直線状態ではステアリングのレシオを落としつつ、センター以外のポジションではクイックな特性を与えることで、よりそのクルマを機敏に感じさせることが可能であり、素晴らしいアイデアに思えるが、セッティングを間違えば、単にそのクルマのステアリングは一定ではないということになってしまう。

同じく、路面の状況を正確に伝えてくるステアリングであれば、安心感を得ることができるが、それが、キックバックのような形で現れると、まったく快適さを感じるどころの話ではない。

さらに、ボディ骨格やサスペンション、ドライビングポジション、シート、さらには視界といったものに注意を払えば、それだけで快適性が実現出来るということでもなく、そこに近づいたわけでもないというのだから、クルマの設計というのは難しい。

ソーンダースは、「ウインドノイズとサスペンションノイズの適切な処理」が、彼にとっては重要だと言い、クロプリーはさらに突っ込んだ見解を持っている。「ノイズが快適性にもたらす影響は非常に大きく、同じような道を同じような速度で走ったとしても、そのどちらかでイヤープラグをしていれば、そちらのほうがよりスムーズな乗り心地に感じられます。同じような理由から、個人的には、ウインドノイズとロードノイズというものは、快適性にとっての敵であり、特にポルシェがそうですが、なぜドイツのメーカーのなかに、ロードノイズに注意を払わないところがあるのか不思議でなりません」

だが、問題の解決がそれほど簡単ではないとしても、まさに同じ理由から、わたしは非常に洗練されたキャビンを持つ最新鋭の飛行機の中で、眠ることが出来ないでいるのであり、非常に静かな航空機内で、他のパッセンジャーが発するいびきを聞かされるよりも、ある一定レベルの騒音に囲まれていた方が落ち着くのだ。

同じように、初めてロールス・ロイス・ファントムに乗ったとき、あまりの車内の静かさに聞こえて来たのはタイヤノイズだけであり、しかもそれが並走する他の車両が発するものだったことに気付くまでに、しばらく時間が掛ったことを覚えている・・・

エルゴノミクス エンジン&トランスミッション

マット・プライアーは、快適性に影響を及ぼす重要な要素として、さらなる点を指摘している。「エルゴノミクスは非常に重要です。すべてをタッチスクリーンで操作するようなことは快適性には逆効果であり、複雑すぎる電子制御システムも同様です。いま。プジョー508に乗っていますが、毎回乗り込むたびにレーンキープアシストをオフにする必要があり、つねにディスプレーにはオレンジのライトが点灯しています。さらに、エアコンもタッチスクリーンから操作する必要があるため、最低でも3回は視線を進路から外す必要があります。つまり、このクルマは簡単に運転することのできるオートマティックモデルでありながら、煩わしい操作が必要とされるのです」

彼の見解は正しいだろう。いまでは極めて「ふつう」で、よく考えられたフォルクスワーゲン・ゴルフのようなクルマでさえ、その電子制御の複雑さは、ドライバーをまごつかせるに十分なものであり、ドライバーは1t以上もある鉄の塊を安全に運転しながら、何層にも分かれた複雑なメニューを、不慣れな指先でタッチ操作する必要がある。

つまり、この拡大の一途を辿るTFTスクリーンだが、決して車内エンターテインメントやコミュニケーション、そしてインフォメーション技術の未来にはなり得ないかも知れないと考えるのは、単に指紋で汚れるだけ以上の理由があるのだ。

そして、パワートレインも重要な要素となる。トルク特性がそのクルマの快適性を大きく左右しており、アクセルペダルへの入力に対して、素早く正確なレスポンスが得られれば、ドライバーは大きな満足を感じるのだから、こうした特性を持たないことは、現代の小排気量ターボエンジンにおける数少ない欠点のひとつと言えるだろう。

さらに、エンジンの出力特性とギアレシオがマッチしていることも重要であり、ギアボックスとの調和が求められる。出来損ないのプログラムやトルク不足、またはその双方によって、つねに最適なギアを探し回っていたりすれば、快適性など台無しだろう。

さらに多くの要素 それでもポイントは4つ

快適性を左右する要素はまだほかにもあり、どれもが欠くことの出来ないものだ。そのクルマは十分な安全性を確保しているだろうか? 事故の際にもパッセンジャーを守ってくれるかどうか、つねに考えていなければならないクルマなど、決して快適とは言えないだろう

高級ブランドのモデルだろうか? 決して科学的ではないが、同じような2台があったとして、一方が大衆車ブランド、他方がプレミアムブランドのモデルだとすれば、後者に乗っているときのほうがより快適に感じられるはずだ。どちらが正しいとかではなく、これは事実なのだ。

結局のところ、こうした些細なことすべてが、そのクルマの快適性に影響を及ぼしており、どれが欠けても、全体としての快適性を台無しにしてしまう。

ダッシュボードからの太陽光の反射や、せっかく拡大したナビ画面が数秒後にはもとに戻ってしまったりすれば気になるだろうか? クラッチペダルの横には、快適に左足を休ませるスペースが確保されているだろうか?

B級路に入った途端にデジタルラジオが途切れたりしないだろうか? エアコンは足元が涼しく、顔の廻りが温かくなっているだろうか? そして、ディーゼルモデルであれば、寒い朝にどれほど早くキャビンを温めることができるだろう?

カップホルダーの数は十分で、相応しいサイズを備え、0.2G以上の加速度でコーナーに突っ込んでも、コーヒーがこぼれたりはしないだろうか? オート切替え式ヘッドライトは、ドライバーの意志どおりに切替えを行い、他のクルマのドライバーをイライラさせたりはしないだろうか?

駐車する度に、縁石を気にしなければならないような薄いタイヤを履いていないだろうか? 運転する度に他のドライバーの注目を浴び、つねに追い掛け回されるようなクルマに乗っていないだろうか?

すべてが快適性に影響を及ぼしている。それでも、個人的には、適切なドライビングポジションと、見やすい計器類、シンプルなエルゴノミクスとそれなりの視界が確保されていれば、他は諦めることができるだろう。これは、スプリングやシートの柔らかさのように、あくまで個人的な優先事項でしかないが、それでも、こうした点で満足できなければ、決して快適さを得ることなど出来ないのだから、「究極のリラックス」など二の次だ。

番外編1:快適な思い出

スティーブ・クロプリー

「初めてシトロエンGSを運転したときのことは忘れません。それまで、どんなクルマにもピッチングは付き物だと考えていましたが、GSはまるでホイールベースが10mもあるように感じさせてくれました。未だ新鮮さを失わないスタイリング(20年前、他のモデルに先駆けてまるで宝石のようなカッティングのヘッドライトを採用していた)といい、まさに特別なモデルでした」

マット・ソーンダース

「2008年、新型ロータス・エヴォーラについての記事を書くため、このクルマでヘーゼルへと向かいました。非常にしなやかな乗り心地と、見事なレスポンスを見せるダンピングによって、ボディの動きをコントロールするのが非常に簡単でしたが、このクルマのサスペンションは、その後に登場する派生モデルはもとより、スーパーチャージャーモデル向けの改良を受ける前の状態だったのです。そのままビン詰めにして、見本として保管しておきたいとさえ思いました。それほど素晴らしい出来栄えでした」

アンドリュー・フランケル

「昨年、新型ベントレー・コンチネンタルGTで24時間のうちに2300kmほどを走破する旅を経験しました。そして、その旅でもっとも印象に残ったのは、15カ国を訪問したことでもなければ、驚くべきこのクルマのパフォーマンスでも、驚異的なテクノロジーの数々でもなく、そのシートだったのです。一昼夜をともに過ごし、そのほとんどが運転席でしたが、わずかな体の痛みすら感じることはありませんでした。まさに本物の快適さです」

マット・プライアー

「数年前、フォード・フォーカスRSとの比較試乗を行うべく、ゴルフRでスペインへと向かいました。2日間で到着する必要があったので、早朝に出発し、疲れたらそこで1泊することにしたのです。もちろん、ゴルフが快適性を重視していることは知っていましたが、それでも、1500kmも喜んでドライバーズシートに座っていられたとは驚きでした」

番外編2:忘れられない乗り心地のモデル

ワースト編

1:2012年 シトロエンDS5

2:2002年 アウディA8

3:1992年 ポルシェ911 (964) RS

4:2019年 スズキ・ジムニー

5:2015 年 ホンダ・シビック・タイプR

ベスト編

1:2018年 メルセデス・ベンツS500

2:1995年 マクラーレンF1(一度でも乗ってみたら)

3:1958年 シトロエン2CV

4:2011年 マクラーレンMP4-12C

5:1968年 ジャガーXJ6

6:2003年 ロールス・ロイス・ファントム

7:2018年 ベントレー・コンチネンタルGT

8:2001年 レンジローバー

9:1996年 ロータス・エリーゼ

10:2002年 マイバッハ62

番外編3:快適性を求めるなら チェックポイント

1:ほぼ理想に近いドライビングポジション
2:慎重に検討されたエルゴノミクス
3:妥協のないボディコントロール
4:サポート性に優れたシート
5:高速安定性
6:リニアなステアリングレスポンス
7:適切なウインド/ロードノイズ管理
8:全方位に渡る良好な視界
9:素直なエンジン出力特性
10:適切な乗降性