全世界で5千万枚以上のセールスを記録しているカナダ発のモンスター・バンド、ニッケルバック。彼らはここ日本でも強固なファンベースを築き上げ、昨年発売されたニュー・アルバム『フィード・ザ・マシーン』は自らの原点に立ち返ったハード路線の楽曲で挑み、多くのリスナーを狂喜乱舞させた。来年2月には自身二度目になる日本武道館を含む3公演を発表されたこともあり、首を長くして待っている人も多いだろう。今回はバンドを代表して、マイク・クルーガー(Ba/Cho)に話を聞いた。

―新作『フィード・ザ・マシーン』に伴うツアーは地元カナダはもちろん、アメリカ、ヨーロッパーと回っていますが、各地のリアクションはどうですか?

マイク:そうだね。今年はサマーソニックで日本にも行ったしね。日本は大好きな場所なんだ。いつも楽しく演奏させてもらっている。

―新作『フィード・ザ・マシーン』の内容に関しては、どんな反応があなたの耳に届いていますか?

マイク:すごくいいと思うよ。俺たちは満足している。今回は意図的にラジオでウケる曲とかそういうのは一切考えずに、シンプルにロック・アルバムを作ろうと考えていたんだ。結果的にラジオでも流してもらえそうな曲もいくつか出来たけど、俺たちはソリッドでストレートなロック・アルバムを目指したからね。どうやらそれが理解されたようで、反応もすごくいいし、俺たちの選択を支持してくれているように感じるよ。

―オーディエンスの盛り上がりを想像しながら、制作に臨んだ部分もありますか?

マイク:それは今回に限らないが、曲のスピードやテンポ感については、その選び方でオーディエンスの反応や動き方が変わってくるのは俺たちは経験上知っているからね。だから、こういうテンポの曲だと、こんなノリになるだろうなと想像することはある。でも今回は先読みするよりも、とにかく自分たちのルーツ、つまりはハードロックに立ち返ろうという意図がまずあったんだ。長年の間に俺たちも様々なサウンドやスタイルを探訪してきて、今だからわかる自分たちらしさが見えてきたように思うしね(笑) 。そもそも、そういうところから始まったんだよな、ということを今回のアルバムで再確認したよ。

―ルーツ回帰の意識はあったんですね。音楽的にもスタンス的にも初心を振り返る必要性があったと?

マイク:そうだね。俺たちは自分たちの出所を忘れたことはないし、それを否定したこともないからさ。ただ、原点回帰と言ってしまうと、そういう言い方を好まない人がいるだろうし、それは常に前に進んでいなければいけないという思いからくると思うんだけど。だって、後ろを向きながら前に進むのは難しいからね(笑)。でも今回の俺たちは、20年前の自分たちに戻ろうとしたわけではない。当時の自分たちに敬意を表しつつ、そこに今の俺たちの姿を投影させたと言うべきなのかな。20歳若返るわけにはいかないけれど、あの頃のような音楽を今の俺たちがやったらどうなるのか。アルバムを9枚も作ってきたバンドがやったらどうなるのか、試してみたかったんだ。

―実際に新作の楽曲をライブでプレイして、オーディエンスの反応はいかがですか?

マイク:それが……これはニッケルバックの嬉しい悩みなんだが(苦笑)、新作の楽曲をセットリストに組み込もうとすると、毎回既に外せない楽曲でリストがいっぱいになってしまっていて、どれを追い出すわけにもいかなくてね。

―なるほど(笑)。それは各地のセットリストをチェックして、おそらくそうなんだろうなと感じました。

マイク:贅沢な悩みだがね。なので、新作からはせいぜい2曲ぐらいしかやれないのが現状なんだ。それくらいにしておかないと、みんなが知っている、聴くのを楽しみにしているヒット曲が入らなくなってしまう。まあ、そういう悩みを抱えるアーティストは結構いると思うんだけどね。みんながライブに足を運んでくれる理由の一つに既存のヒット曲を聴きたいという気持ちがあるわけだから、それを軽んじるわけにはいかないんだ。だから、新曲は紹介程度に止めて、バランスを取っているつもりだよ。

―今回のツアーはほぼ新作の冒頭曲「フィード・ザ・マシーン」で幕を開けいましたが、途中から「ミリオン・マイルズ・アン・アワー」に変更した公演もありましたよね?

マイク:ああ、その通りさ。まさにそれが今話した嬉しい悩みの結末だよ(苦笑)。

―あなたがライブでプレイしてみたい新曲を挙げると?

マイク:「フィード・ザ・マシーン」はもっとやりたいね。「コイン・フォー・ザ・フェリーマン」もいいな。あと「ソング・オン・ファイアー」も好きなんだ。あの曲も評判がいいからライブでやったら喜ばれるかもしれない。その辺の曲が俺個人としてはかなり気に入っているよ。

―来年の日本公演でもその辺の楽曲も聴けるかも、ですね。

マイク:俺たちは極めて行き当たりばったりのバンドだからね(笑)。先々のことまで考えたり、決めることをしないんだ。それどころか、たぶん大阪の初日の幕が開く直前まで、その日のセットリストを書き出すことすらしないと思う。

―そうなんですね!

マイク:ああ、そうなんだ(笑)。 更には俺はそれを先頭切って決める人間ではないからね。

―それでもライブで即対応できるのは凄いことだと思います。

マイク:そうだね。実際によくあるんだよ、驚かされることは(笑)。

―では、ここで新作の原点にあるヘヴィでアグレッシヴな音の出所について少し教えてください。影響された受けたアーティストはどの辺になるんでしょう?

マイク:最初はブラック・サバス、ジューダス・プリースト、そして、メガデス、メタリカ、アンスラックス……当然ながらスレイヤーも聴いていた。自分で音楽をやろうと決める前から聴いていたのが、そういう音楽だったからね。

―王道メタルからスラッシュ・メタル四天王までガッツリ通ってるんですね! その後はどういう風に変わっていったんですか。

マイク:色々変わったよ。特に子供ができてから、彼らの影響で音楽の幅は広がったかもしれない。今となっては2人の子供がどちらもミュージシャンでシンガーソングライターをやっているんだけど、知らなかった音楽を彼らに教えられたり、俺が彼らに教えて、気に入ってもらえなかったりとかね(笑) 。そういえば、ビートルズを子供達に聴かせときに最初はピンと来なかったみたいだけど、理解されるまであの手この手で聴かせるうちに、やっと良さをわかってもらえた。ビーチ・ボーイズもそうだったな。同時に、俺自身もその辺に改めて興味を持って聴き直してみたりしてね。かと思えば、娘が放っておいても興味を示したのがピンク・フロイドなんだ。あれは意外だった。何がきっかけだったのかもわからないんだけどね。でも俺としては大歓迎だ。何しろピンク・フロイドは俺が一番最初にハマったバンドだからね。当時の俺は今の娘たちよりも若かった。13歳とか、そんなもんだろう。俺の人生に多大な影響を与えたバンドだね。

―ヘヴィ・メタルよりも前に、プログレッシヴ・ロックの方を先に聴いていたんですね?

マイク:まあ、そうだね。同じくらいかもしれないけど。振り返って自分の音楽観の形成に大きな影響を与えたという思えるのはピンク・フロイドだな。


マイク・クルーガー (Photo by Richard Beland)

―逆にお子さんたちから教わった最近の音楽というと?

マイク:う〜ん、アークティック・モンキーズをだいぶ前に子供達に聴かせたことがあって、当時は俺もあのバンドをすごく気に入って聴いていたんだけど、それからしばらくご無沙汰していたところ、彼らの新作『トランクイリティ・ベース・ホテル・アンド・カジノ』が出た時、逆に子供達から教えられて聴いてみたら、これが最高だったんだ。今でも最近のアルバムの中では大好きな1枚だ。実は俺のロサンゼルスの家はハリウッドボウルのすぐ近くだから、この前、アークティック・モンキーズがそこでライブをやった時もみんなで歩いてライブに観に行ったからね。

―ちなみに、あなたの住むエリアは山火事の心配はなかったんですか?

マイク:俺がいる辺りは火事の心配はなかった。友達もみんな心配して連絡をくれたけど、幸いこの辺りは大丈夫だった。燃えているエリアからはかなり距離があったからね。しかし、すごいことになっているよね。自宅を失う人が続出していて、本当にひどい有様だよ。

―話を戻しますが、現在のアメリカの音楽シーンについて、あなたの率直な感想を教えてもらえますか?

マイク:今、ポピュラーなものも5年後には恐らくそうではなくなる。そういうサイクルが綿々と続いていくように見えるんだ。だから、ロックファンの諸君にはとりあえずイイ子で待っていろ、としか言えないな(笑)。 そのうちまたきっと、好みの音楽が戻ってくるから。今までもずっとそうだった。エルヴィス・プレスリーがロックンロールを生み出してからというもの、立ち消えることなく何度も復活してきた音楽なんだから。

Photo by Richard Beland

―その中でニッケルバックは23年間バンドを続けてきました。もちろん苦労はあったと思いますが、振り返って、あの時は本当に危なかった、解散の危機だった、みたいな瞬間はありますか?

マイク:そんな瞬間はたくさんあるよ(笑)。特に最初の頃なんて、その繰り返しだった。果たして自分たちが正しい方向に進んでいるのか、そもそもやっていることが正しいのか、わからないままとにかく前進し続けるしかなかったからね。願わくば、この方向で合っていますように、みんなが気に入ってくれますように、と願うしかなかった。どんなバンドに聞いても……長く続けているバンドは同じことを言うんじゃないかな。何度も辞めようと思った、と。特に最初の5年ぐらいはキツかったよ。

―辛い時期を乗り越えて、前身し続けることでバンドが好転する瞬間が訪れるわけですよね?

マイク:ああ、そうなったね。俺たちの場合は、ありがたいことに成功がついてきてくれたからね。バンドを続けていく上でも大きな自信がついたからさ。良い反応が返ってくると、それだけでバンドをやるための理由にも繋がる。「ハウ・ユー・リマインド・ミー」でいい反応を得られたことで、ものすごく後押しになったからね。これでいいんだ、と思えたから。あと、歳を重ねるに従ってお互いの折り合いのつけ方がわかってきた、というのもある。バンドの解散には2つの理由がある。ひとつは売れない。もうひとつは仲が悪い。両方揃えば解散まっしぐらさ(笑)。

―兄弟バンドとしては奇跡の成功例ではないですか(笑)。

マイク:別に調査したわけじゃないから証拠はないけど、兄弟で仲が悪いバンドというのは多くの場合、そう仕向けられているところもあるんじゃないかな。レーベルとか、プロモーターとか、そういう人たちの大好物なんだよ、その手の話題は。世間もドラマチックな話が好きだしね。そういえば一度……あれは確か、俺たちの曲が思うようにチャートに上がらないとか、レコードが苦戦しているとか、ちょっと理由は忘れてしまったが、とにかく状況を打開するために、レーベルの人間が俺とチャドに公衆の面前で喧嘩しろと提案してきたことがあったな。

―えっ、そんなことがあったんですか!?

マイク:ああ、笑えるだろう?  そうやって騒ぎを起こせ、と。みんなが見ているところでおおっぴらに喧嘩すれば話題になって、それに乗っかってレコードをプロモーションする機会も増えるだろうと。それを電話で提案された時の気持ちは今でもはっきり覚えているよ。まず絶句して、その後に発した言葉はここではあえて繰り返したくないので、まあ、丁重にお断りした、ということにしておこう(苦笑)。

―何となく察しがつきます(笑)。

マイク:ある種の侮辱だと俺は感じたんだよ、そんな提案をしてくるなんて。だからうまく反応できなかったのを覚えている。確かに功を奏する可能性もあるだろう。でも俺は嫌だったし、チャドも嫌がっていた。バカげた提案だよ。

―ええ。最後に来年2月に行われる日本公演について話を聞きたいのですが、 2012年以来となる2度目の日本武道館公演を含む3公演を控えてます。前回の武道館公演は覚えてますか?

マイク:もちろん、はっきり覚えているよ。素晴らしい会場なのは認識していたから、そこで演奏できることを本当に嬉しく思った。ロックンロールの会場としては、これ以上望めないくらい優れた会場だと思うよ。日本にまた行けるだけでも嬉しいけど、大好きな日本のファンのみんなとの再会を何よりも楽しみにしているから、是非顔を見せに来てほしいね。

NICKELBACK Japan Tour 2019
2月6日(水)大阪・Zepp Osaka Bayside
2月7日(木)愛知・Zepp Nagoya
2月9日(土)東京・日本武道館
http://creativeman.co.jp/artist/2019/09nickelback/