■ 11月30日

Jリーグでは、11月30日までに来シーズンの契約を更新するか否かを、選手側に通知しなければならない。そのため、それまでの数日間はいろいろな噂や憶測が飛び交って、サポーターはもやもやすることになる。

昨シーズンから移籍のルールが変更となり、Jリーグでも契約期間が満了した選手は移籍金なしで自由にチームを移ることが出来るようになった。世界のルールに合わせた変更であり、選手にとっては「移籍の自由」が認められる形になったが、現実には、日本代表クラスの若手選手が人気銘柄となって争奪戦となる一方で、峠を過ぎたと思われるベテランや高年俸の選手は容赦なく切られてしまうことが増えてしまっている。

結果として、いい条件で契約できる選手と、そうでない選手との二極化が進んだ。思うような結果を出せなかったビッククラブ、J1から降格するクラブ、J2の下位クラブは、なおさら厳しいものがある。

1996年にJFLのブランメル仙台に加入し、地元の仙台一筋で15年間プレー。先日、今シーズン限りでの現役引退を表明したベガルタ仙台のMF千葉直樹のケースや、同じくJFL時代の大塚FCに加入し、2009年に引退するまで14年間、徳島でプレーして現役を引退したミスター・ヴォルティスのFW片岡功二のケースは例外中の例外。日本代表として数多くの国際試合に出場したDF井原正巳やFW中山雅史といったドーハ組のスター選手も「クラブ一筋」という訳にはいかなかった。

■ 清水と京都

今オフも、不況の影響で、ビッグネームや意外な選手の契約満了の情報が出てきているが、最初に話題になったのが、清水エスパルスである。6年間チームを率いた長谷川健太監督との契約を更新しないことが発表されていて、さらには、GK西部、DF市川、DF青山、MF伊東、FWヨンセンと契約を更新しないことが決定していると伝えられている。GK西部、DF市川、DF青山、MF伊東は日本代表に選ばれた経験のある選手で、GK西部は33試合中31試合に出場しているレギュラーの選手である。その一方で、日本代表のFW岡崎、MF藤本には、他クラブからのオファーが届いているという話も伝わっており、主力級の多くの選手が退団する可能性が出ている。

また、J2降格が決まった京都サンガのFW柳沢敦についても、来シーズン、クラブから契約を更新しないことが発表された。FW柳沢の年俸は推定で6000万円。J2で戦うクラブにとっては重荷となるものであり、今シーズンは30試合で3得点。全盛期と比べると、明らかにキレが落ちていて、同ポジションにFW宮吉拓実という選手がいることを考えると、フロントの判断は妥当と言えば妥当であるが、「引退勧告」とも取れる発言でこじれてしまって、FW柳沢は現役続行を希望。退団することになった。

■ マリノスの騒動?

残念ながら、プロ野球と違って、「3億円の代打要因」とか、「6億円のベンチウォーマー」というポジションはない。そのため、経営の苦しいチームの高給取りのベテラン選手は、「若返り」という名目で戦力外通告を受けることが増えてきている。明らかに戦力になっているにもかかわらず、である。

ただ、斬ってはいけない選手というのも存在する。横浜FマリノスでいうとDF松田直樹という選手がそれに当たる。DF松田は2002年の日韓ワールドカップの日本代表で、全試合に出場した日本サッカー史に残るディフェンダーである。しかも、1995年にマリノスに入団してから、チーム一筋でプレーしてきた。「松田直樹は、マリノスに入団して、マリノスで現役を引退する。」と誰もが思っていた。しかし、非情の戦力外通告。チームに激震が走るのは当然である。

横浜FMには、DF中澤、DF栗原という日本代表のセンターバックがいる。そのため、本職ではないボランチでのプレーが増えてきたが、それでも、今シーズンは18試合に出場している。DF中澤とDF栗原の怪我や、MF小椋の出場停止の影響もあって、ここ9試合は連続でスタメン出場。十分な戦力であるが、戦力外になってしまう。フロントは補強を考えているようであるが、DF中澤とDF栗原がいるチームに、「センターバックで勝負しよう。」という即戦力の選手が加入してくるだろうか?ほとんどゼロといってもいいくらいである。理解に苦しむ選択である。

■ マリノスの騒動?

他に、横浜FMは、MF山瀬功、MF河合、MF清水、FW坂田にも戦力外通告を実施したという。この4人も近年の横浜FMを支えてきた選手であるが、最大の驚きはMF山瀬功の戦力外。ここまで33試合中32試合に出場していて5ゴール。2005年に加入してから、ずっと支えてきた「10番」である。まだ29歳で衰えるような年齢でもない。

ただ、「驚き」ではあったが「予感」がゼロではなった。横浜FMには、MF中村俊輔、MF山瀬功治、MF狩野健太という攻撃的MFが3人もいる。タイプは全く異なるが、基本的ポジションは同じである。

2010年シーズンの直前にエスパニョールからMF中村俊輔を獲得したが、そのとき、どのように3人を共存させるのか?というのが1つの興味の対象となったが、結局、MF山瀬功治はフォワードとして試合に出場することになって、MF狩野はベンチあるいはベンチ外がほとんどとなった。このタイプの選手を同時に起用するとなると、それ相応の能力が指揮官に求められるが、木村監督は1年目の監督でなかなか難しかった。MF中村俊は複数年契約を結んでいる。MF山瀬功を斬るしか仕方がなかったのだろう。

MF中村俊の年俸は1億4000万円で、移籍金は120万ユーロと言われている。かなりの投資をしているが、結局、チームの成績はあまり変わらなかった。サッカーの質が劇的に良くなったという訳でもなかった。MF中村俊の加入によって、それまでの中心だったMF狩野がベンチあるいはベンチ外になってしまったが、2008年や2009年のMF狩野と、2010年のMF中村俊の成績は大きな差はなくて、この時、本当にMF中村俊が必要だったのか?というのは、改めて問われるものである。コストパフォーマンスを考えたら、MF狩野の方がはるかに上である。

もちろん、MF中村俊が入ったことで観客動員アップにつながっており、ピッチ外で貢献していることは間違いないが、そもそも、フロントはどう思っているのだろう?木村監督であれば3人は共存させることができると思っていたのか?MF狩野よりもMF中村俊の方がはるかに上なので、MF中村俊が入れば劇的な変化が生まれると考えていたが、思っていたほどMF中村俊のプレーが冴えなかったというのか?もし、思い通りでなかったのであれば、フロントや監督の責任が問われても仕方がないと思うが、そのような動きはない。

■ 斬り方

よほどの選手でない限り、いつかはチームを去ることになるが、長年、チームに貢献してくれた選手に対する扱いを間違えると、大変なことになってしまう。フロントが、コストパフォーマンスが悪いと判断したらカットすることも必要ではあるが、「斬り方」には最善の注意が必要となる。プロ選手を評価して「契約する・しない」の判断を下しているのであるから、フロントもプロになってほしい。そうでないと、選手が気の毒である。

常々、フロントもチームの一部だと考えているので、いいチームにはいいフロントがいるし、そうでないチームにはレベルの低いフロントしかいないものだと思っていた。が、今の横浜FMを見ると、フロントの対応はひどすぎるように思う。「斬る・斬らない」の判断はもちろんのこと、その過程もメチャクチャになっている。

横浜FMは、清水のMF藤本、清水のDF青山、京都のDF角田、柏のDF小林らの獲得を狙っているというが、果たして、こういうチームに入団したいと思う選手がいるだろうか?

関連エントリー

 2009/12/15  09年 移籍市場の雑感? (都倉賢、エジミウソン、山岸智、森重真人、柏木陽介)
 2009/12/16  09年 移籍市場の雑感? (金崎夢生、荒田智之、河原和寿、パク・チュホ、西大伍)
 2009/12/19  09年 移籍市場の雑感? (萬代宏樹、喜山康平、林陵平、内村圭宏、石井謙伍)
 2009/12/22  09年 移籍市場の雑感? (高木和正、戸田和幸、苔口卓也、南雄太、菊岡拓郎)
 2009/12/25  09年 移籍市場の雑感? (闘莉王、中山雅史、イ・ジョンス、北野貴之、小宮山尊信)
 2009/12/28  09年 移籍市場の雑感? (高橋大輔、上本大海、松下年宏、ボスナー、村上和弘)
 2010/01/08  09年 移籍市場の雑感? (新居辰基、ポポ、播戸竜二、山崎雅人、田代有三)
 2010/01/10  09年 移籍市場の雑感? (ダニルソン、増田誓志、高橋義希、ミシェウ、家長昭博)
 2010/01/24  【J2】 移籍市場 個人別評価 (上)
 2010/02/16  【J2】 移籍市場 個人別評価 (下)