いつまでも若々しくいるために、何をすればいいか。脳内科医の加藤俊徳さんは「毎日の習慣を少し変えるだけで、脳に負荷がかかって鍛えられる。たとえば予算に収まるように計算しながら買い物するだけでもいい」という――。

※本稿は、加藤俊徳『すぐに実践したくなる すごく使える脳科学テクニック』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

■利き手と反対側の手で歯磨きをする

あなたは右利きですか? 左利きですか?

私たちは顔を洗ったり掃除をしたり、といったやり慣れた動作をするときは利き手を主に使います。その際に「手をどう動かせばいいか」なんていちいち考えません。オートマティックにできるからこそ、早く効率的にやり終えることができるのがメリットです。

ただ、脳への刺激という点からみると、利き手でやり慣れた動作を行うことは、あまりプラスの効果はありません。

そこでおすすめしたいのが、利き手と反対側の手で歯磨きをすることです。

右手の動きを司る中枢は、左脳の運動系脳番地の「ノッブ」と呼ばれる領域。反対に、左手の動きを司る中枢は右脳のノッブ。

運動系脳番地のノッブを通過するMRIの脳画像から、右利きの人では左手をあまり使うことがなく、右脳のノッブ領域の発達が小さくなっていることがわかります。そのため、いざ左手を使おうとすると左脳よりも小さな右脳のノッブ領域に大きな負荷がかかることになります。

右利きの人の脳画像。左手のノッブ領域(右脳側)の発達が小さい(『すぐに実践したくなる すごく使える脳科学テクニック』(日本実業出版社)より)

■脳の血流が上がって脳内の酸素量が増える

私たちの調査では、右利きの人が左手で歯を磨くと、通常時のおよそ1.6倍も脳のエネルギーを使う人もいました。エネルギーをたくさん使うということは、脳が活発に働いているということです。

やり慣れた動作でも、利き手と反対の手でやってみることで「こんなに難しいのか」と驚くと思います。その驚きが、脳にとっては新鮮な刺激になるのです。

また、口の中を傷つけないように、できるだけ磨き残しがないように、利き手のときよりも注意深く動かし方を調節しながら歯磨きをすることでしょう。これも運動系脳番地にとって大いに刺激になります。

実は歯磨き自体も、口や舌を動かすために運動系のトレーニングになっています。磨くときは口を大きく開け、舌を大きく動かすようにすると、より効果的。

利き手と反対側の手を使っているときは、脳の血流が上がって脳内の酸素量が増えます。そのため、やる気が出ないときなどのリセットにも有効です。

歯磨き以外にも、食事をする、コピー機のボタンを押すといった利き手に頼りがちな動作で、ぜひ試してみてください。

写真=iStock.com/urbazon
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/urbazon

■年をとっても思い通りに体を動かすには

プロのスポーツ選手を見ると「あんな動きがどうしてできるのだろう」と思わずにはいられません。サッカー選手なら視覚系で空間を把握し、思考系で敵のスキを見極め、運動系で出したい場所にパスを出す、というプロセスが瞬時に脳内で行われています。

一般の人はここまで瞬間的で的確な脳の働きを求められることはないにしても、朝起きて食事をし、身支度をして職場に向かう……生活のすべてにおいて、私たちの脳の中ではほかの脳番地と運動系脳番地が連携して、体を思いどおりに動かしているのです。

残念ながら、年をとるにつれて自分の体が思いどおりに動かなくなってきた、という人は多いのではないでしょうか?

それを年齢のせいだからしかたがない、とあきらめるのはとてももったいないことです。運動系脳番地に負荷をかけてトレーニングをすることで、自分の体を思いどおりに動かせる状態を保つことは可能です。

■歌いながら料理をする“マルチタスク

そのトレーニングとして、簡単でいい方法があります。

それは歌いながら料理をすること。

料理をするときには、食材を食べやすい形状やサイズに切る、食材をフライパンで炒める、調味料を振り入れる、できた料理を皿に盛りつけるといった一連の動きがあります。

それらはすべて運動系脳番地が働いているからできること。ここにちょっとだけ負荷をプラスすることで、運動系をさらに効果的に鍛えることができるのです。その負荷として、「歌いながら」という行動を付け加えるのです。

歌いながら料理をするということは、手と口の両方を動かすことになります。それは運動系にとってマルチタスクを課されているのと同じこと。

また、運動系は常に「次にどういう動作をすればいいか」というプランを立てながら体に動きの指示を出していますが、歌を歌うというアクションをプラスすることで、すでに取り組んでいるプランを立てる仕事にも一定の負荷をかけることになります。

歌を歌おうと歌詞を思い浮かべることは記憶系の刺激にもなり、相乗効果のあるトレーニングです。ただし、思い出すことに必死になりすぎて、手元がおろそかにならないように注意しましょう。

■予算を決めてスーパーで買い物をする

このところの止まらない物価高、頭を悩ませますよね。

月の食費を決めて買い物をしている人は多いと思いますが、実はそれ、節約と同時に脳のトレーニングにもなっていると聞けば、少し気持ちが明るくなるのではないでしょうか。

スーパーに行くときは、その日安く売っているものを中心に買うという人もいるかもしれません。ですが、行き当たりばったりで買うよりは、必要なものだけを買うほうが節約にも脳トレにも効果的です。

まず、冷蔵庫の中にどんな食材が入っているかをチェックしますね。それから何を買い足せば今日の夕飯や明日の朝食がつくれるかを考え、買うべきものをリスト化します。

この「考えて組み立てる=計画を立てる」という行為は、思考系脳番地を働かせることにほかなりません。

仕事帰りにスーパーに直接寄るという人は、買い物前に家の冷蔵庫をチェックできません。でも大丈夫。冷蔵庫の中身を思い出しながら「あれとこれを買えば……」と考えることは、記憶系脳番地と思考系脳番地の両方を使うことになります。

そして買うときは、「今日は2000円以内に収める」など予算を決めて買い物をします。

合計金額を暗算しながら予算内に収まるように商品を選んでいく、という行為は、思考系脳番地を鍛えるのにピッタリなのです。

■小銭で支払うための暗算も脳に良い

このとき、脳番地のトレーニングのためなのでスマホの計算機などは使ってはダメ。頭の中で計算することが大事です。

加藤俊徳『すぐに実践したくなる すごく使える脳科学テクニック』(日本実業出版社)

そして、支払いをするときには、できるだけ小銭をなくすように頭の中で計算して支払いましょう。

たとえば財布の中に5000円札があったとして、買い物の合計金額が1980円だったとします。そのときは5000円札をそのまま出すのではなく、小銭も入れて5080円などで支払うのです。頭の中で暗算していますから、思考系脳番地がしっかり働いています。

最近はカードやバーコード決済など、キャッシュレス決済を利用している人も多く、レジで小銭を数えて支払うという人も減っているようです。2019年にイギリスで行われた研究をはじめ、数字の計算は50歳以降の中高年の認知機能の維持に効果的との報告が増えています。

世の中が便利になる一方で、脳トレが自然にできる機会が減ってしまうのは、ちょっともったいないことだなと思います。

----------
加藤 俊徳(かとう・としのり)
脳内科医、加藤プラチナクリニック院長
新潟県生まれ。医学博士。株式会社「脳の学校」代表。昭和医科大学客員教授。脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニング、助詞強調おんどく法の提唱者。14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。加藤式MRI脳画像診断法を用いて、脳の成長段階、強み弱みを診断し、これまでに1万人以上を治療。著書には、『一生頭がよくなり続ける すごい脳の使い方』(サンマーク出版)、『1万人の脳を見た名医が教える すごい左利き』(ダイヤモンド社)、『悩みのループから解放される!「執着しない脳」のつくり方』(大和書房)などがある。※「脳番地」(登録第5056139 /第5264859)は脳の学校(登録4979714)の登録商標です。
----------

(脳内科医、加藤プラチナクリニック院長 加藤 俊徳)