『魔女の宅急便』/オーイあぶないよ (c)1989 Eiko Kadono/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

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 7月8日からジブリパーク(愛知県)ではじまった新企画展示「パノラマボックス展」。手掛けたのは2023年に公開した「君たちはどう生きるか」が最新作となる宮粼駿監督だ。メディア向けの内覧会で実際に展示を見た印象は「カメラマン泣かせ」。このあまりに緻密な立体展示は、どのような経緯で生まれたのだろうか。メディア向けプレオープンの様子と、宮崎吾朗氏による記者会見の模様をお届けする。

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【写真を見る】月夜の下、山犬にまたがる「サン」が今まさに戦いに赴く様子が緻密に描かれている

映画のワンシーンのような奥行きのある風景

 パノラマボックスとは、の中を覗き込むと絵が描かれていて、映画のワンシーンのような奥行きのある風景が広がって見える「仕掛け」のこと。特徴は、キャラクターや背景画などが別々に描かれ、の中に何層にも分けて配置されていること。

『魔女の宅急便』/オーイあぶないよ (c)1989 Eiko Kadono/Hayao Miyazaki/Studio Ghibli

 この仕組みは、セルアニメーションの制作における「マルチプレーンカメラ」の技法に通じるそうだ。セルと背景画の間隔をあけて重ねた状態で撮影することで、二次元の絵に奥行きを生み出す技法である。

 宮崎駿監督はこのパノラマボックスの制作中、「子どもの頃にパノラマボックスのようなものを夢中になって作った」と話していたそうだ。

 今回、企画展で展示されている作品は全部で31点。その内容は「風の谷のナウシカ」(1984年)や「もののけ姫」(1997年)、「千と千尋の神隠し」(2001年)といったスタジオジブリの名作を題材にしたものから、これまでのジブリ作品では見覚えのない怪獣のような生き物など、実に様々だ。

映画には存在しないシーンやキャラクターが

 企画展が催されているのは、ジブリパーク内「ジブリの大倉庫」の中にある「企画展示室」。

 ピンクのネオンが光る入口から中へと進むと、照明を落とした展示室内に、番号の振られた「窓」が間隔を置いて、奥へ奥へと続いている。

 例えば、9番と書かれた窓をゆっくりと開いてみると、そこに広がるのは「もののけ姫」の世界。月夜の下、山犬にまたがるサンが、ほかの10頭ほどのオオカミたちと、まさにいま戦いに赴くような様子が描かれている。

 しかし、よくよく考えると映画ではモロと2頭の子供以外、犬神は登場しない。つまり映画には存在しないシーンが描かれているのだ。

 そして、そうした傾向は他のパノラマボックスにも。例えば「千と千尋の神隠し」を題材にした作品では、映画では見たことのない神さまが描かれている。

 原作映画にはいないキャラクターが登場することについて、ジブリパークの制作全体を指揮する宮崎吾朗氏は、

「私は宮崎駿じゃないので確かなことは分かりませんが、決して映画そのままを再現しようとはしていないんですよね。作ったときのことを忘れてしまって、どうだったっけと本を引っ張り出したりもしていたようです。今自分が描いておもしろいと思えるものとか、子どもが喜ぶんじゃないかと思うものを、じゃんじゃんと平気で取り入れているんだと思います。最近ますますタガが外れて、かなり自由になってきていますね」

 と語る。原作のポスターなどでは見られない世界観の中で、新たな発見があることは大人のファンにとっても魅力的だ。

苦戦するテレビ局のスタッフたち

 パノラマボックスには、見るものを思わず没入させる工夫がたくさん施されている。糸で吊るされたキャラクターは本当に空を飛んでいるように見えるし、絵を貼り合わせ奥行きを表現しているので、背景にもリアルな立体感がある。

 面白いのは、を覗き込む者の視点の位置によって、目に結ばれる像が刻々と変化すること。右から覗いた時と左から覗いた時では背景が全然違うし、上から見たときと下から見たときでは、立体の印象が異なってくる。

 気が付くと、自分のお気に入りの見え方を探してしまう面白さがあるのだ。

 印象的だったのは、企画展を取材にきたテレビ局のスタッフたちの様子。

「ああでもない、こうでもない」と頭を捻りながら、放送に使う映像の構図を話し合っている。

「もっと立体感を出したいんだけど」
「うーん、もっと引きで撮ってみようか」
「いや、違うか……」

 と苦戦しながら、ついには“いいポジション”を見つけたようだ。

 自分の目で「空間」として捉えると豊かに表情を変えていくパノラマボックスだが、ひとたび「絵」として捉えようとすると、なぜだか急に、動きが静かになってしまう。

 宮粼駿監督がニヤリと笑う様子が目に浮かぶようだった。

宮粼駿監督は今も描き続けている

 85歳になった今も、毎日のようにスタジオジブリに出社し、絵を描き続けているという宮粼駿監督。そのことについて聞かれた宮崎吾朗氏は――。

「うんざりするというか、いい加減にしてほしい感じもありますけど(笑)。ただ、ここまで来たら、もう死ぬまで絵を描いてほしいなと思いますね。今もパノラマボックスのようなものを日々作っているんですよ。からかなりはみ出してしまって大きくなってきているんですが、それでもいいから作り続けてほしいと思っています。次はジブリ美術館で展示したいですね」

 最後に、今後のジブリパークの発展について、どのように考えているかと問われ、このように答えていた。

「発展というのは、必ずしも拡大することじゃないと思うんです。中身を充実させて、ここにあって当然だという形で定着していくことが大事だと思っています。ジブリパークも長く続いているように思えて、まだ3年しかたっていません。これから10年、20年と続いていくことのほうが大事で、そのために質を維持することが私たちの仕事じゃないかと思っています。パノラマボックスもそうですが、作りっぱなしではなく、新しい展示や短編作品を少しずつでも入れていく。そういう努力を続けることですね」

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 新潮QUEで配信の記事【宮崎吾朗が語る60分 いま子どもたちに伝えたいメッセージと「パノラマボックス」を通じた父・駿との“親交”】では、宮粼駿監督の3年半に及んだパノラマボックス制作を通じ、親子の間で交わされた会話などを、さらに詳しく伝えている。

 また、【宮崎吾朗が明かした「ジブリパーク」リニューアルの狙いと「パノラマボックス」「魔女の谷の夜」の秘密】では、この日行われた記者会見で宮崎吾朗氏の語った内容を、さらに詳しくお届けしている。

デイリー新潮編集部