「奈良漬け10切れ食べた」酒気帯び運転容疑の51歳女が否認も「昭和の言い訳じゃねーか」 呼気からは“200切れ分”のアルコール検出
「奈良漬けを10切れほど食べたが、アルコールが残っているとは思わなかった」
6月下旬、福岡県久留米市の市道で車を運転していた51歳の女性が、呼気から基準値の2倍を超えるアルコールが検出されたとして、道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで現行犯逮捕された。
報道によれば、女性は「前日の正午ごろ缶ビールを1本飲んで、1時間くらい前に奈良漬けを10切れほど食べたが、アルコールが残っているとは思わなかった」と容疑を否認しているという。
これを受け、ネット上では「そんな見え透いたウソが通用するとでも思っているのか」「昭和の飲酒運転言い訳じゃねーか」「世の中アルコール分解酵素が極端に少ない人間がいるのだよ」「アルコール分解しにくい体質だったりするかも?」など、さまざまな見方が飛び交った。
飲酒運転の検挙時に「奈良漬けを食べた」という弁解は、時折聞かれることがある。しかし、そもそも基準値を超えている状況で、この主張はどこまで通用するのだろうか。
「基準値の2倍以上」はビール中びん2~3本相当まず、「酒気帯び運転」の法律上の定義を確認する。
道路交通法では、呼気1L中に0.15mg以上のアルコールが検出された場合、「酒気帯び運転」として取り締まりの対象となる。
公益社団法人アルコール健康医学協会によると、ビール中びん1本(500ml)を飲んだ場合、呼気中のアルコール濃度は0.1~0.2mg/Lに相当するという。つまり、ビール中びん1本で基準値に達する可能性があるということである。
今回、逮捕された女性から検出されたのは「基準値の2倍を超えるアルコール」。これは呼気1Lあたり0.3mg以上の数値に相当し、ビール中びん2~3本をしっかり飲んだ時と同程度の状態を意味する。
「0.3mg/L」は奈良漬けで出る数値かでは、この数値を奈良漬けだけで叩き出すことは可能なのだろうか。
前述の通り、呼気1Lあたり0.3mgの濃度を出すには、最低でもビール中びん2本分(1000ml)が必要となる。アルコール度数5%のビールの場合、これを「純アルコール量」に換算すると、ちょうど50mlだ。
奈良漬けのアルコール度数は、日本農林規格(JAS)で「3.5%以上」と定められている。純アルコール50mlをアルコール度数3.5%の奈良漬けで摂取しようとすると、単純計算で「約1.43kg(1430g)」の奈良漬けを食べる必要がある。
奈良漬け1切れを約7gと仮定すると、その枚数は約200切れ以上。市販の一般的なパック(150~200g)を7~8袋分、一気に完食する計算である。塩分も非常に高いため、通常の食事でこの量を摂取することは物理的に不可能と言えるだろう。
ちなみに、奈良漬けの摂取とアルコール濃度の関係については、過去の裁判例でも検証されている。甲府地裁平成21年(2009年)3月13日判決では、市販の奈良漬け100gを食べた被験者(男性)5名の呼気を食後10分ごとに1時間(各6回ずつ)測定した実験において、5名全員からアルコール分は一切検知されなかった(0.00mg/L)という結果が示されている。
また、財団法人交通事故総合分析センターの報告書でも、約50gの奈良漬けを摂取した15名の被験者から、アルコール分は検出されなかったと報告されている。
「アルコールが残っているとは思わなかった」は通用するのか仮に、本件の容疑者が「奈良漬けしか食べていない」と主張し続けた場合、捜査機関はどのように事実を立証するのであろうか。
交通事故案件を多数手がける鷲塚建弥弁護士は、一般的な飲酒運転の捜査について、呼気検査や採血の結果だけでなく、飲酒量・時刻に関する供述、防犯カメラ映像やレシートなどの客観的証拠を組み合わせて判断すると指摘する。
これらの証拠をもとに、ウィドマーク法などの医学的知見を用いて体内アルコール濃度の時間的推移を逆算し、検挙時点での酔いの程度を詳細に検討するのである。飲食店での滞在時間、注文履歴、スマートフォンの位置情報など、客観的な証拠が積み重なることで、「飲酒の事実」は高い精度で判定される。
実際に前述の甲府地裁判決の事案でも、被告人は「奈良漬けを1本食べただけだ」と主張したが、裁判所は「奈良漬けを摂取したことが原因で、被告人の体内から呼気1リットルにつき約0.22ミリグラム程度のアルコールが検出されたなどとは到底考えられず」として、この弁解を退けている。
そして裁判所は、「特段の事情のない限り、アルコール分を含有する飲料を自己の意思で飲むなどして、アルコールを体内に摂取したものと合理的に推認することができる」と判断した。
「酔っていない」という感覚のリスクアルコール健康医学協会は、飲酒が運転に与える影響として以下の点を挙げている。
動体視力が落ち、視野が狭くなる 判断力が低下し、スピードの感覚が鈍る 集中力が低下し、とっさの状況変化に対応できなくなる 運動をつかさどる神経が麻痺し、ハンドル操作やブレーキが遅れる 平衡感覚が乱れ、蛇行運転につながる一般的に、飲酒運転の容疑者は「自分では正常だと思っていた」という主張を口にしがちである。しかし、アルコールには「急性耐性」という作用があり、飲酒を続けるうちに作用に慣れが生じてしまう。
血中アルコール濃度を一定に保った実験では、時間が経つにつれて被験者の「酔いの自覚症状」が薄れていく一方、実際のアルコール濃度は維持されていることが示されている。「酔っていない」という感覚はあくまで主観であり、客観的な濃度とは一致しない。
結局のところ、「奈良漬けを食べただけ」といった弁解は、客観的な数値や証拠の前では通用しない。ドライバーの「酔っていない」という主観的な感覚がいかに強かったとしても、法的な責任を免れる理由にはならないのである。

