北朝鮮ミサイルの新たな脅威、金正恩氏が掲げた「自動化・長距離化・超精密化」の方針から読み解く実戦能力

2026年6月25日、兵器の試験を視察する北朝鮮の金正恩総書記(写真:朝鮮中央通信=共同通信社)
北朝鮮の朝鮮中央通信は2026年6月25日、金正恩朝鮮労働党総書記が前日に実施された兵器試験を視察したと伝えた。
試験では、戦術弾道ミサイルの弾頭、改良型の多連装ロケット砲、155ミリ自走砲などの性能が確認されたとされる。ロイター通信によれば、金正恩氏は韓国方面を想定した火力の近代化に関連し、「自動化」「長距離化」「超精密化」を重視する姿勢を示したという。
朝鮮中央通信は、今回の戦術弾道ミサイルの試験について「敵の飛行場、港湾、電力施設など主要目標に致命的な損害を与える」ことを目的としていると報じた。さらに、射程90kmとされる改良型多連装ロケット砲には、自動精密誘導システムが備わっているとも伝えられている。
「遠くへ飛ばす」から「確実に破壊」へ変貌する北朝鮮の狙い
ここで注目すべきは、北朝鮮が単にミサイルの射程を延ばしているだけではないという点である。
「自動化」は発射準備や指揮統制、誘導制御の効率化を意味し、「長距離化」は攻撃範囲の拡大と発射部隊の生存性向上につながる。「超精密化」は、飛行場、港湾、発電所、指揮所など、相手の継戦能力を支える重要インフラを狙い撃ちにする能力の向上を示している。
つまり、北朝鮮の兵器開発は「遠くへ飛ばす」段階から、「狙った目標を、複数の兵器体系で、より確実に破壊する」段階へ移りつつある。
金正恩氏が「敵に常時不安と恐怖を与えることが戦争抑止力になる」と強調したことも見逃せない。これは、兵器開発を単なる戦力増強にとどめず、発射実験や訓練を通じて能力を誇示し、韓国や米国、日本の意思決定に心理的圧力をかける狙いがあることを示している。
さらに、「配備済みの兵器を改良型へ置き換える」との趣旨の発言は、北朝鮮の兵器開発の重心が、新型兵器の試験だけでなく、改良型兵器の実戦配備や量産、部隊運用の段階へ移りつつあることをうかがわせる。
【2025年】極超音速から自動化へ、5カ年計画最終年の実態
北朝鮮の兵器開発の方向性は、一度の発射実験だけでは見えにくい。複数年にわたる発射実験や軍需産業の動きを時系列でみることで、何が変わりつつあるのかが浮かび上がる。
2025年の北朝鮮の兵器開発では、個別兵器の性能向上、核運用能力の強化、そして生産体制の近代化が目立った。
◇1月:極超音速兵器の能力向上
北朝鮮は1月、新型の中距離極超音速弾道ミサイルの発射実験に成功したと発表した。朝鮮中央通信は、ミサイルがマッハ12で飛行し、約1500km先の目標水域に着弾したと主張した。極超音速兵器は、飛行中の機動によって迎撃を困難にすることが狙いとみられる。

2025年1月7日、北朝鮮の極超音速ミサイルが発射される様子を伝える韓国・聯合ニュース(©Kim Jae-Hwan/SOPA Images via ZUMA Press Wire/共同通信イメージズ)
◇夏〜秋:ミサイル生産体制の近代化
金正恩氏が新たなミサイル生産ラインや製造工程の自動化を視察したと報じられた。これは、新型兵器の研究開発に加え、量産能力と即応態勢の向上を重視していることを示す動きだった。
◇年末:軍需産業の拡充
2025年末には、金正恩氏が軍需工場を相次いで視察し、ミサイル生産の拡大と近代化、関連工場の増設を指示したと伝えられた。これは、2026年以降の新たな国防発展方針を見据えた動きとみられる。
2025年は、2021年の朝鮮労働党第8回大会で示された5カ年国防発展計画の最終年でもあった。同計画では、核兵器の小型・軽量化、戦術核兵器化、極超音速兵器、固体燃料式ICBM、軍事偵察衛星、無人偵察機などが主要課題として掲げられていた。
【2026年1〜4月】新型弾頭で判明した広範囲「面的制圧」の恐怖
2026年に入ると、北朝鮮はそれまでの開発成果を、より実戦的な兵器体系へ反映させる動きを強めている。
◇1〜3月:既存兵器の実戦運用能力を確認
2026年に入ってからも、北朝鮮は1月と3月に短距離弾道ミサイルや大口径多連装ロケットとみられる発射を行い、既存・改良型兵器の機動性や命中精度、部隊運用能力を確認する動きを続けた。
◇4月:弾頭性能の高度化
4月には、改良型「火星11ラ」地対地戦術弾道ミサイルの発射実験が行われたと報じられた。ロイター通信によれば、試験では5発のミサイルが発射され、新型弾頭の威力と性能を評価したとされる。目標区域に対して高密度の打撃を行ったことから、集中制圧攻撃の能力を示す狙いがあったとみられる。

2026年4月19日、北朝鮮のミサイル総局が実施した戦術弾道ミサイルの試射(写真:朝鮮中央通信=共同通信社)
ここで重要なのは、弾頭の種類である。北朝鮮は、クラスター弾頭や破片地雷弾頭に近い散布型弾頭の能力を高めている可能性がある。クラスター弾頭は、一つの弾頭から多数の子弾を広範囲にまき散らすため、飛行場、部隊集結地、防空陣地、港湾施設などを面的に制圧するのに適している。
一方で、不発弾が残れば、戦闘終結後も民間人に長期的な被害を及ぼす。北朝鮮がこうした弾頭を戦術弾道ミサイルに組み合わせようとしているとすれば、それは単なる命中精度の向上ではなく、目標の性格に応じて破壊効果を使い分ける段階に入っていることを意味する。同時に、朝鮮半島有事における民間インフラや都市周辺への被害リスクも高まることになる。

2026年4月19日、改良型地対地戦術弾道ミサイルの試射を参観する金正恩総書記(写真:朝鮮通信=共同通信イメージズ)
【2026年5・6月】AI誘導とウクライナ実戦データ流用の疑惑
◇5月:AI誘導と複合攻撃能力
5月には、戦術弾道ミサイル、長射程多連装ロケット砲、AI誘導型の巡航ミサイルなどを組み合わせた試験が行われた。
ロイター通信によれば、北朝鮮は戦術弾道ミサイルの「特殊任務弾頭」の威力、長距離砲兵ロケットの信頼性、AI誘導型巡航ミサイルの精度を検証したとされる。巡航ミサイルは100km先の目標を攻撃できるとされ、軍事境界線付近からソウルを射程に収める距離である。

2026年5月26日、北朝鮮が行った複数種類のミサイル発射実験を視察する金正恩総書記(左端)(写真:朝鮮中央通信=共同通信社)
注目されるのは、北朝鮮がミサイル誘導にAIを用いたと公表した点である。専門家の間では、北朝鮮がリアルタイムのデータを使って目標を認識・固定する終末誘導技術に踏み込んだ可能性が指摘されている。ただし、その技術水準がどこまで実戦的かは、なお慎重に見る必要がある。
この動きは、ロシア・ウクライナ戦争からの学習効果という観点からも見る必要があるだろう。北朝鮮はロシアに弾薬やミサイルを供給してきたとされ、北朝鮮製の「火星11」系列ミサイルがウクライナで使用されたことも国連制裁監視の報告で指摘されている。

核技術提供でくすぶる疑惑(図:共同通信社)
実戦で使用された兵器は、命中精度、故障率、誘導装置の信頼性、電子戦環境での脆弱性などについて、多くのフィードバックをもたらす。北朝鮮がロシアとの軍事協力を通じてこうしたデータを得ているとすれば、ウクライナ戦争は北朝鮮の兵器改良にとって、事実上の“実戦試験場”となっている可能性がある。
ロイター通信も、最近の北朝鮮の兵器開発について、ロシア・ウクライナ戦争での実戦経験が運用上の改善につながっている可能性に触れている。

2023年9月、首脳会談で握手するロシアのプーチン大統領(右)と北朝鮮の金正恩総書記(写真:タス=共同通信社)
◇6月:兵器開発の方向性を明示
そして6月25日の試験では、「自動化」「長距離化」「超精密化」という方向性が金正恩氏の言葉として明示された。
戦術弾道ミサイルの弾頭、改良型240ミリ24連装ロケット砲、155ミリ自走砲が一体的に示されたことは、北朝鮮がミサイル、ロケット砲、通常火砲を組み合わせ、韓国の軍事・社会インフラを同時多発的に攻撃する能力を高めようとしていることを示している。
2026年に入ってからの一連の試験を時系列でみると、北朝鮮は個別の新型兵器を見せる段階から、誘導技術、弾頭性能、自動化、AI、量産能力を組み合わせ、兵器体系全体を底上げする段階へ進んでいるといえる。
つまり、北朝鮮は量的戦力を維持しながら、精密性、即応性、継戦能力、複合攻撃能力を高める「質的高度化」の段階に入っているのである。
AIとドローンで激変する朝鮮半島の軍事バランス
北朝鮮の兵器開発は、韓国側の防衛態勢にも大きな影響を与えている。
韓国国防部は2026年6月、北朝鮮の脅威に対抗するため、50万人規模の軍人を「ドローン戦士」として訓練し、前線部隊に多数の無人機を配備する方針を示した。ロイター通信によれば、韓国は当初2029年までに11万機のドローンを調達する計画だったが、その後6万機に修正し、2026年には1万1000機を配備する方針だという。
これは、朝鮮半島の軍事バランスが、従来の「砲兵対砲兵」「ミサイル対ミサイル」から、「ミサイル・ロケット砲・ドローン・AI・電子戦」を組み合わせた競争へ移りつつあることを示している。
北朝鮮がAI誘導型の巡航ミサイルや自動精密誘導ロケット砲を誇示すれば、韓国はドローンと対ドローン兵器、AIを活用した監視・攻撃システムで対抗する。韓国側も、レーザー兵器、マイクロ波兵器、AIを用いたスウォーム対処能力などの整備を進めていると報じられている。
この相互作用は、朝鮮半島有事の様相を大きく変える可能性がある。開戦初期には、北朝鮮がミサイルやロケット砲で韓国の飛行場、港湾、指揮所、発電所を狙い、韓国側はドローンや精密火力で北朝鮮の発射拠点や指揮系統を探知・攻撃する。そこにサイバー攻撃や電子戦、衛星・偵察ドローンによる情報戦が重なれば、戦闘のテンポは従来よりはるかに速くなる。
この構図は、日本にとっても他人事ではない。朝鮮半島有事が発生すれば、在日米軍基地、自衛隊基地、港湾、飛行場、燃料施設、通信インフラは、米韓への後方支援拠点となる。北朝鮮が韓国向けに磨いている精密打撃能力は、有事には日本国内の拠点にも向けられる可能性がある。
迎撃だけでは防げない? 日本の重要インフラが抱える脆弱性
これらの兵器の多くは、直接には韓国攻撃を想定したものとみられる。しかし、そこで培われた誘導技術、弾頭技術、自動化技術、複合攻撃の運用ノウハウは、日本を射程に収める弾道ミサイルや巡航ミサイルにも応用される可能性がある。日本の安全保障にとっても、決して無関係ではない。
近年、自衛隊が部隊や装備の分散配置、基地機能の強靱化、重要施設の地下化などを進めている背景にも、中国や北朝鮮が保有する精密誘導兵器の発達がある。航空機、艦艇、弾薬、燃料を一つの拠点に集中させれば、精密攻撃を受けた際の損害は一気に拡大する。
北朝鮮の兵器開発が示しているのは、ミサイル迎撃能力の向上だけでは十分ではないという現実である。
低高度を飛行する巡航ミサイル、変則軌道を描く短距離弾道ミサイル、多連装ロケット砲による飽和攻撃、AI誘導をうたう精密兵器、クラスター弾頭などが組み合わされれば、従来の弾道ミサイル防衛システムだけで完全に対応することは難しくなる。
さらに、北朝鮮がロシア・ウクライナ戦争から実戦的な知見を得ているとすれば、今後の兵器改良は、単なる宣伝目的の実験ではなく、実戦で得られた教訓を反映したものになっていく可能性がある。これは、日本の防衛計画にとっても無視できない変化である。
このため、日本は迎撃能力の強化と並行して、攻撃を受けても機能を維持・回復できる態勢を整える必要がある。具体的には、基地機能の分散、滑走路の迅速な復旧、代替港湾・飛行場の確保、燃料・弾薬の分散備蓄、通信・電力インフラの冗長化など、重要インフラの抗たん性を高めることが不可欠である。
加えて、ドローンや巡航ミサイル、低空侵入目標に対する防空体制の強化も欠かせない。朝鮮半島で進む「ミサイル+ドローン+AI」の競争は、日本の基地防空や重要インフラ防護にも直結するからである。

2026年1月4日、北朝鮮のミサイル発射を受け、記者会見に臨む小泉防衛相(写真:共同通信社)
中国一辺倒の危うさ――北朝鮮が突きつける「質的高度化」の現実
日本では、北朝鮮のミサイル発射について、発射数、飛翔距離、最高高度、落下地点に報道の焦点が集まりがちである。防衛省発表をもとに「日本のEEZ外に落下」「被害情報なし」と報じられることは重要だが、それだけでは北朝鮮の兵器開発がどの方向に進んでいるのかは見えにくい。
一方、日本の防衛政策では、中国の軍事的台頭への対応が大きな柱になっている。台湾有事や南西諸島防衛を巡る議論が重視されるのは当然である。しかし、その陰で、北朝鮮もまた、核・ミサイル戦力と通常戦力を着実に近代化している。
北朝鮮の脅威は、単に「日本に届くミサイルを何発持っているか」という問題ではない。韓国を対象にした短距離兵器であっても、そこに投入される誘導技術、弾頭技術、自動化技術、AI活用、量産体制は、やがて日本向けの中距離・長距離兵器にも転用され得る。
さらに、北朝鮮がクラスター弾頭のような面的制圧兵器を精密誘導ミサイルと組み合わせようとしているのであれば、有事における被害は軍事施設だけにとどまらない。飛行場、港湾、発電所、交通網、通信施設が攻撃対象になれば、民間生活や経済活動にも甚大な影響が及ぶ。ミサイル防衛は軍事問題であると同時に、重要インフラ防護と国民保護の問題でもある。
日本の安全保障政策に求められるのは、中国への対応を進める一方で、北朝鮮による精密打撃能力の高度化も直視することである。迎撃能力、反撃能力、基地・インフラの抗たん性、日米韓の情報共有、サイバー・宇宙領域での警戒監視、ドローン・巡航ミサイル対処能力を一体的に強化しなければならない。
急速に軍拡を進める中国だけでなく、兵器体系全体の高度化を着実に進める北朝鮮にも目を向ける必要がある。2026年の一連の兵器試験は、その現実を改めて突きつけている。

2026年6月25日、主要兵器の試験を視察する金正恩総書記(左端)(写真:新華社/共同通信イメージズ)
筆者:宮田 敦司
