かつらむきを生徒に教える鞍谷浩史さん(右)=島根県海士町

 島根県の隠岐諸島・中ノ島にある海士町には、日本料理を学ぶ大人の「寺子屋」がある。1年間に受け入れる生徒は10人未満。新鮮な日本海の魚や里山で採れる山菜など島の食材のみを使う「島食縛り」の修業に励む。漁業も農業も盛んなこの島で、季節とともに変化する食材から料理を学ぶ、一風変わった学校だ。

 松江市からフェリーに揺られ約3時間。海士町は人口2千人余りの小さな町だ。島南部崎地区のひときわ目立つ真っ白な建物が寺子屋の校舎。東京・丸の内で日本料理店「しち十二候」を営む料理家斎藤章雄さんが「料理人を志す人が生産現場の近くで真剣に学べる場所を」と、料理人減少に悩む同町と共同で創設、2018年度に1期生が入学した。

 1年間で包丁の研ぎ方やかつらむきなどの技術を基礎から学び、田んぼや港といった四季折々の生産現場を訪れて食材の旬を五感で身に付ける。観光スポットの隠岐神社にある食事処で実践経験も積む。これまでの生徒は全員が県外出身で、大学新卒者や社会人経験者など背景はさまざまだ。

 2026年度は県外から20〜40代の男女7人が門をたたいた。4月28日には島の港で、生徒3人がカキの殻の付着物を削り落とす作業を体験。高速で回転する機械の刃で慎重に貝殻を削っていた飯泉丈仁さん(21)は「出荷される物は本当にきれいに削られていてすごい。今回は削り過ぎてしまった」とカキを片手にはにかんだ。

 海士町のキャッチコピーは「ないものはない」。「大事なものは全てここにある」を意味する。寺子屋で講師を務める鞍谷浩史さん(48)は、ある物で工夫をする島の環境は料理の幅を広げると考える。

 「島で手に入る食材は日々変化する」と鞍谷さん。卒業後に環境が変わっても「島での経験が素材を生かす柔軟な発想につながる」と、教え子の活躍に期待している。

日本料理を学ぶ寺子屋の校舎=島根県海士町(島食の寺子屋提供)

カキの殻の付着物を削り落とす生徒たち=島根県海士町

島根県海士町、隠岐諸島