奈良市のカフェ『くるみの木』のオーナーとして知られる石村由起子さん。料理上手の祖母の器づかいや食事の支度を手伝ううちに、自然と美しい器たちに惹(ひ)かれていったそう。ここでは、日々使う器を収納した食器棚と、自由に楽しむ器の使い方のアイデアを紹介します。

※ この記事は『わたしの食器棚』(PHPエディターズ・グループ発刊)より一部抜粋、再構成の上作成しております。

【写真】暮らし上手が愛用する器

大好きな器を眺めて、暮らしを明るく

歳を重ねて夫とふたり、コンパクトに暮らせるようにと住まいを移し、器はつくりつけの棚に入るだけ、後は、必要なときに納戸(なんど)から持ってくればいい。そう思っていたのです。

でも、しばらく暮らすうちに、やはり、目に見えるところに食器棚が欲しくなりました。料理をしながら食器棚を見て、「これはあの器に盛ってみよう」、そういう瞬発力でイメージできることが私には必要だったということです。

器のことは見えなくても頭に入っている、そう思い込んでいましたが、たくさんもっていることもあり、いつもよく使う器は見えるところに置いておきたかったのです。といっても、これしか使わないということではなく、季節ごとに頻繫に入れ替えています。また、よく使うだけでなく、眺めていたい器もそこには入っています。

この食器棚をつくったのは、広島に工房を構える、「さしものかぐたかはし」の高橋雄二さん。地元の木を使い、木と木を組み合わせてつくる「指物」(さしもの)という木工の技術で家具をつくっています。

高橋さんとは、私が空間プロデュースをさせていただいた、滋賀県長浜市の「湖(うみ)のスコーレ」や三重県多気町の施設VISON内にある「くるみの木暮らしの参考室」の家具を依頼したご縁があります。

部屋のサイズに合わせてつくってもらった栗の木の食器棚は、以前からここにあったかのように空間になじみ、なにより使い勝手がよくて気に入っています。

見えないところにたくさんの「指物」の技が施されていて、たとえば、引戸はスーッと開き静かにピタッと閉まる。開閉するたびに、つくり手の腕の確かさを実感します。並んだ器に目が喜び、ガラス戸に映った庭の緑に心が喜び、暮らしと仕事への元気をくれる大切な食器棚なのです。

土の変化が楽しめる、おおおらかさを感じさせる器

器の使い方は自由自在でいいと思っています。スープ皿だからといってスープしか盛ってはいけないということはありません。

たとえば来客の多いわが家では、丹波の石井直人さんの大鉢がいつも大活躍しています。鶏肉と大根やニンジンを炊いたものをどんと盛りつけて出すこともしばしばです。この大鉢をひとまずテーブルに置くだけで、「わーっ」という歓声が上がります。

それだけではなく、スタッフが来たときなどは、うどんを人数分、釜揚げにしてお湯ごとたっぷり、この大鉢に盛って出すこともあります。みんなでわいわい好きなようにうどんを取り、つゆにつけて、ずるずるとすすり上げるのです。大抵は打ち合わせやイベントの後でおなかがペコペコなので、みんなで囲む大鉢の釜揚げうどんは大人気なのです。

ときには、この大きな鉢に砕いた氷を入れ、ワインを冷やして出すこともあります。

石井さんの器は画一化されていない、土の変化が楽しめる器です。遠い遠い原始の、昔からのつくり手を思い出させるようなおおらかさを感じてなりません。

ワインを注ぐためのゴブレットと変型の角皿も一緒に出せば、チーズとドライフルーツだけでもご馳走になります。こういうのを器に助けられるというのかもしれませんね。

たくさんの旅をして、たくさんの本を読み、歴史にも詳しい石井さんがつくり出す器は、プリミティブで知性的です。人生で育んでこられたご経験がそのまま表れた個性あふれる器は、胸に抱きたくなるような懐かしいぬくもりさえ感じられます。

この大鉢やゴブレットで、日本酒をキリッと冷やして楽しむこともあります。