「ストレートが棒球」…大谷翔平や岡本和真が活躍のウラで「実力派のサムライ4投手」が勝てない理由
裏目に…
今年のメジャーリーグは、日本人選手たちの目覚ましい活躍とともにスタートした。昨シーズンに2年連続の世界一を達成したドジャースの大谷翔平(31)は快刀乱麻のピッチングを続け、チームメイトの山本由伸(27)はエースとして安定したパフォーマンスを披露。今季からホワイトソックスに加入した村上宗隆(26)は開幕から本塁打を量産し、ルーキーながらア・リーグのホームラン王争いで堂々の1位を走っている。時を同じくして海を渡ったブルージェイズの岡本和真(29)は、リーグ屈指の強豪のサードに定着し、安定した守備力と力強い打撃が高い評価を得ている。
一方で、世界最高峰の舞台でもがき苦しむ日本人選手がいるのも事実だ。とくに、エンゼルスの菊池雄星(34)、ドジャースの佐々木朗希(24)、メッツの千賀滉大(33)、アストロズの今井達也(28)の4投手は、期待されているようなパフォーマンスを発揮できていない。彼らはいずれもNPBで支配的な投球を披露してきた超一流のピッチャーだが、それでもメジャーで勝てないのは、いったいなぜか。はたして彼らは″ダメジャーリーガー″のまま終わってしまうのか?
今回は、メジャーリーグのマウンドを経験した五十嵐亮太氏、藪恵壹氏の両名によるピッチング分析、および日々メジャーリーグを取材している現地記者たちのレポートをもとに、4投手の「勝てない理由」を分析していきたい。
「今後どうなるかはまだわからない。とにかく待つしかないよ」
エンゼルスのカート・スズキ監督(42)は、4月30日(日本時間、以下同)のホワイトソックス戦で左肩の張りを訴えて降板した菊池について、落胆した様子でコメントした。
「オフには『世界一健康なピッチャーになりたいと常に思っている』とコメントしていただけに、離脱は本人にとってもショックに違いありません。今後は3〜4週間にわたるノースロー調整の後、復帰に向けた練習に取り組む予定です」(スポーツ紙MLB担当記者)
菊池は今季ここまで7試合に登板し、0勝3敗、防御率5.81と安定感を欠いている。五十嵐氏は、″攻め″の姿勢で断行したフォームチェンジが上手くいかなかったのではないかと分析する。
「菊池は今季、フォームをショートアーム(テイクバックをコンパクトにする投げ方)に変更しました。これにより、リリースポイントの安定や、変化球のコントロール向上を狙ったのでしょう。ただ、このフォームは下半身との連動が必要不可欠です。それが上手くいかなければ、上半身の出力を上げて対応するしかありません。結果として肩に負担がかかったり、投球に波が出たりした可能性があります」
菊池の武器は、力強い速球を活(い)かした勢いのある投球だ。しかし、ロサンゼルス現地メディア記者は「菊池がMLB屈指の″理論派″になったことがアダとなった」と話し、こう続ける。
「菊池は年齢を重ねるにつれ、動作解析やラプソードなどの弾道測定器を駆使して調整を行うようになった。膨大なデータや最新の指標を意識しすぎるがあまり、武器だった荒々しさが失われてしまいました。ピッチクロックの制約がある中でもマウンド上で考え込む時間が増えたこともあり、首脳陣は『脳の疲労がメカニクスを狂わせ、ケガや成績不振に繋がったのではないか』と分析しています」
とはいえ、菊池がデータを駆使することでコントロールを向上させてきたのも事実。離脱中に持ち前の荒々しさとのバランスを取り戻せば、メジャー屈指の左腕として返り咲けるに違いない。
球種の余裕、体力の余裕
昨季のポストシーズンでは救援投手としてチームの世界一に貢献したドジャースの佐々木は今季、先発ローテーションの一角を任されているが、ここまで2勝3敗、防御率5.09と物足りない。
「菊池とは対照的に、投球の引き出しの少なさが露呈している」と話すのは、スポーツ紙のMLB西海岸担当記者だ。
「日本では『ストレートが棒球だから打たれる』といった意見が目立ちますが、ドジャース首脳陣はそれよりももっと根源的な課題を指摘しています。すなわち、扱える球種の少なさです。山本はスプリット、カーブ、カット、シンカー、スライダーなどをどれも高いレベルで操れますし、大谷も同様。ところが佐々木は、フォーシームとスプリット、そしてスライダーしか持っていません」
藪氏も、「投球の幅を広げられるかがカギ」と話す。
「スプリットの調子が悪いと、フォーシームをストライクゾーンに投げるしかなくなる。たとえば大谷や山本ならカーブなどを軸とした組み立てに変更できますが、球種が少ない佐々木にはそれができません。NPBで一度もフル回転しないまま渡米したこともあって、マウンド上で不安な表情を浮かべてしまう。
メジャーの打者は心理戦に長(た)けているので、不安が表情に出ると呑まれるんです。また、速球に慣れているので、狙い球さえ絞れれば簡単に打ち返されてしまいます。たとえばチェンジアップのような新球種を研究する必要があるでしょう。とはいえ、5月18日のエンゼルス戦では7回1失点の好投を見せたように、ポテンシャルは超一流。経験を積めば、いずれ結果がついてくるはずです」
’23年のルーキーイヤーには12勝7敗、防御率2.98の活躍で新人王候補にも選ばれたメッツの千賀は、MLBのキャリアを通じてケガに泣かされている。昨季序盤は″ゴーストフォーク″を武器にサイ・ヤング賞級の快投を見せていたが、6月に右太もも裏を痛めて離脱。以降は不安定な投球が続き、今季は5試合に登板して0勝4敗、防御率9.00。さらには4月29日に腰椎の炎症で故障者リスト入りとなった。
「中4日を基本とするメジャーの過酷な環境で身体の脆さが露呈した形です。春先のニューヨークの厳しい寒さが古傷や腰の痛みを悪化させたうえ、日本に比べると乏しい医療体制が精神的な負担にもなっている。硬膜外麻酔注射で炎症を抑えていましたが、ケガをごまかしながら活躍するのはやはり難しい」(スポーツ紙MLB東海岸担当記者)
五十嵐氏は、「万全な状態の千賀は、メジャーでも屈指の好投手」だと評し、こう続ける。
「正直、故障個所が100%元の状態に戻ることは難しいと思います。その傷をかばうために身体がバランスを欠き、ケガの連鎖が続いてしまっている。やはり移動の多さによるダメージは無視できません。私がメジャーにいた際も、最もキツかったのは移動でした。敏感な選手は影響を受けやすく、睡眠不足がケガに繋がるケースも少なくありません」
追いつかない心
今季からアストロズに加入した今井の身体に不調はないというが、メンタル面の調整に苦労しているようで……。
「西武時代から繊細な性格で知られていました。『ドジャースを倒す!』と意気込んでいましたが、日本人選手がおらず、日本人スタッフも少ないテキサスで孤独を感じているのでしょう。そんななかでメジャー特有の硬いマウンドや滑りやすい公式球への対応をしなければならず、日本時代から不安定だった制球に課題が残っています。
本人も認めているようにアメリカのライフスタイルや食事に少しずつ慣れている段階で、投球メカニクス以前に心の安定が待たれます。日本人が多く日本食店も多いロサンゼルスやサンフランシスコ、サンディエゴ、シアトルの球団に入っていれば、早く適応できた気がしますが……」(スポーツ紙デスク)
今井はここまで5試合に登板し、1勝2敗、防御率は8.31。新しい環境へのアジャストに苦労していることは明らかだ。五十嵐氏は、「気持ちはよくわかる」と共感しつつエールを送る。
「私も渡米直後はメジャーの球やアメリカの住環境に慣れるのに時間がかかりました。指先にボールがかかる際のわずかな感覚の違いは、投げ続けて自分で修正するしかありません。それさえできてしまえば、今井らしい力のあるピッチングが復活するでしょう。現状の投球を見ていると、やはりまだボールが抜ける瞬間が多い。地道な修正を重ね、投球感覚を取り戻せば充分に通用するはずです」
4者は雌伏の時を過ごしているが、それぞれの課題が克服された時、大きく飛翔するだろう。
『FRIDAY』2026年6月5・12日合併号より
