■経済界でも「サナエ推し」

最近巷では、「サナ活」なるものが流行っているそうだ。

高市早苗首相が記者会見で使ったボールペンと同じものに注文が殺到し、首相が持っているバッグも飛ぶように売れているという。見学者も立ち寄る国会内の売店では、自民党総裁選の後に発売された「早苗ちゃん饅頭」が一時品切れになった。首相の愛用品や関連グッズを購入して高市首相を応援する「推し活」だから「サナ活」なのである。

「サナ活」だけではない。中高年のビジネスマンの間でもアイドル並みの人気があるらしい。メガバンクで生き馬の目を抜くような金融業界を生き抜いてきた知人が、こんなふうに言っていた。

「高市さんのタカ派みたいなところは好きじゃなかったけど、日本経済を強くするというのには共感しますね。この何十年も日本は成長していない。大胆に投資して企業が儲かれば、それが賃上げにつながり税収も増える。それが好循環です。分かっているのに自民党では今までできなかった。要は『やる気にさせられるかどうか』ですから、高市さんがあのキャラで日本を元気にします、というのには期待できる。だから今は私も『サナエ推し』です」

この知人によると、経済界ではそんな「サナエ推し」が多いのだそうだ。

80%を超える驚異的な内閣支持率も公表され、「サナエノミクス」、「サナエトレード」などといった用語が飛び交い、株価も史上最高値を更新した。経済界は久々に活気を取り戻したようにも見える。これも高市ブームの表れなのだろう。

写真=共同通信社
衆院予算委で答弁する高市首相=2025年11月7日午後 - 写真=共同通信社

■保守回帰は本物か

10日公表されたNHKの内閣支持率も66%に上った。小渕恵三内閣以降の歴代内閣の発足時の支持率としては、小泉純一郎内閣81%、鳩山由紀夫内閣72%に次ぐ水準になっている。

第二次安倍晋三内閣の64%をも上回り、岸田文雄内閣49%、石破茂内閣44%と比べるとまさにV字回復だ。

支持構造を見てみると、石破内閣で支持が7割を切っていた自民党支持層で9割近くにまで回復し、無党派層も6割近くに増えている。

目を引くのが、10代から50代までの若い年代の支持が8割近くに上っていることだ。

支持政党別、年代別のいずれでも全体として支持率が上昇しているが、特に若い世代での支持回復が顕著である。女性の支持が男性の支持よりも若干低いことが気になるが、それでも全体として支持率低迷に苦しんだ前政権からすると、劇的な回復と言っていいだろう。

保守強硬派の論客として知られ、安倍元首相の後継者を自任する高市首相である。自民党支持者の間では、参政党や国民民主党に奪われた「岩盤保守層」が、自民党に戻ってきたのではないか、保守的な傾向がある若い世代が自民党支持に移ってきたのではないか、と「保守回帰」への期待が高まっている。

高市首相の周辺では、この久しぶりの追い風のなかで早期に衆院の解散・総選挙に持ち込めば、自民党の単独過半数回復も夢ではないという声も出始めた。

■「状況は、それほど甘くはない」

しかし、長年自民党の選挙に関わってきた関係者は「状況は、それほど甘くはない」と警鐘を鳴らしている。確かに高市内閣の支持率は想定以上に高いが、それが選挙結果に直結するとは限らないというのだ。

「各社の世論調査でも内閣支持率に比べて、自民党の支持率はさほど伸びていません。内閣支持率が高いのも、これまでの自民党を変えて新しい政策を進めてくれるのではという期待感の表れです。選挙は実績がないと評価されません。高市さんも選挙よりも実績をあげることが大事だと分かっていると思いますよ」

写真=iStock.com/f18studio
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高市総裁が誕生した直後に行われた宮城県知事選挙では、無所属ながら実質的に自民党が支援する6期目の現職が、参政党などが支援する自民党の元参院議員に苦戦し、ギリギリまで迫られた。現職候補には高市首相の応援メッセージも届いたが、自民党支持層にも食い込みを許し、仙台市内では相手候補に負け越している。

さらに9日に行われた葛飾区議会選挙の結果も自民党に厳しいものだった。定員40人の選挙に自民党は17人の候補を擁立したが、当選者は10人に留まり、前回4年前の選挙よりも議席を減らした。自民党への支持が戻っているといっても、実際の選挙では逆風は収まっていないのだ。

この自民党関係者は「石破内閣だけの責任ではないが、自民党はこれまで有権者が評価するような政策ができてこなかった。高市内閣の支持率が高いと言っても、まだ期待値が高いだけ。国民の要望が強い物価高対策などの政策を地道に実現して、実績を積み上げていかないと自民党への支持は回復しませんよ」と指摘している。

■「誰も真剣に高市首相を支えようと思っていない」

高市人気とは裏腹に、自民党内の亀裂は更に深まっている。裏金問題に関係した佐藤啓参院議員を官房副長官に起用したことに野党が反発、佐藤副長官が参院で出入り禁止になった。

首相は「国会運営に混乱を来すことになったことについては真摯(しんし)におわび申し上げる」と陳謝したが、「佐藤氏は若くて優秀な将来の日本を担うべき参院議員だ。有為の人材にはぜひ再起の機会をお与えいただけるよう、どうかお願いを申し上げる」と情に訴えるだけだ。

参院自民党にも事態を打開しようという動きは見られない。むしろ公明党離脱の一因にもなった萩生田光一氏の起用といい、首相は裏金関係議員に甘すぎると一連の人事に疑問を呈する参院幹部もいる。少数与党という現実の中で野党の要求も受け入れて行かないと国会は動かないが、司令塔の鈴木俊一幹事長など自民党執行部は調整力不足を露呈している。

総裁選では小泉進次郎氏を支持したある閣僚経験者は「自民党内では高市首相へのしらけた空気が強まっている」と党内の現状を説明してくれた。

「首相だけでなく、党内でなんの議論もしないまま、閣僚や党幹部が勝手な発言をしている。誰も真剣に高市首相を支えようと思っていないからだ。そもそも自民党内の意見をロクにまとめもしないまま維新とパタパタと連立合意を結んでしまった。議員定数の一割削減なんて、自民党内に本気で成立させようという議員は一人もいない。

台湾有事が日本の有事になるケースもあり得るという発言もしたが、安倍さんならあんな不用意な答弁はしなかった。中国側の不穏当な反応も問題だが、何を日本有事と認定するか具体的に例を挙げるなんて、中国に手の内をさらすようなものだ。自分の応援団の人気取りのためかもしれないが、まず自民党内をまとめないと、石破内閣以上に何も実現できなくなるよ」

■「高市応援団の期待」が徒となる

この閣僚経験者は、「高市応援団の問題も大きい」と言い切る。

「ついに高市が天下を取った」
「中国と財務省を屈服させろ」
「高市の敵は日本の敵」

以前から高市首相を応援してきた月刊誌などには、強硬保守派の論客や政治家の勇ましい言説が溢れている。マスメディアやSNSでも保守派は元気一杯だ。

「最初は、現実路線で持論を封印していた高市首相だが、やはり応援団の期待にも応えないわけにはいかない。このところの国会論戦で、踏み外す答弁が目立つのも、つい彼らの顔が浮かぶからだ。本当の応援団なら、高市政権が長く続くようにむしろ謙虚な姿勢でいるべきだろう」

この閣僚経験者は、憤懣やるかたない、という表情でそう言った。

日本維新の会の藤田文武共同代表から総合経済対策に関する提言書を受け取る高市首相(首相官邸ウェブサイトより)

■ガラス細工のような足元

「高市氏の覚悟にかける」と意気に感じて連立入りした日本維新の会も、次第に重荷になりつつある。

自民党にとって公明党が抜けた後を埋めるためには、維新の会と連立がどうしても必要だった。首班指名まで時間がないなかで、連立合意をつくるための交渉は、実質的に5日間しかなかった。首班指名を確実にするには、何でも飲み込む姿勢だったのを見て、維新は、悲願の大阪都構想(いまは副首都構想)や看板政策「身を切る改革」の象徴「議員定数削減」を絶対条件として出した。

吉村代表は、高市氏の覚悟を感じた、命がけの決意を感じたと応じたが、最初から「合意ありき」の交渉だった。「合意してしまえば、後は何とかなるだろう」といういつもの自民党の交渉パターンだ。

しかし、いつの間にか議員定数の削減が最大の焦点になってしまったことは誤算だったかもしれない。鈴木幹事長は、ついに「今国会で成立させることは困難だ」と先送りを宣言した。高市首相も難しいと繰り返している。「法案を提出し成立を目指す」という表現は幅がある。

自民党はあいまい合意と先送りで逃げ切るつもりだったが、維新の側は、妥協しにくい。維新の国対委員長もつとめる遠藤敬首相補佐官が日経新聞のインタビューで「仮に成立しなくても、それでもう破談だというのは言い過ぎた」と予防線を張り始めたが、このまま先送りとなると維新も自民も苦しい説明に追われることだけは間違いない。

■身内の与党が高市首相の足を引っ張る

外交も内政も、いくら勇ましいスローガンを並べても、それが実現できなければ、たちまち支持率は低下し、政権運営は難しくなる。現状では、野党も高市内閣の支持率の高さにとまどい、批判にも及び腰だ。まして、内閣不信任案で政局の打開を図ろうという気概は全く感じられない。選挙を望んでいないからだ。

この状態であれば野党やマスコミがどんなに批判しても、高市政権を倒すことは難しい。しかし自民党や維新の会、つまり与党が一体となって支えなければ、現実に国会を乗り切ることは難しい。

そうなると国民が望む物価高対策などの実現も困難になる。その時高市首相への期待も失われ、支持率も下がることは避けられないだろう。つまり、高市首相にとって、一番厄介な足を引っ張りかねない存在は、野党でもマスコミでもなく、あるいは中国でも財務省でもない。それは実は、身内の与党なのである。

2025年10月22日、高市早苗首相(写真=首相官邸/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

政治学者の丸山眞男は、「政治的な責任というものは、徹頭徹尾、結果責任である」と述べている。志や熱意がどんなに高くても、どんなに努力を重ねたとしても、政治は結果だけで評価されるという意味である。動機が素晴らしくても、結果が国民有権者に評価されないときは、その批判は甘んじて受けなければならない。時には、周りの者の失敗の責任も引き受けなければならない。

期待値を高め、国民に希望を与えることは、確かに政治の重要な役割だ。しかし、その結果、何を実績として示していくのか。政治家の評価は結局それしかない。

ガラスの天井を破り、世論の後押しで好スタートを切った高市内閣だが、その足元は相変わらず、脆く壊れやすいガラス細工のままだ。政治家・高市早苗の戦いはまだ始まったばかりなのである。

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城本 勝(しろもと・まさる)
ジャーナリスト、元NHK解説委員
1957年熊本県生まれ。一橋大学卒業後、1982年にNHK入局。福岡放送局を経て東京転勤後は、報道局政治部記者として自民党・経世会、民主党などを担当した。2004年から政治担当の解説委員となり、「日曜討論」などの番組に出演。2018年に退局し、日本国際放送代表取締役社長などを経て2022年6月からフリージャーナリスト。著書に『壁を壊した男 1993年の小沢一郎』(小学館)がある。
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(ジャーナリスト、元NHK解説委員 城本 勝)