記事のポイント
ラグジュアリーアイウェア市場は職人技や快適性を重視する方向へ変化し、世界的に堅調な成長を続けている。
ケリング(Kering)やLVMHは生産を内製化し、創造性と収益性を両立させる戦略を進めている。
バートン・ペレイラ(Barton Perreira)はLVMH傘下でも独立性を保ち、日本製の高品質アイウェアとして静かな支持を広げている。


プレタポルテの成長が鈍化するなか、ラグジュアリーブランド各社がアクセサリー分野への注力を強めている。そのなかでも、アイウェアは収益性をめぐる重要な戦場となりつつある。

かつてはロゴやライセンス契約によって定義されていたラグジュアリーアイウェアだが、いまや「クラフトマンシップ」「快適性」「つながり」といった価値観によって再構築されている。これらの価値は高級消費者層のあいだでますます共鳴を呼んでいる。

コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Co.)によると、アイウェアはラグジュアリーアクセサリー全体の約7%を占めるという。

市場調査会社ユーロモニター(Euromonitor)によれば、2024年には前年比6%増の1640億ドル(約25兆2000億円)に達し、戦略的な成長ドライバーとなっている。地域別では、アジア太平洋地域が前年比8%増ともっとも成長が速く、富裕層が「アイデンティティ」と「ステータス」の双方を示す目的でアイウェアへの投資を強めている。

ケリング、軟調な市場のなかでアイウェアが「光明」に



ケリング(Kering)にとって、アイウェア事業は軟調なラグジュアリー市場のなかで数少ない好調分野のひとつだ。

2025年第3四半期(10月23日発表)の決算によると、アイウェアの売上高は4億4800万ユーロ(約760億円)で、前年同期比7%増。主要すべての地域で成長を見せた。この伸びが、グループ全体の売上高34億ユーロ(約5800億円)に対し、比較ベースで5%減少した業績を一部補ったかたちだ。

同社COOのジャン=マルク・デュプレ氏は決算説明会で次のように述べた。「ケリング・アイウェアは当社の中核戦略であり、グループの発展に不可欠な存在だ」。

レンズメーカーのレンティ(Lenti)、アイウェア製造のヴィサード(Visard)とミストラル(Mistral)の買収、そして2026年春に始動するヴァレンティノ(Valentino)との新パートナーシップが、同社の長期的なカテゴリー戦略を示している。

三社による支配構造



現在、エシロールルックスオティカ(EssilorLuxottica)、ケリング、LVMHの3社がそれぞれ異なる所有モデルを通じてラグジュアリーアイウェア市場を支配している。

エシロールルックスオティカはプラダ(Prada)、シャネル(Chanel)、ヴェルサーチ(Versace)などのライセンス生産を行う従来型のモデルを維持している。一方、ケリングとLVMHは、それぞれケリング・アイウェアとテリオス(Thelios)を通じて、自社生産体制へと完全移行している。これにより、クリエイティブ面と財務面の両方でのコントロールを強化中だ。

LVMH傘下のテリオスは2017年、イタリアのロンガローネに設立され、ディオール(Dior)、フェンディ(Fendi)、ロエベ(Loewe)のアイウェアを生産している。2023年に行われたバートン・ペレイラ(Barton Perreira)の買収は、独自店舗や忠実な顧客、日本生産体制を持つブランドそのものへの投資であり、LVMHにとって「クワイエット・ラグジュアリー」市場への足がかりとなった。

買収後、共同創業者のビル・バートン氏は2024年12月に退任。現在はCEOのセドリック・モロー氏、クリエイティブディレクターのパティ・ペレイラ氏、セールス&マーケティング担当バイスプレジデントのトリシア・バルブエナ氏がブランドを率いている。

モロー氏は「バートン・ペレイラとテリオスのシナジーによって、よりグローバルなビジョンと流通戦略を持つことができる」と語る。「今後は欧州とアジア太平洋地域をアメリカと同等のビジネス・ブランド認知レベルに引き上げることに注力している」。

LVMHの支援を受けつつも、テリオスは依然として独立性を維持している。「我々はこれまでどおり独立して運営しているし、その方針は変わらないと聞いている」とペレイラ氏はいう。「製造は引き続き日本で行っている。LVMHの製品が主にヨーロッパで生産されていることを考えると、それ自体が差別化になる。そしてデザインに関しても、我々自身が引き続きブランドを手がけている」。

「製品こそ体験」日本製アイウェアが支える哲学



同ブランドによると、バートン・ペレイラのアイウェアは軽量チタンと日本製アセテートを使用し、最大2週間かけて手作業で研磨され、装着時の圧迫感を取り除くようバランス調整が行われるという。

「お客さまが初めてフレームを試着したとき、必ず『なんて快適なんだ』という」とモロー氏は語る。「製品そのものが体験なのだ。この品質によって、顧客は定期的に戻ってきてくれる。アイウェアとしての投資回収率が非常に高いからだ」。

ペレイラ氏は「我々はトレンドを追わない。むしろクラシックだが、多くの顧客が複数のペアを購入する。なぜなら、1シーズンで終わることがないと確信しているからだ」と述べる。「エルメスのバッグのように、受け継ぐことさえある」。

価格帯は550〜850ドル(約8万4000〜13万円)、限定モデルは1200ドル(約18万円)を超えることもあり、ディオールやフェンディと同水準で、グッチのエントリー光学モデルを上回る。

同ブランドの知名度を押し上げたのは、映画『007 スカイフォール』および『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』でダニエル・クレイグが着用したことだった。「スタイリストやセレブは、我々の店舗を通じてブランドを発見する」とバルブエナ氏は語る。

「ブラッドリー・クーパーのスタイリストがミートパッキング店を訪れ、フレームを選んだ。ジェナ・オルテガは『Vogue』の企画で『バッグの中身』を紹介し、毎日バートン・ペレイラを愛用していると語ってくれた」。

さらに、アン・ハサウェイは映画『プラダを着た悪魔』続編で同ブランドのフレームを着用するとも報じられている。ほかにも、マライア・キャリー、ナタリー・ポートマン、タイカ・ワイティティ、モデルのアレッサンドラ・アンブロジオなどが長年の愛用者だという。

「これは広告ではない」とモロー氏は強調する。「彼らが自ら選んで着けているのだ。写真を見るととてもうれしくなる。なぜなら、それは本当に製品を楽しんでいる証だからだ」。

日本生産の課題と関税という試練



モロー氏は過去1年間で、テリオスのグローバル基準に合わせつつ、職人的管理を維持するための運営体制を整えてきたという。「日本に常駐の人事担当者を置き、品質と生産をよりきめ細かく追跡できるようにした。また、社内プロセスを再構築し、生産リードタイムを短縮せずに先行生産を進められる体制を整えた」。

ただし、日本の小ロット製造モデルは効率化が難しく、さらに輸入関税の上昇がコストを圧迫している。

2025年末時点で、米国が日本製アイウェアに課している関税は約10〜15%に達しているという。「まるでジェットコースターのようだ。関税が週ごとに変わる状況だ」とモロー氏は語る。「我々を含む多くの競合ブランドが、米国での小幅な値上げを余儀なくされた。もちろん誰も値上げを喜ばないが、顧客は状況を理解してくれた」。

バートン・ペレイラの2026〜2027年のロードマップは、「責任ある拡大」を軸に据えている。「パティ(ペレイラ氏)とコレクションを再編した。SKUが多すぎると複雑になりすぎるからだ」とモロー氏は言う。

2026年は市場特性に合わせたコレクションにも焦点を当てる。「アジア太平洋市場を重視しているため、この地域特有のデザイン美学やフィット感を反映したカプセルコレクションを開発している」とペレイラ氏。

「2026〜2027年の課題のひとつは、『オルタナティブフィット』の拡充だ。地域により積極的かつ適応的な展開を図りたい」。この「オルタナティブフィット」ラインは、鼻梁や顔立ちの違いに合わせて調整されており、アジア市場の重要性を象徴している。

アジア勢の台頭 欧州ブランドの独走に挑む



アジアでは高級アイウェア市場の競争が激化している。市場調査会社スタティスタ(Statista)によると、アジア太平洋地域は世界のアイウェア成長の40%以上を占めており、中国、日本、韓国がその中心だ。

2011年にソウルで創業したジェントルモンスター(Gentle Monster)は、ギャラリーのような旗艦店と、K-POPスターのジェニー(元ブラックピンク)とのコラボで、店舗を文化的目的地に変えている。価格は250〜500ドル(約3万8000〜7万6000円)で、デザインと体験を重視する若年層を引きつけている。

日本ではフォーナインズ(999.9)が、特許ヒンジを用いた設計と快適性を特徴とし、価格帯は400〜900ドル(約6万〜13万円)。

シンガポールのO+アイウェアは、ハンドクラフトのオーダーメイドで約600ドル(約9万1000円)から展開。中国のボロン(Bolon)は150〜300ドル(約2万3000〜4万6000円)の価格帯で、マス流通とセレブマーケティングによって市場を拡大している。これらのブランドは、文化的影響力と快適性、デザイン主導のアイデンティティを融合させることで、欧州の独占的地位に挑んでいる。

バートン・ペレイラは、ニューヨーク、ロサンゼルス、アスペン、ロンドンにブティックを展開し、アジア太平洋地域でも慎重に拡大を進めている。「我々の顧客はアイウェアの目利きであり、自由な発想を持つが、流行を追うタイプではない」とモロー氏は語る。

[原文:Luxury Briefing: Why luxury brands are putting new focus on eyewear

Zofia Zwieglinska(翻訳・編集:杉本結美)