「Fラン大学は無意味」は本当か…大学ランキングを妄信する人が見落としている"学歴と幸福度"の意外な関係
※本稿は、ジェニファー・ウォレス『「ほどほど」にできない子どもたち 達成中毒』(早川書房)の一部を再編集したものです。

■「よい」大学に入れば人生は安泰なのか
子どもを消耗させる風潮の根底には、よい人生は、「よい」大学に入学することで確保されるという確固たる信念が横たわっている。私が取材した生徒のほとんどが高校は目標のための手段に過ぎないと考えていた。名門大学に入ることが、金銭面の成功、社会的ステータス、幸福への鍵を握るとくり返し教えこまれているのだ。
もちろん大半のおとなは広い視野を備えているので、そんなことはないとわかっている。一流大学に入ったのに望みどおりの人生を歩んでいない人など山ほどいる。それほど優秀ではない大学に入ったけれども、想像していたよりもはるかによい人生を歩んでいる人も山ほどいる。
■「大学ランキング」とは何か
また、この信念はごく一部の狭き門の大学が「よい」大学で、それ以外はちがうという前提に立っている。その前提に則って、USニューズ&ワールド・レポート誌は1983年から毎年アメリカの大学1500校のランク付けをおこなっている。
バロンズ誌やプリンストン・レビューと同様、このランキングも小規模のリベラルアートカレッジから研究の一大拠点となる総合大学までの個性豊かな大学を平らにならし、スコアというひとつの評価基準であらわしている。
例を挙げると、2022年のUSニューズ誌のランキングでは、スタンフォード大学が100点中96点、ミシガン大学が80点、ペンシルベニア州立大学が64点である。この数字を見ると、スタンフォード大学がペンシルベニア州立大学よりも「優れている」のは一目瞭然だ。こういったランキングが進学校に通う生徒のあいだで幅を利かすようになった。
ポール・タフは著書『The Inequality Machine: How College Divides Us』(格差製造工場──大学がいかに我々を分断するか)で、USニューズ誌のランキングを印刷して上位30校の下に線を引き、それ以外の大学を志望しないように娘に命じた父親の話を紹介している。
とはいえ、専門家が分析すると、どれだけ大目に見ても大学ランキングというものは当てにならないことがすぐさま判明する。「ランキングは質を客観的に評価しているように見えるかもしれない。複雑な計算式を使って自分たちの見解をもっともらしく載せているのだから」と〈チャレンジ・サクセス〉の共同創業者であり、スタンフォード大学教育大学院の上級講師であるデニース・ポープは、2018年の報告書において説得力のある論調で綴っている。
■大学関係者の相互評価と、卒業率の数値化でしかない
しかし、とポープは続ける。さまざまな指標は「恣意的に測定されたものであり、大学の質や学生が将来成功するかどうかを正確に示すものではない」
USニューズ誌がどのような基準でランキングを作成しているのかを知ると、親も子どもも驚くのではないだろうか。私も驚いたのだから。

2022年版を例に挙げると、ランキングの20パーセントは大学関係者の相互評価に基づいている。考えてみてほしい。何百ものほかの大学の内部事情を正確に把握している大学の管理者がどれくらい存在しているのか。すべての大学の毎年の変化を追えるのだろうか。不可能だ。追えるのはせいぜい大学の評判だけであろうから、そのようなランキングとは思いこみが現実になる自己成就的予言といえる。
ランキングの残りのうち22パーセントは、卒業と留年の割合に基づいている。ポープによると、高く評価されている私立大学では卒業率は概して95パーセントだが、大規模な公立大学では、学校によって異なるが、65パーセントから85パーセントのあいだに位置している。
だが卒業率を左右する最大の要因は、それぞれの学生の境遇であり(家庭が裕福な学生の割合など)、教育の質ではない。マルコム・グラッドウェルがニューヨーカー誌の記事で説明しているように、学校がどの階層の生徒を集めるかによって卒業率は変わってくる。
アメリカで最上流の家柄の生徒だけを入学させれば(イェール大学)、卒業率はぐんと高くなる。なるだけ多くの生徒を入学させれば(ペンシルベニア州立大学)、卒業率が低くなるのは避けられない。
■1年で2位→18位に落ちたコロンビア大学
なかには順位を上げるためにデータを操作する大学も存在するため、ランキングはいっそう不確かなものになる。
コロンビア大学がUSニューズ誌に提供したデータが、「不正確で疑わしく、誤解を招く可能性が大きい」と同校の数学の教授によって指摘された件が話題を呼んだ。罰則として、USニューズ誌はコロンビア大学の順位を2位から18位に下げた。「全員が心に留めておくべき大事な教訓がある。USニューズ誌の運営がきわめてうさんくさいということと、ランキングが2位でも18位でも意味がないということだ」と内部告発した数学の教授は書いている。
「どんな教育研究機関であれ1年で2位から18位に下降するなど、ランキング自体が信頼できるものではないという証だ」。教育研究機関がランキング絡みのスキャンダルに巻きこまれるのは今回がはじめてではない。偽りや疑わしい情報を提供しているのはコロンビア大学だけではないだろう。
■難関大に通っても通わなくても幸福度は変わらない
ランキングには訴求力がある。先行きが不透明な社会では、たとえ費用が高くついても、ランキング上位の大学で学位を得ることが給料の高い仕事につながり、それによって人生の満足度も高くなると信じたいものだ。だが大学に金を注ぎこめば、仕事における成功も大きくなるのだろうか。
ピュー研究所がまさにこの疑問を掘り下げている。大きな公立大学と学費の高い私立大学の卒業生を対象として、どういう人生を歩んだのか調査をおこなった。驚くべきことに、「統計的な差異は見出せない」という結果となった。どちらのグループも大多数において、家族生活、経済状況、仕事における個人の幸福度は同程度であった。
ポープもまた自らの報告書のなかで、超難関大学に通った学生とそうではない学生の卒業後の経過を追いかけた重要な研究をまとめている。彼女の研究でも超難関大学に通えば大きな成功を手にできるという証拠はほとんど見当たらなかった。だが、ひとつの重要な例外が指摘されている。疎外されてきた属性で、一族ではじめて大学に進学した上位校の学生は、それほど難関ではない大学の学生よりも高い給料を得る傾向がある。
この例外が生じた正確な理由については、研究者の見方は一致していない。ほとんどコネクションを持たない学生に対して、学校側が人脈を増やす機会を設けるからではないかという見方もあれば、収入の低い家庭から進学した学生には奨学金が与えられるので、借金をほとんど背負わずに卒業できるからではないかという見方もある。
■大学の評判は「幸せ」とは関係ない
たとえランキングが疑わしく、将来における金銭面の利点がほとんどなくてもなお、名門大学に通うことが大きな幸せと喜びにつながるという信念にしがみつく親子もいるだろう。2014年、ギャラップ社とパデュー大学が協力して、大学の卒業生を対象とするアメリカ史上最大の調査に取り組んだ。3万人を超える卒業生の幸福度を測るため、鍵となる5つの重要な要素について調査した。
その要素とは、目的(どういう動機のもとで目標を達成するのか)、人間関係(力になる強い絆を持っているか)、身体(健康か)、財政(お金を適切に管理しているか)、コミュニティ(帰属感があるか)である。さらに仕事を楽しんでいるか、職場に成長を見守ってくれる相手がいるかという質問も加えて、仕事の充実度も調査した。
その結果、通った大学の評判──難関か並か、公立か私立か、小規模か大規模か──は「現在の幸福度や職業生活にはほとんど関係しない」とわかった。

■大学の評判よりも重要な6つの要素
では、いったいなにが将来の成功をもたらすのか。調査の結果、学校での体験、とくに交友関係の質と学生生活に対する熱心さが関わっていることが判明した。幸福度と仕事の満足度が高い卒業生は、大学時代になにかに打ちこんだ経験があるという傾向が見られた。調査の結果、将来の成功への大きな土台となる大学時代の経験は、おもに6つのタイプに分けられることがわかった。
1:学問を胸躍るものに変える教授から学ぶこと
2:教え子の人間性を尊重する教授と出会うこと
3:ひとりひとりの目標の達成を応援するメンターと出会うこと
4:意義のあるプロジェクトに複数の学期をかけて取り組むこと
5:インターンシップに参加すること
6:課外活動に積極的に参加すること
■大切なのは入った大学への「適応」
学生が教え子の人間性を尊重して激励する教授と強い絆を築くことができれば、卒業後に仕事で充実感を得る確率は2倍以上にもなり、人生のあらゆる面において成功する確率も同様だった。
さらに、学問の関心と呼応するインターンシップや職業を経験したり、意義のあるプロジェクトに複数の学期をかけて取り組んだり、課外活動に積極的に参加したりした卒業生も、仕事で充実感を得る確率が2倍になった。どんな大学の学生でも──「よい」大学にかぎらず──この6つの項目をクリアすることができる。この結果から、入学した大学の評判よりも大学生活への「適応」の方が重要だとわかる。
よい「適応」とは、大学のコミュニティのなかで自分の存在意義と重要性を感じること、他者が自分の幸せに関心と敬意を抱いていることを感じて他者に頼れるようになることである。
言いかえると、将来の成功と幸福は学生が大学内で自分は大切な存在だと感じる度合いと関連している。自分の価値を教えてくれる教授と出会っただろうか。学期をまたいで続くプロジェクトやインターンシップに参加して、自分の学びを使って価値を与えることができただろうか。
■「幸せへの道はすべて難関大学を通る」は神話
言うまでもなく、子どもに将来の成功を保証する公式は存在しない。しかし、大切であることと幸せという観点から成功を定義すれば──成果という観点からだけではなく──親はもっと上手に子どもを導くことができるとリサ・ダムールは説明する。

幸福度を左右する最大の要因は環境への適応であることを親が理解すれば、大学について子どもと語る際に、評判などの外的目標ではなく、個人の成長などの内的目標に重点を置くように努めるだろう。つまり大学について話しあうときは、大学ランキングではなく子どもの価値観を軸として進めるべきである。
「幸せへの道は難関大学を通っているはずだという前提を否定することから会話をはじめましょう。真実でもなんでもないのですから」とダムールは言う。なにより、名門大学に入ることが成功への鍵だという神話を崩せば、大学入学への苦難に満ちた過程に新たな視点を提示することができる。数十年におよぶ調査結果を踏まえて、「よい人生」を導くものについてじっくりと考えながら話しあおう。
■大学ランキングにふりまわされてはいけない
「子どもがブラウン大学に行こうが、それより低い順位の大学に行こうが、その後の人生の幸福を決定するわけではありません。それならば、なにが決め手になるのか。よい交友関係、意義のある仕事、自ら選んだ目標に向かって能力を発揮しているという気概です」とダムールは語る。
「私たちはこの事実を理解して、子どもに教えなければなりません」。当てにならないランキングにふりまわされるのではなく、子育てのエネルギーをもっと有意義に使うべきだと調査結果は示している。どこの学校に入るかではなく、入学してからなにをするのかを強調しよう。
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ジェニファー・ウォレスジャーナリスト
ハーバード大学を卒業後、CBSのニュース番組「60ミニッツ」のプロデューサーになり、制作陣の一員としてロバート・F・ケネディ・ジャーナリズム賞に輝く。現在はウォール・ストリート・ジャーナル紙とワシントン・ポスト紙に寄稿している。ニューヨークで夫のピーターと3人の子どもたちとともに暮らしている。
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(ジャーナリスト ジェニファー・ウォレス)
