斉藤容疑者へのバッシングが強まった背景には、前回のトラブル以前に「いい人イメージ」が定着していたことが考えられる(写真:本人のXより)

お笑いトリオ「ジャングルポケット」の斉藤慎二容疑者(41)が、不同意性交などの容疑で、警視庁に書類送検されたと報じられた。所属事務所の吉本興業は契約解除を発表し、ジャングルポケットは2人での活動となった。

芸能人の不祥事によって、活動自粛や契約解除になるケースは少なくない。しかしながら斉藤容疑者の場合は、かねて「いい人」のイメージがついていたことが、よりバッシングが高まる要因となった。

吉本興業はマネジメント契約を解除したと発表

斉藤容疑者の書類送検は、2024年10月7日に各社から報じられた。各社報道によると、7月にロケバス内で、20代女性に性的暴行を加えた。バス車内には、斉藤容疑者と女性の2人のみで、女性が警視庁に被害届を出したという。

今回の送検容疑の一つとなった不同意性交等罪は、指定された8条件のどれかを原因として、「同意しない意思を形成、表明又は全うすることが困難な状態」などに乗じて、性交等を行った場合に成立する。2023年7月までは「強制(準強制)性交罪」という名称で、さかのぼると、2017年までは「(準)強姦罪」と呼ばれていたものだ(各改正で条件等は変更されている)。

一連の報道を受けて、吉本興業は同日、「斉藤に対する重大な契約違反の疑い」について事実確認などを進めた結果、斉藤容疑者と協議のうえで、マネジメント契約を解除したと発表した。


(画像:吉本興業HPより)

すでに同社のジャングルポケット紹介ページは、相方である太田博久さん、おたけさんによるコンビとしての記述に書き換えられている。

報道を受けて、斉藤容疑者の妻でタレントの瀬戸サオリさんは、夫に代わってインスタグラムで謝罪した。一方で、弁護士からの話として、「不同意ということでお相手の方が被害届を出しているとお聞きしておりました。事実関係としましては、相手の方からも行為がありSNSをフォローしたり連絡先を交換していた」として、ロケバス車内のドライブレコーダーやカメラの分析を警察に求めていると説明した。

瀬戸さんの投稿を読むかぎり、今後の争点は「同意の有無」になるのだろう。


(画像:瀬戸サオリさんのインスタグラムより)

今回の送検報道によって、SNS上では落胆する反応が相次いだ。一部報道では「斉藤慎二メンバー」の呼称で報じられたことから、「なぜメンバー呼びなのか」といった疑問が話題になったが、なかでも目立ったのは「心配していたのに」といった反応だ。実は斉藤容疑者は、体調不良を理由に、このところ活動を休止していたのだ。

8月の時点でレギュラー出演の番組を欠席していた

吉本興業は9月20日、斉藤容疑者について「先月来、入院するなど体調不良が続いておりましたが、このたび、本人より、当面の活動を休止したい旨の申入れがありました」と発表していた。


(画像:吉本興業HPより)

すでに8月の時点で、レギュラー出演していた「ZIP!」(日本テレビ系)や「ウイニング競馬」(テレビ東京)を欠席していたが、休止発表によって両番組や「競馬ブロス」(グリーンチャンネル)は降板することとなった。

こうした経緯があったため、視聴者からは「体調不良はウソだったのか」といった疑問も上がっている。なかには、不祥事を隠すための「偽装入院」を疑う声まで見られるが、所属事務所がわざわざ「入院」と明言していたからには、実際ある程度の体調不良はあったのだろう。

加えて、約1年前にも女性問題で注目をあびていたことが、視聴者の落胆を加速させた。2023年8月から9月にかけて、不倫疑惑が2度も週刊誌報道され、当時のレギュラー番組だった「地方創生プログラム ONE-J」(TBSラジオ系)を降板した。

ほどなく活動を再開していたことから、今回SNS上では「なぜあの時、厳粛に対応しなかったのか」といったメディア批判も相次いでいる。

体験談の記事の多くは削除や非公開に

斉藤容疑者へのバッシングが強まった背景には、前回のトラブル以前に「いい人イメージ」が定着していたことが考えられる。その大きな要因が、幼い頃に受けた、いじめ被害のエピソードだろう。少なくとも、2023年までの数年間は「壮絶な過去を乗り越えた人気芸人」として評価されていたように思える。

斉藤容疑者は小学生から中学生にかけて、いじめられていたと明かしている。これまでもメディアでは、体験談そのものから、芸人になって「明かす」ことへの葛藤まで、その半生を振り返る場面があった。ネット検索でもインタビュー記事が複数引っかかるが、今回の書類送検が関係しているのか、その多くは削除、非公開とされている。

「愛されキャラ」の光と影。時にはスベることがあっても、テンション高く振る舞う姿に、希望を抱いていた人も多かっただろう。それだけに、前回の不倫騒動の際にも、あまり反発なく復帰が受け入れられたと考えられる。

しかし今回の契約解除によって、周囲の希望は失望に変わってしまった。いい人イメージが強まりすぎると、それだけ足を踏み外した場合のギャップも大きくなる。

言うまでもなく、人間とは多面的な生き物だ。おそらくインタビューや対談、講演会での言葉は「斉藤少年のリアル」だったのだろう。だが、それ自体もウソ偽りに固められた「ビジネスいじめられっ子」に感じさせてしまう。

こうなった以上、芸能界への復帰は難しいように思える。もしできたとしても、相当な年月を重ねたうえで、信頼を取り戻すしかない。そのために必要なのは、「どう受け止められるか」を考える想像力ではないだろうか。

事件として争われるのは「行為や同意の有無」だ。あらゆる証拠をもとに、法令や判例に照らして、司法判断が下される。しかし、表現者としての立場を考えると、そこではない部分にも考えをめぐらせる必要がある。

今回の内容が事実であれば、「前回のスキャンダル報道から1年以内というタイミング」や「ロケバスで行為に及べばどうなるか」に、どれだけ想像力を持っていたか。いっときの快楽で、これまでのキャリアが崩れてしまう可能性があると考えられなかったのか。

コンプライアンス意識が急速に高まっている芸能界で、これらが明るみに出たとき、どのような社会的責任を負う必要があるのか。そして、その際に周囲へどれだけの精神的・金銭的影響を与えるのか--。考えれば考えるほど、あらゆる配慮に欠けていたように感じられる。

なにしろ「笑えない」のは、芸人にとって致命的だ。今後トリオやピンで復帰して、再びネタやギャグを披露したとしても、視聴者の頭の片隅から、過去の印象が拭えないようでは、素直に笑うのは難しいだろう。

斉藤容疑者の今後の活路は

ひとまずは司法判断を待つことになるが、その後に活路を見いだせるとすれば、いじめ体験からの「文化人」だろうか。

かつて斉藤容疑者は「実はお笑いにどこかで区切りを付け、『笑ってはいられない』という子たちに寄り添う活動をしようかと考えた時期がありました」「子どもたちと直接会って、話を聞く機会をどんどんつくっていきたい」(北海道新聞2022年6月3日朝刊)と語っていた。

読売新聞での短期連載「斉藤さんの相談室」でも、小中高校生の悩みに答えつつ、「つらいこと、しんどいことがあったら、また僕に直接相談しなさい!」(2020年8月22日朝刊)と呼びかけていた。人生の先輩として斉藤容疑者が、「子どもの居場所」づくりへの期待を示していたことは間違いないだろう。

性的なイメージが付いた今となっては、子どもたちと直接対話する場は設けにくく、保護者からも敬遠されるに違いない。とは言っても、斉藤少年の体験と、それに基づく「いじめ観」そのものは、唯一無二のものであると信じたい。あらゆることに真面目に向き合い、かつ誠実に発信を続けていけば……。

筆者は斉藤容疑者の支援者ではないし、事案が事案なので、現段階では「別の道が開けるかもしれない」と述べることはしない。ただひとつ、間違いなく言えるのは「笑えない」展開になってしまったということだろう。

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)