アニメ『負けヒロインが多すぎる!』公式HPより

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『週刊少年ジャンプ』(集英社)で連載中の『逃げ上手の若君』、第一期が爆発的人気を呼んだ『推しの子』第二期など、注目タイトルが目白押しの夏アニメだったが、一際注目を集めたのが『負けヒロインが多すぎる!』だろう。雨森たきびが原作、いみぎむるがイラストを手がける同名ライトノベルが原作の本作。ラノベ好きの高校1年生・温水和彦と、意中の男子生徒に振られる八奈見杏菜、焼塩檸檬、小鞠知花の“負けイン”達が織り成すラブコメアニメだ。公式Xでは8月29日、「7月の電子売上が出たのですが…既刊、いずれも前月比10倍超です」と投稿していることから、アニメに魅了された人が多いことが伺える。それほどまでに人気を集めた要因として、切り口の秀逸さが挙げられる。

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 従来のラノベ原作アニメは主人公とヒロイン達の恋愛模様が描かれるが、『負けヒロインが多すぎる!』では和彦がヒロイン達と恋愛的な意味で距離が縮まることはない。恋が成就しなかったらからこそ見えてくる、各ヒロインの意中の男子生徒に対する想いの深さに焦点を当てた異色のラブコメである。「負けヒロインにスポットライトを向け続ける」という展開もそうだが、主人公の立ち位置にも注目したくなる『負けヒロインが多すぎる!』。

 和彦は体育館倉庫に一緒に閉じ込められたり、線香花火と線香花火をくっつけて火をもらったりなど、一般的なラブコメアニメであればフラグが乱立しそうなイベントをいくつも経験する。それでも“ルート”に入ることはない。また、負けイン達は言ってしまえば近々で恋に敗れているため、和彦をコロッと好きになってもおかしくない。もし負けインが和彦を恋愛対象と捉えてしまえば、負けイン達の意中の男子生徒に対する想いが浅く映ってしまことになり、本作の根底を揺るがしかねない。しかし、どれだけ傍にいてくれても、どれだけ誰にも話せないような話を聞いてもらえても、重複になるが負けイン達の選択肢に“和彦ルート”は登場しない。

 和彦は主人公でありながらも作品の傍観者という絶妙なポジションを終始担い、負けイン達が恋に破れる姿を見守りつつも、恋人に選ばれなかったことへの悔しさ、自分ではない恋人と一緒に幸せを築くことを素直に願えない自分自身への嫌悪感といった本音を引き出していく。恋愛対象に入ることはなく、“何でも話せるけどいい人止まり”という脇役ポジションを全うしているからこそ、負けイン達は心置きなく本心を吐き出せているように思う。

 本人にとっては不名誉かもしれないが、ヒロインを引き立たせ、モブキャラに徹する斬新な主人公象を見せた温水和彦。9月28日深夜から随時放送される最終回となる12話は、「俺はひょっとして、最終話で負けヒロインの横にいるポッと出のモブキャラなのだろうか」という不穏なタイトルのオリジナルエピソードとなっている。最後の最後で和彦が従来のラブコメ作品のような主人公になるのか、はたまたタイトル通りのモブキャラになるのか楽しみにしたい。

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