セブン&アイHDどうなる? カナダのコンビニ大手が買収提案の衝撃(有森隆)
【企業深層研究】セブン&アイHD(上)
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セブン&アイ・ホールディングス(HD)が、カナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールから買収提案を受けた。
セブン&アイは特別委員会を立ち上げ、検討を始めている。「『著しく』過小評価している」といった内容の書簡も送った。
再編論から経済安保まで議論は白熱化している。それを検証する前に、買収を提案したクシュタールがどんな会社かを見ておこう。
クシュタールは、ガソリンスタンドを併設するコンビニを展開する世界的な企業。カナダのケベック州に本社を置きトロント証券取引所に上場。クシュタールやサークルKなどのブランドでカナダや米国、欧州などおよそ30カ国で1万6700店以上を擁する。
2024年4月期の決算の売上高は692億ドル。日本円に換算すると約10兆円になる。セブン&アイの24年2月期の売上高は約11兆円。クシュタールより1割多い。
だが、株価を反映した時価総額はセブンの5.8兆円(12日)に対し、クシュタールは7.7兆円(同)。「セブンは割安」と判断して買収を仕掛けたとの見方が有力だ。狙いはセブンのドル箱である米でのコンビニ事業である。
経済安保の観点から見ておこう。セブンは外為法の対象になっている。今回の買収提案が、日本の経済安全保障の議論を呼び起こすことになる。友好か敵対的であるかにかかわらず、セブンの事業が国の食料安全保障に影響を及ぼすと判断した場合、国が投資の変更や中止を命令することができる。
米国でも壁が立ちふさがる。セブンは21年に米のガソリンスタンド併設型コンビニ、スピードウェイを買収するなどして、現在は米国のコンビニ業界でのシェアは8%で1位。クシュタールは4%弱で2位だ。買収が成立するとシェアは12%近くに高まる。
米ロイターは10日、米連邦取引委員会(FTC)が独占禁止法に抵触するかどうかを調査する方針を決めたと報じた。
英紙フィナンシャル・タイムズは、買収で合意しても、米規制当局の承認を得るには、事業分割を提案する必要があると伝えている。
クシュタールは21年にフランスのスーパー大手、カルフールに買収を提案したが、フランス政府が食料安保を理由に拒否し、買収を断念した。クシュタールによるセブンの買収は難しいという結論だ。
2000年代はじめに外資系の流通大手による日本市場への参入が相次いだ。カルフールは00年に千葉県に最初の店舗をオープン。続いて、02年にはドイツの流通大手、メトロ、03年にはイギリスのテスコが日本市場に参入した。
しかし、売り上げの伸び悩みなどを理由に、カルフールは05年に、テスコは11年、メトロは21年、それぞれ撤退した。
世界最大手のスーパー、米国のウォルマートも業績が低迷していた西友と資本提携し、08年には完全子会社にしてグルーブの傘下に収めた。だが、特売価格のチラシで集客する食品スーパーや、ネット通販との競争が世界的に激しくなるなか、21年には保有する西友の株式の85%を売却した。
クシュタールがセブンを買収しても、食品スーパー事業の経営は難しいという指摘もある。
それよりなにより、セブン(イトーヨーカ堂)の創業家はどう見ているかを検証してみよう。=つづく
(有森隆/経済ジャーナリスト)