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2024年8月8日、日向灘を震源とするマグニチュード7.1の大きな地震が発生し、「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」が一時的に発表されました。災害への備えで後回しにされがちな「トイレ」ですが、NPO法人日本トイレ研究所代表理事の加藤篤さんによると「発災後3時間以内に約4割の人がトイレに行きたくなる。だから水・食料より先にトイレ対応が必要」とのこと。そこで今回は、加藤さんの著書『トイレからはじめる防災ハンドブック 自宅でも避難所でも困らないための知識』から、今知っておきたいトイレの知識を一部ご紹介します。

【書影】トイレから防災を考えてみると、災害への正しい備えが見えてくる。加藤篤『トイレからはじめる防災ハンドブック 自宅でも避難所でも困らないための知識』

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便器内に溜まった水の跳ね出しは汚水逆流の兆候

もし水洗トイレの便器の底に溜まっている封水が便器から跳ね出す現象が起きたら、排水管のトラブルによる汚水の逆流が疑われます。

排水管はつながっていて、汚水は自然流下で高いところから低いところへと流れていきます。しかし、排水管のどこかに詰まりや管の逆こう配などの異常があると、汚水がスムーズに流れずに溜まってしまうことがあります。

このような状態で上階から汚水を流すと、管内の汚水が行き場を失い、どこかからあふれることになります。

前兆として、まず管内の空気が逆流し、封水内からポコポコと空気が上がってきます。そしてそれが進行すると、封水の跳ね出しが起こります。

この現象は、大雨で浸水し、下水道や排水横主管が満水になっている場合に水洗トイレを流そうとした場合にも起きる可能性があります。

例えば、便器のフタを閉めておき、その内側が濡れていたら、汚水逆流の発生を疑いましょう。

停電時は散水栓から水を確保する

私たちの住戸への給水は、道路に埋設されている配水管から給水管を分岐して敷地内に引き込んで水を届けます。

低層住宅の場合は、そのまま住戸内の蛇口に水が送られますが、高層住宅は水道水圧のみでは圧力が足りないので、ポンプで増圧・加圧します。その際に、受水槽で貯めてから増圧・加圧する方式もあります。

つまり、ポンプを用いて給水している建物は、災害で停電するとポンプが動かなくなるので断水します。一方で、低層住宅は停電時も水が出る可能性が高いです。

ただし、水道施設から水を送る圧力が低下している場合は低層住宅であっても水が出なくなります。

ポンプを使用している建物の場合、停電によるポンプの停止で断水しているのか、水道施設や配水管の被災により断水しているのかを見極める必要があります。

なぜなら、ポンプが原因での断水であれば、敷地内には水が供給されているため、何らかの方法で水を確保できるからです。

ポンプ停止による断水かどうかを簡易にチェックするひとつの方策として、屋外で水を使うための給水口(散水栓等)から水が出るかどうかをチェックする方法があります。

ポンプを介する前の給水口から水が出るのであれば、地域への給水は機能していることになります。日頃から散水栓等の場所を確認しておきましょう。

断水時にバケツで水を流す方法

断水したとしても、排水管や下水道等が機能していればバケツで便器に水を流すことができます。もちろん、それなりの水量を確保できることが前提です。

バケツで便器に水を流すにはコツが必要です。家庭の大便器には様々なタイプがあり、設計洗浄水量が異なるので、バケツ洗浄に必要な水量も異なります。

ただし、コツを掴めば3〜6リットルで流せるようになります。ぜひ練習してみてください。

バケツ洗浄の手順を以下に説明します。

(1)便器によっては、停電時、バケツ洗浄に切り替える操作が必要な場合があります

(2)本物の大便では気が引ける場合、トイレットペーパー(シングル)90cmを8つ折り(正方形)にしたものを4つ(ダブルなら2つ)作成し、それを重ねて疑似的な便とします

(3)疑似的な便を大便器の封水の真ん中に置いて、しっかりと水に浸します

(4)バケツの水で大小便を便器奥に押し込むように素早く流します(バケツの水が常に大小便に当たり続けるように流します)

(5)トイレットペーパーと水がゴボゴボッと吸い込まれるように流れていけば成功です

バケツ洗浄後に封水が少なくなったら、少し水を足してください。排泄後に使用したペーパーは詰まりの原因になるので流さずに分別してください。

洗浄タンクに水を入れるとトラブルの原因になる?

災害時であっても排水管や下水道等に異常がなければ、便器に水を流すことができます。

水洗便器は設計水量が決まっています。大小便やトイレットペーパーを適切に流すには、6リットル便器であれば6リットルを流すことが必要です。


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8リットル便器であれば8リットル必要です。便器から排出し、建物内の排水管を通って、下水道等まで運ぶことが必要になるからです。

しかし、災害時は十分な水量を確保できません。そのときの対応方法として風呂の残り湯や雨水等を活用する方法があります。

この場合、バケツ等で直接便器に流すようにしましょう。便器に直接流す方法は3ページを参照ください。

洗浄タンクに水を入れることはおすすめできません。その理由は次の3つです。

(1)最近の洗浄タンクは小型化がすすんでいるため、タンク内の構造もコンパクトになっています。そのため、タンク上部からドッと水を入れてしまうと故障の原因になります。

(2)風呂の残り湯や雨水等には、雑菌が入っているので、そのような水を入れてしまうとカビ等の発生の原因になります。

(3)洗浄タンクを使用する場合、設計水量を注水する必要があります。

設計水量より少ない水だと上手く便器洗浄できない、もしくはつまりの原因になります。断水時は水が貴重です。

トラブルを感知するには汚水マスのチェックが有効

地面と建物では地震による挙動が異なるため、特に排水横主管が建物の外に出る部分や地下に埋設されている部分は、破断したり詰まったりする可能性が高くなります。

液状化により砂等が管内に流入することもあります。こうしたトラブルはどのように点検すればよいのでしょうか。

こんな時は、排水横主管が建物の外に出て下水道等に接続するまでに数か所設けられている点検口である「汚水マス」が役立ちます。

塩化ビニール素材の汚水マスのフタであれば、マイナスドライバー等で開けることができます。大きさは、片手が入るくらいのものから人が入れるほどのものまで様々です。

敷地内の汚水マスが隆起していないか、汚水マスや排水管がある場所が大きく地盤沈下していないか、汚水マスの内部に異常がないかどうかを確認しましょう。

異常を判断するには、平常時の状態を把握しておくことが必要です。汚水マスの位置、外観、内部の構造、汚水が流れている状況などを写真で記録して関係者で共有しましょう。

目視で外観や内部に異常がある場合は、水洗トイレを使用しないことをおすすめします。

※本稿は、『トイレからはじめる防災ハンドブック 自宅でも避難所でも困らないための知識』(学芸出版社)の一部を再編集したものです。