撮影◎筆者 以下すべて

写真拡大 (全3枚)

放送作家・コラムニストとして、数多くの著名人にインタビューし、コメンテーターとして活躍している山田美保子さん。小さいころは引っ込み思案で話すことも苦手だったそう。そんな山田さんを変えたのは何だったのか。さまざまな出会いや、出会った人のアドバイスを通じて、今の自分があるという山田さんが、自分が楽になるコミュニケーション術を紹介する新連載。第50回は「草笛光子さんのこと」です。

【写真】和気藹々と撮影にのぞむキャストの皆さん

* * * * * * *

「あさイチ「プレミアムトーク」に木梨憲武さんが登場!自伝は6万部!木梨憲武さんブームがキテいる。プロデューサーは妻の安田成美さん」はこちら

女優に年はない

「女優に年はないと思わないと色んなことができない」

とは、6月21日に公開された映画『九十歳。何がめでたい』に“リアル90歳”で主演されている草笛光子さんの言葉です。

私はバラエティ専門放送作家ゆえ、女優さんには、トークバラエティでの打ち合わせだとか、番宣番組でのインタビュー立ち合いなどでしかお目にかからないのですが、その際、何度か直接耳にしたのが「女優に年はない」でした。

忘れられないのは、「オバタリアン」が流行語になっていた頃、深夜帯の情報番組の特集で某有名女優さんに直接電話で出演オファーしたときのこと。「つまり、私に“おばさん特集”に出ろということ?」と確認された後、キツ目なテンションでかなり長い時間、説明を受けた間、何度も何度も「女優に年はない」と聞かされました。いま思い出しても顔から火が出るような、お恥ずかしい想い出です。

「まだまだ、お若い」


山田さんがイベントに贈った花

草笛さんに話を戻すと、「ある程度、年相応なことは大事ですけれども、そういうものは私、あまり考えたくない人」とも仰り、昨年10月から12月にかけて行われた『九十歳。〜』の撮影についても、「あと、ふた月ぐらいやりたいと思った」と……。

それでも撮影中には、肺炎を発症されたそうなのですが、すぐに回復されたそうです。そのことを聞いた、原作者で現在100歳の佐藤愛子さんは、「まだまだ、お若い」と綴った草笛さんへのお手紙を公開前日イベントの場に送られたのでした。

私は草笛さんや唐沢寿明さん、真矢ミキさん、藤間爽子さん、宮野真守さん、LiLiCoさん、主題歌を担当した木村カエラさん、前田哲監督らが登壇された、そのイベントに取材で行かせていただきました。その後、光栄なことに、キャストやスタッフの皆さんが控室に集まる「乾杯の会」にも呼んでいただきました。

知り合いのスタッフさんの計らいで、草笛さんに御挨拶をさせていただく機会にも恵まれました。

とにかく軽やかでいらっしゃる

草笛さんはSKD(松竹歌劇団)御出身だからでしょうか、とにかく立ち姿や身振り手振りが美しくて、とてもではありませんが90歳には見えません。しっかりした発声と見事な滑舌で、イベント後もお一人で地方のテレビ局向けのVTR録りをされていたのです。

その声は、何枚もの間仕切りを超えて、大きな会議室に響き渡り、特に『九十歳。何がめでたい』の絶妙の間と抑揚をつけたタイトルコールの可笑しみと言ったら、ありませんでした。

その後は、ドレスからシャーベットカラーのパンツスーツに身を包み、キャストやスタッフの皆さんが待つ「乾杯」会場へ入られた草笛さん。

スタッフが構えるスマホカメラに向かって、昭和のピースも、令和の若者がとるポーズもなんなくこなすなど、とにかく軽やかでいらっしゃるのです。

そんな草笛さんだからでしょうか。拝見した映画のメイキング映像でも、イベント中も、エスコートなどはしていても、前田監督をはじめ、キャストの皆さんたちが草笛さんをちっとも“年寄り扱い”していないのです。

若い俳優でも、なかなかできない

映画『老後の資金がありません!』でも草笛さんとタッグを組んでいらっしゃる前田監督。そのツッコミは容赦なくて(苦笑)、現場で監督の演出以上に張り切って動いたり、その場からハケなければならないのに残ったりする草笛さんに対し、食い気味に注意されるのです。

公開前日イベントの段取りについて、「いつものように唐沢さんと真矢さんには草笛さんをエスコートいただいて……」とスタッフから説明された際にも、唐沢さんは食い気味に「え〜ッ?」と嫌そうなリアクションをなさるのです。もちろん冗談ですが、草笛さんには冗談が通じると思っているからこそのこと。

それでも、映画の見どころを「それはもう、草笛さんのマシンガントークですよ」とズバリ仰り、若い俳優でも、なかなかできないと言い切ったのは唐沢さんでした。

草笛さんと所属事務所が同じ真矢さんは、草笛さんの自由な働きぶりに驚き、尊敬もされていました。ちなみに真矢さんは草笛さんの娘役、そして孫役は藤間爽子さんです。

宝塚のトップスターだった真矢さんと、「三代目 藤間紫」として日本舞踊紫派藤間流の家元を務められている藤間さんは、SKD出身の草笛さんに対し、なみなみならぬ想いと共に、色々なことを聞いてみたい様子。大先輩から、多くのことを吸収させてもらいたいと思っているように見えました。

奇跡の90歳


『九十歳。何がめでたい』(著:佐藤愛子/小学館)

「年をとってくるといいところを見せようとか、ちょっといいことをやっちゃおうとか、そうなりそうなことがずいぶんありますけど、そこをなんの隔てもなくパァッとやって、やり抜いて終われたらいいです」
「まだやれるだけのことはやりたい」
「それが私の女優人生」

“リアル90歳”で主演映画『九十歳。何がめでたい』の公開イベントやPR番組などをすべてこなされたことは本当に御立派であり、近しいスタッフはみな、「奇跡」という言葉を連発していらっしゃいました。

そういえば、若々しく、美しい女性の形容に、「奇跡の〜」というのがありますけれど、草笛さんこそ、「奇跡の90歳」であり、これを超えられる方は恐らくいらっしゃらないと思われます。

ちなみに、唐沢さん曰く、草笛さんは、90歳で映画に主演をされた“初めての人”でもあるそうです。

作品内には、草笛さんが「フンッ」と憤慨されるようなシーンがよく出てくるのですが、それらを見るにつけ、つい縛られやすい自身の年齢を「フンッ」と鼻で吹き飛ばしたいと思いました。お目にかかれて本当に光栄でした。草笛光子さん、ありがとうございました。