(写真提供◎photoAC)

写真拡大 (全2枚)

厚生労働省が発表した「第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」によると、生きがいや生活満足度について、日本では「多少感じている」人の割合が43.8%で最も高く、次いで「大変感じている」人が23.6%。一方、アメリカとスウェーデンでは、「大変感じている」(アメリカ57.4%、スウェーデン33.1%)の割合が最も高かった。ストレスを感じないために、自分らしく過ごすには方法とは。『パリジェンヌはすっぴんがお好き』を著した藤原淳さんいわく、パリジェンヌの生き様を知ると肩の力が抜け、「ありのままの自分でいいんだ!」と納得できるという。ルイ・ヴィトン本社に17年間勤務し、PRトップをつとめた藤原さんが教える、自分なりの生き方を貫くヒントとは

【書影】どうすれば自分なりの生き方を貫くことが出来るのかを提案する本『パリジェンヌはすっぴんがお好き』

* * * * * * *

90歳超えのパリジェンヌ

パリに暮らしていると、街中で素敵な年配の女性とよくすれ違います。私が住む建物の管理人のおばさんは、ポルトガル出身ですが、40年以上もパリに住んでいる筋金入りのパリジェンヌです。

そして夏でも冬でも、花柄の短いワンピースにヒールの靴を履いています。

建物で最年長、ファッションジャーナリストの大内順子さんにそっくりの大きなサングラスがトレードマークのおばあさまは90歳を優に超えていますが、彼女もいつもハイヒールです。

杖をつきながらヒールでヨチヨチ歩いている姿を見かけると、私など心配でかけ寄りたくなってしまうのですが、一人暮らしの彼女は人の助けを必要としません。

おしゃべりな管理人さんの話によると、彼女がヒール以外の靴で出掛けることはないそうです。ヒール以外の靴は持っていないのかもしれません。

彼女がヒールを履く理由

ある週末のこと。たまたまエレベーターでそのおばあさまと居合わせることがありました。気まずい沈黙を破ろうとした私は、後先考えず、

「そのお靴、素敵ですね」

と口走っていました。

(くだらないことを言ってしまった……)

後悔していた矢先、マダムがにこりともせずに言いました。

「5センチよ、5センチ」

「??」

「ヒールは5センチが最適なの」

見てみると、確かにヒールは高すぎもせず、低すぎもせず、ぴったり5センチです。

「やっと自分に合う高さがわかったのよ」

キョトンとしている私におばあさまは、

「いろいろわかったのは、60を過ぎてからよ」

そう言い残し、エレベーターを降りて行ってしまいました。

おばあさまは、自分に合い、自分が素敵に見えるヒールの高さを長年発掘してきたと言うのです。そしてそれを見つけるのに60年かかったと言うのです。エレベーターに一人、取り残された私は、なんだか背筋を正された思いでした。


(写真提供◎photoAC)

試行錯誤を繰り返して自分の軸を確立

当時の私は20代後半。自分のルックスが定まらず、試行錯誤を繰り返していた時です。この頃の写真を見ると、かなり一貫性のない格好をしています。

服に着られてしまっていたり、ちっとも似合っていなかったり、あまりサマになっていません。豪華な陶器に盛られて肩身が狭そうな惣菜や、反対に粗末なお皿にのせられてあまりパッとしないご馳走のように、なんだかチグハグなのです。

自分らしいスタイルがなかなか見つからず、焦りを感じていた私ですが、5センチのヒールのおかげで大事なことを見落としていたことに気が付きました。それは、私がこの歳で「サマになっていない」のは、ある意味、当たり前だということです。

おばあさまが「サマになる」ヒールを見つけたのは60歳を過ぎてから。つまり、60になるまで、いえ90になるまで、いろいろ試してみたっていいということです。ゆるりと一年一年、試行錯誤を繰り返しながら、自分という軸を確立していけばよいのです。

そう思うと、歳をとるのが嫌なことではなく、私だけの密かな楽しみのような気さえしてくるのでした。

「五十にして天命を知る」と言ったのは孔子ですが、5センチのヒールのおばあさまは、「六十にして我を知る」と言い放った強者なのです。

もう一つの大切なこと

もう一つ、おばあさまが教えてくれた大切なこと。それは、パリジェンヌは「年齢を重ねても美しい」のではなく、「年齢を重ねるからこそ美しい」ということです。

それは「老けると劣化する」という私の先入観を根本から覆してしまうような、世紀の大発見でした。

職場でも、とりわけ目を引くのは年配のパリジェンヌです。「あっ、素敵だな」と皆が振り返るのは例外なく、若い「マドモワゼル」ではなく、「マダム」と言われる年代の女性なのです。

そんなマダム達は、決して「おばさんっぽい」服を着ることがありません。ハイヒールでも、ミニスカートでも、胸元を大きく見せる服でも、自分が良しとしたモノは平気で着ます。

そして妥協することなく、自分が心地よいと思うことができる形、色、そして素材を選び、自分に合うモノを追い求め続けています。

幾つになっても「年相応」の服ではなく、「自分相応」の服を貫いているのです。

自分らしい生き方を貫く勇気と気概。そんなことを教えてくれたおばあさまは今日もサングラスをつけ、ヒールを履き、近所のパン屋さんにバゲットを買いに行きます。

※本稿は、『パリジェンヌはすっぴんがお好き』(ダイヤモンド社)の一部を再編集したものです。