100人以上の死を見守った猫の不思議な力とは。介護施設で活躍する「セラピーキャット」の存在
環境省が公開している「犬・猫の引取り及び負傷動物等の収容並びに処分の状況」によると、犬や猫の返還・譲渡率は年々増加しており、令和4年度には76%と最も高くなったそう。そのようななか、作家として活動するカリーナ・ヌンシュテッドさんとウルリカ・ノールベリさんは「猫がストレスや不安を軽減することは、研究で示されている」と話します。そこで今回は、お二人の著書『にゃんこパワー:科学が教えてくれる猫の癒しの秘密』から、不思議な<にゃんこパワー>の秘密を一部ご紹介します。
【書影】猫の不思議な力を解き明かす、にゃんこ本の決定版。カリーナ・ヌンシュテッド、ウルリカ・ノールベリ 翻訳:久山葉子『にゃんこパワー:科学が教えてくれる猫の癒しの秘密』
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猫の癒しの力
病を患うと、猫の癒しやサポート力を実感させられます。
普段より心が弱い時に、誰かの近くにいることがいかに大事かがよくわかるのです。
「私たち人間は、動物と暮らし世話をするようプログラミングされている」と精神科医のジェームズ・A・ナイト(James A. Knight)医師は言います。
今では自然や動物と調和して生きることが当たり前ではないからこそ、それを覚えておくことが大切なのでしょう。
猫はうつや認知症の患者、読み書きの困難など特別支援が必要な子供の支えにもなることが証明されています。
犬も医療分野で素晴らしい活躍をしていますが、猫のほうが普段の世話が簡単。
エサと水があり、用を足せる場所があれば、あとは基本的に自分で生きられます。
猫のように、足で着地する
ウルリカの友達がボッセという猫を飼っています。ゴミ箱の中でビニール袋に入った状態で発見され、栄養失調で衰弱していました。
当時は人が近づくと引っかこうとしましたが、愛情たっぷりにお世話をすると、人を信頼するようになりました。
ニーズさえ満たされれば、新しい家を見つけ、悪い経験を跳ね返し、2度目のチャンスをつかむ――そんな猫の話はよく聞きます。
私たち人間も、飢え死にする可能性は低くても、人生のどこかで現実に圧倒されることがあるはず。
病気、悲しみ、裏切りといった挫折を経験し、どうしようもない絶望にさいなまれるかもしれません。
自分の魂を大切にし、基本的なニーズを満たし、人生でいちばん風が強い時期にも一歩ずつ進んでください。
しなやかに、慎重に。そして猫のように足で着地しましょう。
死に寄り添う猫
大事な使命を見つけた猫もいます。本当に困難な状況にある人たちを助け、サポートする猫たちです。
統合失調症や認知症患者の介護施設では、セラピーキャットや介護猫が活躍しています。
(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)
『オスカー――天国への旅立ちを知らせる猫』という本があります。
老年医療専門医のデイヴィッド・ドーサ氏がその猫の話を『ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に掲載して注目を集めました。
白と茶のぶちのオスカーは瀕死の患者をそばで見守ってきました。
あと数時間しか生きられない患者の部屋の前をうろうろして、ベッドに跳び上がり、患者に寄り添うように丸くなるのです。
“デイヴィス夫人の隣で丸くなっているオスカーを見て、古代エジプトで一緒に埋葬された猫のことを思い出しました。とても穏やかな光景でした。「オスカーは死に瀕した患者とだけ過ごすの」と看護師メアリーは静かに語りました”(『オスカー』より)
「複数の研究から、介護施設に動物がいるのは非常にポジティブな要素だとわかっています。認知症だけではなく、うつや凶暴性を軽減するのにも一役買うのです」
ドーサ氏はインタビューで語っています。
オスカーの不思議な力
ドーサ氏が勤めるプロビデンスの認知症患者ホーム「スティアーハウス」では、早い段階から動物を採り入れていました。
皆が集うリビングでは鳥かごの中で小鳥が鳴き、本が書かれた2010年当時には合計6匹の猫がいました。
ことの始まりは、ホームの建設中にたまたまやってきた野良猫が、完成しても出ていこうとしなかったこと。
このヘンリーが最初の猫になりました。
ヘンリーが亡くなるとホームが空っぽになったように感じられたので、その穴を埋めるために6匹の猫を引き取り、その中の1匹がオスカーでした。
オスカーは甘え上手なタイプではなく、どちらかというと不機嫌な猫。
しかし患者が死に瀕していると、普段なら内気なオスカーがドアの前に立ち、かりかり引っかいて「中に入れてほしい」と頼むのです。
ベッドの足元のほうに跳び上がり、寝そべります。
ゴロゴロのどを鳴らし、患者が息を引き取ると部屋から出て、お気に入りの場所であるメアリーの部屋に帰ります。
「患者の死期が近づいたことに最初に気づいたのがオスカーだったということもあります。これまで100人以上の死に寄り添ってきました」と、ドーサは言います。
猫が死を招いているのではという憶測もありましたが、すぐに否定されました。
このホームの患者は全員歳を取っていて重い病気を患っています。
あと数日、数週間、数カ月の命なのです。
オスカーはその中でもあと数時間しか残っていない人の元へ行きました。
ドーサら専門家は、猫がどのように死を予知するのかを調べようとしました。
発せられる匂いに猫が反応するという仮説もありますが、猫にはやはり第六感があるのかもしれません。
※本稿は、『にゃんこパワー:科学が教えてくれる猫の癒しの秘密』(新潮社)の一部を再編集したものです。