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日々新しい美容法が生まれ続ける昨今、「今のスキンケアが自分に合っているか分からない…」と思っている人も多いはず。そのようななか、工学博士でありながら化粧品の研究・開発にも携わる、FILTOM研究所長の尾池哲郎さんは「ふだんのスキンケアを科学の視点でとらえかえせば、目からウロコの美容論にたどりつく」と話します。そこで今回は、尾池さんが科学の視点から「美とは何か」を徹底分析した著書『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』より、一部引用、再編集してお届けします。

【図】紫外線UVAとUVBの波長の違い。皮膚の真皮にまで到達し、老化とシワを促進するのはどっち?

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波長とは何か

光のスペクトル図をご覧いただくと小さな数字がありますが、これは「波長」を表しています。


光のスペクトル図<『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』より>

波長とは文字通り「波の山の長さ」のことです。山と山の間の長さとも表現できます。

赤い光の方が長い波長(大きな数字)、青い光は短い波長(小さな数字)になっています。

波長と聞くとわかりにくく響きますが、波が長かったり短かったりすると、ある距離での波打つ回数が変わります。

たとえば1mの距離を波長が短い光が走ると、波打つ回数が多くなります。(なお、「何が波打っているのか」という疑問がありますが、これは学者でも意見が分かれます。一説には「空間そのものが波打っている」と考えられています。)

そしてこの「波打つ回数」が「エネルギー」になります。丁度太鼓のイメージです。

波打つ回数が少ないとエネルギーは小さく、波打つ回数が多いとエネルギーは大きくなります。

赤色や赤外線は波が長いので波打つ回数が少なくなり、エネルギーが小さくなります。

エネルギーが小さいということは、体に与える影響も小さいので、安心して温まることができます。

また、赤外線はエネルギーが小さいため他の物質とお互いに反応しにくく、物質をすり抜けやすくなり、遠くまで届きます。

赤信号が遠くまで見えたり、夕暮れが赤く染まったり、炭火の遠赤外線でお肉の外を焦がさずに中を加熱することができるのは、赤外線の小さなエネルギーのおかげです。

しかし紫外線はその短い波長のために高いエネルギーを持っているので、物質を通り抜けることができません。肌に当たっても肌のごく表面(1〜2mm)程度しか浸透しません。

ということは、肌という薄い皮膜に、紫外線の全エネルギーが集中してしまうということです。ここに、紫外線の怖さがあります。

紫外線の破壊力

では紫外線の振動数はどれくらいでしょうか。

紫外線の振動数は「1000兆回」です。大きすぎてわけが分かりませんが、電波の100万倍の回数です。しかも波長はナノメートル、つまりヒトの遺伝子やたんぱく質と同じサイズなのです。


『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』(著:尾池哲郎/晶文社)

遺伝子やたんぱく質に1000兆回という振動が直接伝わってしまう。紫外線の危なさが実感できます。

紫外線の影響力の大きさを具体的に見てみます。

紫外線はその高いエネルギーで肌表面の化学反応に影響を与えます。

ビタミンDの合成のエネルギー源になるなど良い影響もありますが、多くの場合たんぱく質を破壊し、肌細胞を壊し、特に遺伝子への悪影響はたいへん深刻なものです。

遺伝子は直径が1〜2nmくらいの糸ですが、人体のすべてのたんぱく質の設計図です。

ここに紫外線が衝突すると、たんぱく質を作るための設計図である分子の結合が切れたり、ずれたりします。

傷ついた遺伝子は、間違ったたんぱく質や細胞を作り出すことがあります。これが体のメカニズムを狂わせたり、ガン細胞を生み出したりします。

波長の短い電磁波は紫外線のほかにX線やガンマ線と呼ばれるものがあります。紫外線の次に波長が短いのがX線で波長が数ナノメートルくらい。それよりさらに波長が短いのがガンマ線です。

X線やガンマ線は「放射線」とも呼ばれ、それらを浴びることを「被爆」と呼び、ガン細胞を生み出す可能性が知られていますが、紫外線にもそれと同じ破壊力があります。深刻な症状になるまでの時間に少し差がある程度です。

太陽から放たれるこうした危険な短い電磁波を吸収し、地表にまで届かないようにしてくれているのがオゾン層です。

オゾン層は、地球が誕生してしばらく時間が経ってから、ようやくできあがったことが知られています。

上空にできるまでほとんどの生物は海に生息していたのですが、紫外線が降り注いでいるために、生物は海から陸に上がることさえできませんでした。

これができることによって、生物は陸上でも生活することができ、徐々にその種類も多様になっていきました。

そのオゾン層も環境破壊によってどんどん薄くなり、場所によっては危険な電磁波が通り抜けてしまうオゾンホールもできてしまっています。

今は人類史上もっとも紫外線を気にしなければならない時代と言えます。

もっとも怖いのはUVA

紫外線には波長の長いもののほうからUVA(400〜315nm)、UVB(315〜280nm)、UVC(280nm未満)という3種類があります。

それぞれ下のような特徴があります。

UVA(400〜315nm):色素沈着(サンタン)
UVB(315〜280nm):日焼け(サンバーン)、ビタミン生成
UVC(280nm未満):殺菌作用

UVCは3つの中でもっとも波長が短いのでエネルギーも最も高くなります。

コンビニの入り口などでたまに見かける青い光の殺菌灯に使われている紫外線がまさにUVCです。

しかしUVAやUVBのほうが、美容業界では圧倒的に話題に上がることが多いです。それはUVCが大気によってほとんど吸収されているためです。

波長が長いUVAは紫外線の中でもっとも奥まで届きます。赤外線ほどではありませんが表皮をとおりこして真皮まで届いてしまいます。

UVBの場合は肌表面が焼けたりメラニンが増えたりするだけですが、UVAの場合は肌の内部構造や遺伝子を傷つけ、シワの直接的な原因になります。

UVA用の効果数値「PA」

開発当初のUVクリームは日焼け対策を主な目的に開発されたため、防ぐ紫外線はUVBだけでした。

「SPF」という言葉がすっかり浸透していますが、この数値もUVBに対する効果だけを表したものです。

しかし紫外線への理解が進むにつれ、UVBよりもUVAの方が怖いということがわかってきました。そこで「PA」というUVA用の効果数値が新たに登場しました。

よく知られている通り、UVAは冬場でも量があまり減少しません。地表に届く紫外線の99%がUVAになることもあります。

皮膚の真皮にまで到達し、肌の弾力を生み出しているたんぱく質を変性させ、老化とシワを促進します。

ちなみに、UVAによる色素沈着(サンタン)はUVBによって生成されたメラニンがUVAによって褐色に変色したものです。

夏は対策をとるかたが多いので、紫外線問題とはむしろ冬場のUVAだと訴える研究者もいます。

美肌を長続きさせるためには、一年を通じた「UVA対策」が必要です。

※本稿は、『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』(晶文社)の一部を再編集したものです。