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文部科学省が実施した「令和2年度 家庭教育の総合的推進に関する調査研究」によると、子育ての悩みは「しつけの仕方が分からない」「生活習慣の乱れが不安」と回答した人が4割近く。そのようななか「親の価値観が、子どもの価値観の土台になる」と話すのは、学校法人洗足学園小学校前校長、現理事の吉田英也さん。今回は、吉田さんの初の著書『心を育てる中学受験-全員が中学受験する洗足学園小学校が大切にしていること』から、子どもの心を育てるヒントを一部ご紹介します。

【書影】名門小学校・前校長が明かす「人生の役に立つ」受験のすすめ。吉田英也『心を育てる中学受験-全員が中学受験する洗足学園小学校が大切にしていること』

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スマホ、ゲーム、テレビ……ルールは「守れる」ものにする

子どもの教育やしつけで悩んだり、迷ったりすると、ほかの家庭のやり方や本に書かれていることを参考にしたくなる場合があるかもしれません。

誰もが自分の家庭の考え方ややり方に絶対の自信を持っているわけではありませんから、隣の芝生が気になるのがむしろ自然でしょう。

しかし、ほかの家庭のやり方や本に書かれていることをそのままやってもうまくはいかないように思います。家庭によって、考え方が違うのは当然だからです。

例えば、夕食を何時ごろ食べて、何時ごろ就寝するか、子ども部屋をいつ与えるか、テレビを一日にどのぐらい見せるか、ひっきりなしに発売されるゲームソフトをどのようなタイミングで与えるか、スマホをいつ持たせるか、といったことは、家庭によって考えが異なることだと思います。

そんな悩みについては、自分の家庭の根本的な考え方に立ち返って判断することが大事です。

「うちのパパがそういうから……」と週末しかゲームをやらせないのを父親のせいにして、父親が不在のときは平日でもゲームに興じることに母親が目をつぶるのであれば、そんなルールは最初から作ってはいけません。まるで父親の目をごまかす術を教えていることになってしまうからです。

家の中でルールを作る場合は、子どもが無理なく守れるルールにしておくべきでしょう。そして、ルールを守る子どもをうんとほめてあげてください。

やがて誰も見ていなくても、自分で自分を律することができるようになるでしょう。何かルールを変えたい場合は、きちんと家族で話し合う習慣をつけておくことが大切です。

一度ルールを決めたら「例外」を作らない

一番よくないのは親が、何も考えようとしないことです。

行き当たりばったりで、「宿題しなさい」と言ってみたり、散らかっていることを急に指摘したりするのもよくありません。毎日淡々とやることが大切なのですから、毎日言い続けなければならないのです。

例えば4年生の息子からスマホをねだられたAさん。「何でも言うことを聞くから」「勉強しっかりやるから」と言われ「先に宿題をすませる」などのルールを決めたうえで買い与えました。

最初のうちは素直に守り、勉強にも真面目に取り組んでいましたが、次第に夜遅くまで勉強をしているふりでスマホをいじるようになりました。

注意すると、ベッドにまで持ち込んでメールやLINEをする始末でした。叱っても、取り上げると脅しても、その場限りになってしまいます。

しかし実は、母親のAさんが子ども以上にスマホに依存しており、片時も手放さない生活を送っていたのです。そんなおかあさんから、約束事を守れないなら取り上げると脅されても、説得力がありません。

この家では家族のルールになっていないのです。ゲームやスマホのルールを決めたら例外を作らないこと。そして親が手本を示すことが大切です。

迷ったら、大事にしたいことはなにか、に立ち返る

教育やしつけで困ったり悩んだりしたとき、両親が話し合うことなく、誰かの意見を聞くたびに、そのまま自分の子どもにあてはめて対処しようとするのは、賢い親のやることではありません。

親が真剣に悩む努力をせず、困難に立ち向かうことなく逃げてしまって、自分で判断せずに、なし崩しに事を済ませてしまうと、また同じような困難に当たったときに、同じように悩むハメになります。それでは親も子も成長は見込めません。

迷ったらそれぞれの家庭が大事にしている根本に立ち返る。まずは両親が話し合う。

先生に相談するのはよいですが、その場合にも、自分たちはこう思うのだが、ということをあらかじめよくまとめてから相談するとよいと思います。

これを忘れなければ多少の紆余曲折はあるとしても、自然に問題は解決に向かうのではないでしょうか。

親が子どもに気を遣わせていませんか

6歳までは伸び伸びと育てられていたお子さんが、小学校に入ったとたんに萎縮してしまうことがあります。たいていは親御さんが、点数至上主義である場合が多いようです。

テストの結果だけを見た親はがっかりして、思わず顔に出してしまいます。子どもは、親をがっかりさせたことで悲しい気持ちになるので、悪い成績をとったときは、内緒にしようと考えます。


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子どもにそんな気を遣わせてはいけません。よい成績をとろうと、たまたま点数が悪かろうと、あなたのことが大好き、という気持ちをいつも忘れないでください。

親のほうは、わが子がよくない成績表を持ち帰ると、この子には才能がないのか、それとも素質が悪いのかと悩んでしまうかもしれません。

覚えておいていただきたいことは、学力は才能や素質ではないということです。

人間が本来備えている知能に大きな差はないと言われます。だれでも努力し、やり方を工夫すれば学力はつきます。つまり、学力のあるなしは、やったかやらないかの差なのです。

誰でもきちんと時間をとって勉強すれば学力はつきますし、勉強しなければ学力はつきません。

もちろん要領の善し悪しや性格による違いはあります。短時間で勉強ができ、学習内容が記憶によく残るタイプと、時間がかかり記憶に残りにくいタイプとがあるのは確かです。

しかし、前者のタイプの子も、だんだんと内容が複雑になるとそれまでのように短時間で理解できるというわけにはいかなくなります。中学・高校・大学と高度な内容を学習するようになれば、だれでも時間をかけて積み重ねる勉強が必要なのです。

「なぜ勉強するの?」への答えは

多くの子どもにとっては、ゲームやマンガ、テレビのほうが面白いですし、勉強はつまらないこともあるし、やらなければ成績が下がり、余計につまらなくなるという悪循環にも陥ります。

子どもたちも「なぜ勉強するの?」と疑問をぶつけてくるようになります。

なぜ勉強するのか。それはたくさんの知識を身につけて、困ったことに出会ったときに、どうにかこうにか切り抜ける知恵を持てる人間になる、自分の幸せを見つけられる人間になるため、というしかありません。

これはかなり概念的な説明なので、子どもにはわかりにくいでしょう。

だからといって、いい学校に入って、いい仕事につけば、お金持ちになれる、という説明をしてしまうと、お金持ちになるために勉強するという論理になってしまいます。

何のために勉強するのかという質問に、うまく答えるのは難しいことです。なぜなら、その子によって、そして育った家庭によって答えが変わってくるからです。

自信をつけるため、努力することを身につけるため、豊かな人生を送るため、などなど、その子の発達過程を見極めながら、その子にとって今、どういう表現が適切なのかを考えて、親子でそのときの暫定的な結論を出してみていただきたいと思います。

その答えこそがまさに「生きる力」を備えるためではあるのですが、その概念が理解できるのは、大人になってからです。そこが厄介であり難しいところです。

※本稿は、『心を育てる中学受験-全員が中学受験する洗足学園小学校が大切にしていること』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。