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厚生労働省が実施した「令和4年 国民生活基礎調査」によると、65歳以上の高齢者がいる世帯のうち51.6%が単独世帯となっているそう。そのようななか、生前整理や遺品整理で多くの高齢者のひとり暮らしをサポートしてきた、株式会社GoodService代表の山村秀炯さんは「老後のひとり暮らしには、若い頃や家族と暮らすときとは違った<壁>がある」と話します。そこで今回は、山村さんの著書『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』から、一部引用、再編集してお届けします。

【グラフ】「人付き合いがめったにない」と答えた比率をOECD諸国で比較。日本は第何位?

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ひとり暮らしの壁を越える人の特徴

ストレスや不安を減らして快適におひとりさま生活を満喫している人たちを何人も見てきてわかったのは、2つの共通点です。

(1)自分でできないことが増えても、自分で決めている

70代後半のひとり暮らし女性・久住さん(仮名)は、娘さんに住み替えを提案されて、老人ホームに移ることを決めました。

娘さんが主導権を握っているように見えるかもしれませんが、決めたのは久住さんご本人です。

この「決めた」という実感がとても大事だと私は思います。

仮に久住さんが体調を崩して、介護が必要になってそのまま施設に入ったとしたら、少し「決めた感」が薄れます。

もしかしたら、「もっとこうできたかも」「ああしたらよかったかも」と考えてしまうかもしれません。

他人に決められたとしたら、もちろん大きな不満が残るでしょう。

「捨てようかな」と思っていたコレクションを自分で捨てるならいいものの、他人に捨てられると腹が立つもの。

運転免許の自主返納をする人も増えてきましたが、他人に「返納しろ」と言われるとちょっと嫌な気持ちになるでしょう。

たとえ同じ結果になろうとも、自由意志で決めたという体験があるかどうかで本人の満足度は大きく変わります。

「自己決定」は幸福度に影響する

こんな研究結果もあります。

2018年、神戸大学の西村和雄特命教授と同志社大学の八木匡教授が、「自己決定」が幸福度に大きな影響を与えるという研究結果を発表しました。


『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』(著:山村秀炯/アスコム)

同研究では、健康と人間関係の次に自己決定が幸福度に影響し、所得や学歴の影響を上回るとされています。

老後のひとり暮らしでは、なんでも自分でやりたいと思っていても、徐々にできることは減っていきます。誰でも同じです。

それを受け入れて、早めに自分でどんどん決めていける人は、とてもスムーズにひとり暮らしの壁を越えられています。

自己決定のために必要なのは、選択肢を持つことと、タイミングを逸しないこと。

孤独は適度に楽しみながら、孤立はしない

(2)孤独は適度に楽しみながら、孤立はしない

『ムーミン』シリーズに登場するスナフキンをご存知でしょうか。

彼は孤独を愛しています。他人に干渉されることなく、自分の思うままに生きる。おひとりさまの達人です。

スナフキンのようなキャラクターは、他の作品でもときおり見られます。

孤独というのは人によっては価値のあるもので、彼らに憧れたり共感したりする人も少なくないということでしょう。

たしかに、人間関係はときに大きなストレスの原因になります。

大阪府門真市の医師・辻川覚志氏が60歳以上の484名にとった「同居より独居のほうが幸福度が高い」というアンケート調査も、それを裏付けています(『老後はひとり暮らしが幸せ』、水曜社)。

また私の友人の阿久津さんも「お互いに気を遣うくらいなら」と離婚しました。

ただし、注意しなければならないことがあります。

孤独と孤立は違うということです。

孤独は“感覚”であり、孤立は他者と切り離された“状態”です。

スナフキンは孤独が好きですが、友人であるムーミン一家との関わりは描かれています。

阿久津さんもゴルフ仲間や私のような友人がたくさんいます。

彼らはひとりの時間を大切にしながらも、決して孤立はしていないのです。

これは、老後ひとり暮らしの壁を越える大切なポイントになります。

社会的孤立に陥りやすい日本

実は、日本は社会的孤立に陥りやすい国です。

過去に行われた調査では、OECD諸国の中で、人付き合いが滅多にないと答えた人の割合がもっとも多かったのが日本でした(「Society at a Glance」2005年)。

これは、人との関わりがなくてもある程度は生活できるという、日本社会の成熟を示しているのかもしれません。

しかし歳をとれば、話し相手や相談相手、身元を保証してくれる人、日常生活の世話や介護を頼める人、死後の手続きを頼める人など、セーフティネットとして必要な人間関係というのが出てきます。

内田樹氏の著書に『ひとりでは生きられないのも芸のうち』(文藝春秋)というものがあります。

この本では「この人がいないと生きていけない」と思える人が増えることが成熟であると述べられています。

おひとりさまには「人に頼りたくない」「迷惑をかけたくない」と言う方が多いのですが、できないことは人にやってもらって当然ではないでしょうか。

ただし、自分ができることは積極的に人に提供する。それが共同体を支える相互扶助だと理解できます。

自立することは孤立することではありません。壁をうまく越える人は、ストレスにならない適度な人間関係を上手に築いています。

※本稿は、『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』(アスコム)の一部を再編集したものです。