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日々新しい美容法が生まれ続ける昨今、「今のスキンケアが自分に合っているか分からない…」と思っている人も多いはず。そのようななか、工学博士でありながら化粧品の研究・開発にも携わる、FILTOM研究所長の尾池哲郎さんは「ふだんのスキンケアを科学の視点でとらえかえせば、目からウロコの美容論にたどりつく」と話します。そこで今回は、尾池さんが科学の視点から「美とは何か」を徹底分析した著書『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』より、一部引用、再編集してお届けします。

【図】季節や年代による肌質の変化と、化粧品のカバー範囲

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思っているよりも速い

私たちは「変化する生命体」です。肌や内臓や脳の構造は固定されておらず、常に柔らかく、絶えず変化しています。

これは周辺の環境変化に対応するための戦略であり、環境の急な変化に合わせて自分自身を変えるために柔軟性を維持しています。

それは季節であったり、年齢であったり、ストレスであったり、場合によっては化粧品を変えるという行為も環境の変化にあたります。

その変化に対応できる柔軟性は細胞膜の流動性によって実現されています。生物学ではこれを「流動モザイクモデル」と呼んでいます。

ここで重要なことは、その柔軟性の「デメリット」の方です。変化に柔軟だということは、影響を受けやすいことでもあります。

それが悪い方向に変化したケースが「肌荒れ」です。

肌荒れを何とかしたいと思って美容クリームを購入するときは、その時点の肌質に合わせて商品を選びます。購入する商品数はふつうは1種類です。

しかし体調や肌質は変化します。それも、私たちが思っている以上の振れ幅で、思っているよりも速く変化します。この「思っているよりも速い」という点がポイントです。

変化が遅く、徐々に変わってくれればクリームは使い切ることができます。

そのタイミングで買い替えようという気持ちにもなります。メーカーや商品への不満もそれほどではないでしょう。

しかし3分の1も使っていないのになぜかもう「合わないのではないか」という気分になってしまう。

そして別のクリームを購入しますが、しばらくしたらまた同じように途中で合っていないような気がしてくる。

使いかけの化粧品が引き出しからあふれ、「衣装ケースに入れてます」と笑う方もいらっしゃいました。

私たちは「変化が得意な生命体」です。その変化の速さが思っている以上だとしたら、買い替えが後手後手になってしまうのも納得がいきます。

おそらくそれが、いつまでたっても「合うものが無い」という不安につながっています。

肌質の変化のストライクゾーンを知る

私たちが美容クリームに抱く「合うものがない」という不安感。

それは肌環境の変化よりも速く肌を変えることが「できそうにない」という不安感だと表現できます。


『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』(著:尾池哲郎/晶文社)

逆に言えば、環境の変化よりも速く肌を変えることができる美容クリームであれば安心できるということです。

となると、その美容クリームの性能だけでなく、使い方も重要になってきます。美容クリームに必要な性能は2つです。

・「肌質の変化の幅」をすべてカバーできること
・「肌質の変化の幅」を超えてしまった場合の対処法があること

「肌質の変化の幅」とは、「乾燥肌」と「しっとり肌」の変化の幅のことです。この変化の幅は季節によっても変わり、年代によっても変わります。

目のまえの美容クリームになんとなく抱きはじめる不安感は、その美容クリームがカバーできる肌質の変化の幅を超えてしまった場合の対処法が見当たらないからです。

ということは、変化の幅の中央値(ストライクゾーン)がとても重要になります。

その美容クリームが、その変化の幅の片方だけをターゲットにしている場合、たとえば極端に乾燥した場合だけをターゲットにしていると、変化の幅の逆サイド(しっとり側)をカバーできなくなります。

購入する美容クリームの目指す肌質は最小値と最大値の間、つまり肌質の「ストライクゾーン」を狙うべきです。

それはもしかしたら「もの足りない」と言われているゾーン(肌感覚)にあるのかもしれない、と私は感じています。

「これは少しもの足りない」と感じる美容クリームが、もっとも最適な美容クリームである可能性が高いです。

「肌を甘やかさない」美容クリーム選びを

しかしマーケットにはすごくしっとりさせたいというニーズに合わせて、しっとり感を最大値にした美容クリームであふれています。ヒアルロン酸やコラーゲンたっぷり、といったような。

次の図は季節や年代による肌質の変化の幅と、それぞれのストライクゾーンの位置をイメージしたものです。

波線が肌質の変化の幅です。もし美容クリームがこの波線の左端、つまりしっとりの最大値を目指して作られたものだと、肌は保湿成分が常に十分にあると勘違いし、いつまでも保湿成分の自己生産を再開しません。

変化できる幅はどんどん狭くなり、ちょっとした環境の変化でも対応できない肌になってしまう危険性があります。

美容クリームの対応する肌質をストライクゾーンに合わせるということは、多くの場合しっとりから乾燥側にシフトすることになり、そうしたクリームには「もの足りなさ」を感じてしまいます。

しかしそうした「肌を甘やかさない」美容クリーム選びは、長い目で見れば長期間適度なしっとり感を維持してくれます。

ストライクゾーンを中心に、時には肌に適度な乾燥を与え、保湿成分の自己生産も促し、しっとり感が強い時は少なめに、乾燥が強すぎる場合はクリームを多めに、それでも乾燥する場合は高保湿のクリームで、というようにコントロールできる美容クリームがまずは必要になります。

ストライクゾーンの変化に注意

そして次に気をつけるべきことが季節や年代やストレスによる「ストライクゾーンの変化」です。

ストライクゾーンが変化すれば、その美容クリームは合わなくなります。


段階的に選択できる美容クリーム検討時メモ(写真:『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』より)

それは避けようがないために、季節や年代や状況に合わせた第二の美容クリームを併用する必要があります。

この第二の美容クリームは一般的に「高保湿クリーム」になります。

つまり、ストライクゾーンに対応する第一の美容クリームと、場合によって少量使用する第二の「高保湿美容クリーム」の2本準備すると長期間にわたって環境変化に対応できるようになります。

実際に複数の美容クリームを季節や体調に合わせて使い分けている方も多いと思いますし、大手化粧品メーカーは肌質に合わせたクリームを店頭でオーダーメイドできるマシンを開発しています。

私もユーザーが段階的に切り替えられる美容クリームを検討しました。

※本稿は、『美容の科学:「美しさ」はどのようにつくられるか』(晶文社)の一部を再編集したものです。