(撮影◎米田育広 以下すべて)

写真拡大 (全5枚)

大学在学中から本格的に演劇の世界に入り、1984年に劇団☆新感線の舞台に初参加してから40年、看板役者となった古田さんが今回挑むのは、「いのうえ歌舞伎『バサラオ』」のゴノミカド役。主演を務めるのは生田斗真さんで、さらに中村倫也さんが参戦。ドラマや映画でも幅広い役を演じる古田さんに、劇団☆新感線では初共演の2人への思い、私生活や俳優としてのスタンスなどをうかがった。(構成◎碧月はる 撮影◎米田育広)

【写真】赤いソファに寝そべる古田さん

* * * * * * *

劇団☆新感線での40年

関西発、ド派手なエンターテインメント舞台で大人気の劇団☆新感線。古田さんが初めて参加したのは約40年前。まだ学生だった当時を振り返る。

新感線に入ったのは大学1年生の時で、当時は大学を卒業したら東京の劇団に移ろうと思っていたのに、まさかこんなに長くいることになるとは。4年で出ようと思っていたんだけど、10倍になっちゃった。

入った時期に、ちょうど主宰のいのうえひでのりさんが「音楽劇に寄せていきたい」と言いはじめて。オイラはもともとミュージカル志向が高かったから、「じゃあ我々の好きなハードロックで音楽劇を作っていきましょうよ」と話したら、どんどんそっちの方向に進んでいきました。それで、知り合いのミュージシャンや大学の後輩を無理やり引っ張ってきて、大体自分の知り合いで固め出したら、「下品なロックミュージカルをやるには、この劇団にいるのが一番の近道じゃないかな」と思えてきて。わざわざ東京に行かなくても、ここでやりたいことができるからいいや、となり、あっという間に40年です。

本当はもっと下ネタの曲を歌いたいけど、新感線のファンの人も、かっこいいのが観たいでしょう。「じゃあ、それはもう斗真とか倫也にやらせておけばいいよ。オイラは出ないよ、そんなのには」ってこれまでは言ってたんですよ。だから、あいつらとは新感線で一度も共演していなかったんです。


「わざわざ東京に行かなくても、ここでやりたいことができるからいいや、となり、あっという間に40年です」

限られた人数の中で大戦争をする難しさ

今回、新感線の舞台で繰り広げられる物語は、美しさを武器に天下取りをもくろむ壮大なピカレスクロマン。島国「ヒノモト」に生まれた見目麗しい男・ヒュウガ(生田斗真)と幕府の密偵を務める謎多き男・カイリ(中村倫也)が出会い、流刑の身だった天子・ゴノミカド(古田新太)を担ぎ、幕府転覆を画策する。

今回の脚本を読んだ時、「これは大変だぞ」と思いました。前回の『天號星(てんごうせい)』では1対1の戦いが続いていくんだけど、今回の物語は戦争なんです。うちの劇団は少人数なので、限られた人数の中で大戦争をしなきゃいけない。アクションアンサンブルダンサーの連中は1人何役もやるから、アクションシーンでは、敵になって出てきて、やられて引っ込んで今度は味方になって出てくる、みたいなことになる。早く着替えて早く出なきゃいけないし、顔バレできないから被り物もしなきゃいけない。これは、舞台袖の交通整理が大変だぞ、と。

こうなると、怪我が怖いんですよ。踊れるやつも戦えるやつも限られていて、代わりがいないので。劇団の脚本を担当する(中島)かずきさん、演出を担当するいのうえさんも、舞台袖を全然見ていないから、劇団で一番古い人間としては、それが一番心配です。うちの劇団、昔みたいに小劇場でやっていた時とは規模が違うんだぞ!お前ら、わかってるのか!って。(笑)

ただ、斗真と倫也が成長しているから、そこは頼りがいがあります。あいつらは10代の頃から見ていて、当時からクレバーな若造たちだなと思っていたんですけど、2人とも40歳前になって、今は全体をスムーズに進行させることまで考えられるようになった。前は、「がんばれ、がんばれ」ってケツを叩かないといけなかったけど、今は逆にやつらが周りに「行こうぜ」と言える人間になっている。そこはやっぱり信頼できるし、ありがたいなと思いますね。

『バサラオ』は国取りの話なので、スケール感はまったく違うんだけど、過去に出演した映画『空白』でいうところの寺島しのぶちゃんの役が、今回はいっぱい出てくる感じかな。自分の正義というか「私が正しい」という押し付けをしてくる人たち。うざったいでしょう?

“良かれと思って”の人たちって、「誰にとって」良かれとなってほしいかといえば、結果自分のためなんですよね。相手のことを慮ってということじゃなくて、てめえが気持ちよくなるために我を通す。ただ、我を通して成し遂げたい目的が違う人たちばっかりなので、そこでぶつかり合うのが今回の物語です。

「自分の中にないもの」を演じる

古田さんが演じる役柄は、実に幅広い。「NGがなくて便利」なのが役者としての自分の武器と語る古田さんは、どのような心持ちで俳優という職業と向き合っているのか。

俳優である以上、どんな注文も受け入れる準備はしておかなきゃいけないと思っています。たとえば、「役が抜けない」と言っている人は、ビリ―・ミリガン(解離性同一性障害の当事者。ダニエル・キイスの著書『24人のビリー・ミリガン』で話題となった)の役はできないよね。24人いるわけだから。それは俳優としては大失敗だと思うんです。24人の人格を演じられないなら俳優とはいえないし、そのぐらいできなきゃ俳優という職業を楽しめないと思う。

連続殺人犯の役にしても、「いや、オイラの中にはそんな要素ないわ」とか言っている場合じゃない。だからいつでもサイコパスになれなきゃいけないし、そのための準備はしておかなきゃいけないんじゃないかな。

実際の事件を描いたルポ本やノンフィクションが昔から好きで、最近読んだ『死刑囚200人 最後の言葉』(宝島SUGOI文庫)が印象に残っています。直近の死刑囚でいえば、オウム真理教のテロ犯罪者で死刑を執行された人の言葉が載っていて。ほかにも、連続殺人を犯した人たちの獄中の言葉、死刑台にのぼる間際に漏らした一言などが書いてあるのだけど、みんなそれぞれ遺す言葉が違うんですよね。ものすごく開き直っている人もいれば、「あの人にこの言葉を伝えてください」みたいな遺言を遺す人もいる。

殺人を犯した人間は、やっぱりどこか壊れてしまっているんだと思うんです。オイラは殺人を犯してないから、その人たちがどういう心理になっていたのかという部分にすごく興味がある。犯罪者の役を演じることもあるので、ノンフィクション本を読むことは仕事にも通じています。

今回演じるゴノミカド役のような、時代劇やSFに関しては、もはや想像でしかない。だって、誰も本当の侍なんて知らないし。見たことない、そんなの。日光江戸村でしか見たことない。だから、そういう役はてめえの想像で作っちゃっていいものでしょう。本物がいるんだったらそれに寄せていかないといけないけど、「誰も本物を知らない役を演じる」っていうのは、役者に許された特権だと思っているので。そういう意味では、“なんでもあり”の世界の声優の仕事も大好きですね。「自分の中にないものを演じる」ことは、ファンタジーだと思うんです。


「『誰も本物を知らない役を演じる』っていうのは、役者に許された特権だと思っているので」


「干渉も強制もされたくないから、しない。そのほうがストレスを感じないし、怒ることもないじゃないですか」

実際は破天荒ではなく、気遣いの人

役柄では破天荒な人物を演じることの多い古田さんだが、ご家族との関係は良好で、娘さんは必ず全舞台を観劇に来るという。古田さんの私生活や人間関係の極意とは。

こう見えて、実は破天荒ではないんですよ。それが、人生を歩む上での自分の強みかな。すごく人に気を遣うタイプです。だから、飲み屋で揉めたことがない。人のグラスの下の水滴とかも、気になってすぐ拭いちゃう。グラスが空いてたら「もう1杯飲む?」って聞くし、「もういいです」と言われたら「よし、じゃあ帰ろう。お勘定」となる。

完全に個人主義なので、劇団で稽古や本番をやっていても、終わったら勝手に1人で飲みに行っちゃう。その日行く店を聞かれれば答えるけど、そのぐらいかな。「飲みに行こうよ〜」っていうのも絶対嫌だし、一緒に飲んでいて帰ろうとすると「帰んなよ」っていうやつも嫌い。「帰りたいんだよ、オイラは今」って。あと、「もっと飲めよ」とか言うやつも大嫌い。オイラのペースで飲んでるのに、ほっといてくれよって思うね。

家族関係でもこれは同じで、みんな個人主義。たとえば、旅行の途中で道の駅とかに行くじゃないですか。入った瞬間に、妻、娘、自分の3人ともバラバラに分かれます。14時にあそこの店に集合ね、みたいな感じで。何も干渉しないし、お互いに何をしていようがおかまいなしです。

干渉も強制もされたくないから、しない。そのほうがストレスを感じないし、怒ることもないじゃないですか。だからこそ、家族関係も良好なんだと思います。


「60歳になっても、飛んだり跳ねたりしていたら面白いのかなと思うけどね、だって同世代でそんな人いないから」

変わったこと・変わらないこと

年齢的な体の変化も至るところに感じていて。ずっと無理をしてやってきたし、スタンスとして「やれません」「できません」って言うのが嫌だから、「はい」と言ってやるんだけど、体は正直しんどいですね。

今回も前作の『天號星(てんごうせい)』ほどではないけど、まあまあ戦いのシーンがあって、そこは殺陣師の人たちと相談しながらやっていくことになると思います。60歳になっても、飛んだり跳ねたりしていたら面白いのかなと思うけどね、だって同世代でそんな人いないから。

体力面での変化はあるけど、昔から変わらず休肝日は作らない。「翌日にお酒が残ってる」なんて、ずっと酔っぱらっていたら二日酔いにはならないし、しんどくもない。飲み続けていてもセリフが言えれば、仕事になるから。でもそろそろ切れそうだから早く飲まないと(笑)。では、今日はこの辺で。