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厚生労働省が実施した「令和4年 国民生活基礎調査」によると、65歳以上の高齢者がいる世帯のうち51.6%が単独世帯となっているそう。そのようななか、生前整理や遺品整理で多くの高齢者のひとり暮らしをサポートしてきた、株式会社GoodService代表の山村秀炯さんは「老後のひとり暮らしには、若い頃や家族と暮らすときとは違った<壁>がある」と話します。そこで今回は、山村さんの著書『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』から、一部引用、再編集してお届けします。

【表】孤独死現状レポート。その4割は<60歳未満の現役世代>ということが分かる

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とある「おひとりさま」の話

とある「おひとりさま」の話をさせてください。

その方は30代の男性で、独身で賃貸アパートの2階でひとり暮らしをしていました。

まだ若いのですが肥満体質で、糖尿病と高血圧をわずらっていました。

その病気が原因で自宅で亡くなったのですが、救急車を呼ぶこともなくひっそりと亡くなったので、誰にも気づかれないままに何週間も経過してしまいました。

仕事はしていたのですが、どうやら毎日オフィスに出勤するような働き方ではなかったようで、連絡が取れなくなっても自宅まで訪ねる人がいなかったようなのです。

普段からきちんと連絡するようなタイプでないと、特に若い男性の場合は、衝動的に旅に出るなんてこともあるだろうと、それほど心配もされません。

人間は生物なので、亡くなってから数日でご遺体が腐り始めます。

それが夏場だったりすると、何週間も経つうちに体が溶けて体液が床を汚します。虫が湧いて、ひどい悪臭を発します。

最終的に下の階の天井に染みと臭いが出てきて、大家さんにクレームが入り、ご遺体が発見されました。

遺品整理と特殊清掃

こうして、大家さんから部屋を借りるときの保証人になっていた親族に連絡が入り、その親族から私のところに「遺品整理」のご依頼がありました。

自宅での変死となると警察が来て捜査をするのでご遺体そのものを見ることはなかったのですが、体液による汚れと臭いと虫の群れは、私が訪問したときにも残っていました。


『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』(著:山村秀炯/アスコム)

再び人に貸せるように徹底的に臭いをなくしてほしいという大家さんの希望で、遺品整理と特殊清掃を行いました。

体液が下の階にも浸食していたので、下の階の人には一時的に引っ越していただきました。

床を広げると亡くなった場所から3メートルくらいの範囲まで体液が広がっており、広範囲に悪臭の元があって、すべて洗浄した後にコーティングをしていく作業を行いました。

下の階も同様に天井を一部解体して、コンクリートの隙間から垂れていた目地のコーティングなどを行い、遺品整理と特殊清掃を合わせて費用は何十万円にものぼりました。

発見されるまでの平均日数

いかがでしょうか。このように、おひとりさまの場合は、亡くなってから発見されるまでに時間がかかってしまうこともあります。

常に連絡を取り合う家族や友人がいないと、なかなか気づいてもらえないのです。

故人が仕事をしていれば職場の人が異変を察知したりします。

それもなければ近隣住人が異臭に気づいたり、あるいは郵便受けにチラシや新聞が溢れかえっているのをきっかけに、管理人に発見されたりします。

孤独死した方が発見されるまでの平均日数は、18日だそうです(一般社団法人日本少額短期保険協会孤独死対策委員会「第7回孤独死現状レポート」2022年)。

遺体は夏場なら1〜2日、冬場でも数日で腐敗が始まります。もし自分の遺体が腐敗してしまうとしたら、いい気分はしません。

孤独死の本当の問題

孤独死が「死の瞬間にひとりである」こととするなら、ある程度は仕方のないことだと思います。

本当に問題となる「孤独死」は、死後に何週間も発見されず、ご遺体が腐敗してしまうなど、故人の尊厳がおかされるケースです。

この場合、ご遺体のあった場所なども汚損されてしまうため、その部屋の所有者などにも迷惑がかかることになります。

そのため、賃貸住宅を提供している都市再生機構(UR)は、 死後1週間以内に遺体が発見されたケースは孤独死の統計に含めないとしています。

実際、「孤独死」の4割以上は、死後3日以内に発見されています。

また、厚生労働省や自治体は、本当に問題なのは自宅で看取られずに亡くなる孤独死ではなく、社会的に孤立している単身者が自宅での死後に長期間発見されないことだとの考えから「孤独死」ではなく「孤立死」という言葉を積極的に使用しています。

また日本少額短期保険協会の孤独死現状レポートによると「孤独死」の平均年齢は61〜62歳で、平均寿命よりも大幅に短いことも問題視されています。

「孤独死」の4割は、60歳未満の現役世代なのです。

この理由として、「孤独」であることが寿命を縮めているのではないかと考えられています。

※本稿は、『老後ひとり暮らしの壁 身近に頼る人がいない人のための解決策』(アスコム)の一部を再編集したものです。