売上高、営業利益ともに第1四半期時点で過去最高の水準となった(編集部撮影)

力強い回復力を見せた。

居酒屋大手「鳥貴族」を展開する鳥貴族ホールディングス(HD)は12月8日、今2024年7月期第1四半期(2023年8〜10月期)の決算を発表した。売上高96億円(前年同期比33.6%増)、営業利益7.5億円(同約11倍)と、大幅な増収増益となった。

前期の同時期は、新型コロナウイルスの影響を大きく受けたことにより、売上高、営業利益ともに低調だった。一方で、今期はその影響が薄まり、客数が順調に増加。また、2022年以降、2度の値上げを実施したことが奏功し、採算が向上した。

結果、売上高と営業利益は、第1四半期時点で過去最高の水準となった。

業績計画は通期ベースで上振れ必至

第1四半期でたたき出した営業利益7.5億円は、同社の計画を大きく上回る水準だ。鳥貴族HDは営業利益について、今上期(2023年8月期〜2024年1月期)が9.7億円(前年同期比168%増)、通期が18.6億円(前期比31.3%増)になると見込んでいる。

営業利益の進捗率は上期の計画に対し76.9%、通期の計画に対し40.3%に達しており、通期ベースでの業績の上振れは必至だ。

好決算を受け、週明けの11日には同社株価が急騰。前日終値比で501円高となる3335円をつけ、ストップ高となった。

業績結果をつぶさに見ると、8〜10月累計の既存点売上高は前年同期比で28.3%増だった。客単価はほぼ横ばいで、値上げ効果が一巡したような形だが、客数が同28.4%増と全体を牽引したことがわかる。公式アプリを通じた販促や、旬の素材を生かした期間限定メニューが集客に貢献した。

さらに、際立つのが原価率の低さだ。鳥貴族HDの2023年7月期の原価率は29.9%。今第1四半期では前期より若干悪化したものの、30.4%と低い水準を維持している。

鳥貴族の原価率の低さは、他の居酒屋チェーンを運営する企業と比較すると明らかだ。

「串カツ田中」を展開する串カツ田中ホールディングス(HD)は今2023年11月期の第3四半期(2022年12月〜2023年8月)時点で、原価率が37.6%。「鳥メロ」や「ミライザカ」などを運営するワタミは今2024年3月期上期(2023年4〜9月期)時点で、原価率が42%だった。

鶏肉の大量購買が奏功

鳥貴族は鶏肉の大量購買などによって原価を抑えることができたのではないか」。居酒屋チェーンを運営する競合企業の幹部は、こう語る。

昨年冬からの鳥インフルエンザの流行によって、鶏肉や鶏卵などの供給は減少した。現在も鳥貴族では、鶏皮の使用した商品の提供を制限している店舗が一部ある。

だが、農林水産省のデータによると状況は良化している。鶏のもも肉の卸売価格は2023年の1月から4月にかけて800円を上回る状況が続いていたが、鳥インフルエンザの供給不足から回復した9月以降は600円台半ばと、鳥インフルエンザの影響が出る前の水準まで戻っている。

鳥貴族はほぼすべての食材で国産のものを使用しているため、為替変動の影響も受けにくかった。これに対して、例えば串カツ田中では、使用量の多い食用油などの価格が円安影響で高止まりしており、原価を悪化させる要因となっている。

足元の業績が好調な鳥貴族は、一段成長へとアクセルを踏み込む算段だ。

鳥貴族はこれまで、積極的な新規出店をテコに成長を続けてきた。

1985年、東大阪に1号店を出店し、その後関西で店舗を拡大した。2005年に東京・中野で関東に初出店すると、2010年10月には200店舗を達成。その後も、1年間に50店舗以上の出店を続け、2018年7月末には665店舗まで増加した。

店舗網拡張に伴い、業容も拡大。同社の売上高は2010年7月期の56億円から、2018年7月期には339億円と、8年間で6倍以上まで成長した。

一方で、コロナ禍で出店にブレーキがかかった。足元の店舗数は630店舗(2023年11月末時点)と、ピークだった2018年を下回っている。今期についても28店舗の純増を計画するが、11月末時点で4店舗の純増と、出遅れ感が否めない。


地方エリアの開拓に本腰

これまでの鳥貴族は関西や関東を中心に、大規模な商業圏に集中して出店するドミナント戦略を遂行してきた。具体的には、繁華街である東京・渋谷の周辺では「道玄坂店」や「センター街店」など9店舗もの店舗を構えている。

今後は、こうした密集エリアで出店を続けることは難しい。自社店舗同士の競合が発生してしまうため、出店余地が限られているのだ。

そこで、鳥貴族は関西や関東以外の地域の開拓にも力を入れ始めている。2023年に入り、東北や四国に初出店。その後も福岡や北海道でも出店を継続している。

関西や関東の未出店エリアや、地方の新規開拓を進めることで、2030年には1000店舗まで広げる方針だ。

新規出店した地方エリアでも、現時点では客足は好調に推移しているようだ。この先も目論見通り、地方での店舗数を増やすことができるか。多くの業界で人手不足が深刻化する中で、人材確保や教育も同時に求められる。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)