大阪の中津に店舗を構え、「とり天ぶっかけ」で行列が絶えない人気店となった「たけうちうどん店」。店主の竹内具大さんにリピーターが生まれるお店づくりの工夫について伺いました。

一度ならず、何度も足を運んでくれる「おなじみ」のお客さんは、飲食店にとって心強い存在です。多くの常連客の心をつかむお店は、どのような工夫をしているのでしょうか。

「たけうちうどん店」は2006年、大阪の中津に開業しました。前職は工業製品モデラーという変わり種の店主が、手打ちうどんの名店で調理の技術と接客を学び独立。鶏肉の天ぷらを5つもうどんにトッピングしたボリューム満点の「とり天ぶっかけ」は、見た目のインパクトと麺との絶妙なマッチングで、たちまち人気商品に。行列ができるうどん店として、たびたびマスコミに取り上げられています。

今回は、「たけうちうどん店」店主の竹内具大(たけうち ともひろ)さんにインタビュー。「まねのできない味」を追求した理由、常連客が途切れないお店づくりの工夫についてお話を伺いました。

うどんの良さは「シーズンオフがないこと」 わずか2年の修行でひとり立ちするつもりが…… 目指したのはうどんをさっと食べられる「シンプルな店」 うどん一杯の満足を追求した「とり天ぶっかけ」 お客さんと仲よくも悪くもない、ちょうどいい距離感

うどんの良さは「シーズンオフがないこと」

――「たけうちうどん店」は「とり天ぶっかけ」発祥のお店として知られています。名物のとり天ぶっかけは1日にどれくらい売れますか。

竹内具大さん(以下、竹内さん):1日およそ120杯で、土曜日は200杯を超える日もあります。お客さんのおよそ8割がとり天ぶっかけを注文しますね。鶏肉は多い日で1日36kg使用します。

――「たけうちうどん店」は行列が絶えない人気店として知られています。2006年(平成18年)に開店される以前、竹内さんがどのような仕事をされていたのか教えてください。

竹内さん:工業製品の試作品をつくる会社のサラリーマンでした。ただ、学生時代から「30歳になったら起業する」と決めていたので、20代で退職し、手打ちうどんの修業を始めました。

――異業種からうどん店への転職は意外です。うどんがお好きだったのでしょうか。

竹内さん:いいえ。正直、好きでも嫌いでもなかった。とにかく「一年を通して売り上げが安定している仕事をしよう」と考えたんです。

というのも、実家が祖父の代からジュースやラムネの製造をやっていましてね。冬になると暇になるんですよ。反対に夏場はとても忙しく、売り上げにムラがある。その点、うどんだったらシーズンオフがない。そういう感覚で選んだのがうどんだったわけです。

わずか2年の修行でひとり立ちするつもりが……

――うどんづくりは、どちらのお店で修行をしたのですか。

竹内さん:かつて大阪の福島区にあった「やとう」です(2012年に閉店)。生地を足で踏んで手で延ばす本格的な手打ちうどんの店でした。早く自分の店を開きたかったから、「うどんづくりの技術を2年で全て習得するんだ」と、退路を断つつもりで弟子入りしたんです。

――修行期間を凝縮した分、さぞかしハードな日々だったとお察しします。

竹内さん:イチから全ての作業を学びました。うどん単品だけではなく、定食があったり、丼物があったり、いろんな料理を提供する店だったんです。さらに、お酒も出すし、出前もする。店内には座敷があって、うどんすきを中心とした宴会コースもありました。

覚えなければならない仕事がたくさんありましたが、きっと将来の役に立つと信じて、とにかく一生懸命やりましたね。

――実際に計画通り2年で「やとう」を退職できたのですか。

竹内さん:いいえ。スキルがなんとか身に付いた頃に師匠が体調を崩してしまい、そこからうどん関連の作業は全て一人でやりました。結果的に3年半いることになりましたが、任されてからの試行錯誤の時間が今となっては貴重な学びの場でした。店はその間、目が回るような忙しさでした。

目指したのはうどんをさっと食べられる「シンプルな店」

――ご自身のお店を立ち上げるにあたり、どんなお店にしたいと考えていましたか。

竹内さん:自分にとって必要がないものをそぎ落とした「シンプルな店」です。師匠の店で働きながら、「自分に合うのはどういう店か」をずっと考えていました。

まず、自分一人で店を切り盛りするので出前は無理。丼や定食までやっていると調理に時間がかかる。宴会の場所を設けたり、お酒を提供したりすると、お客さんの滞在時間が長くなる。そうすると回転率が下がる。だったら「うどん一杯で満足していただけるお店」にしようと。うどんを食べて帰る、それだけの店にしたかった。

――お店の内装も凝っていますよね。テーブルがタイル張りなのがユニークです。

竹内さん:店全体を懐かしい台所のようなデザインにしたかったんです。昭和の頃の、かまどがある台所ってタイル張りだったじゃないですか。あの時代の、和のテイストに洋が合わさった独特な光景を表現できないかなと思って。

――一方で椅子はハイチェアなんですね。

竹内さん:材質を硬くして、背もたれのないタイプを選びました。ゆっくり食事をするというより、炊事場でさっとごはんを食べてすぐ仕事場に戻る、そういう雰囲気を演出したかったんです。ここはオフィス街なので、お客さんは忙しいサラリーマンが多い。だったら、慌ただしい状況を逆に楽しめる内装にしたい、そんな意図もありました。

――テーブルも椅子も短時間の滞在でも印象に残るし、おしゃれだと感じました。

竹内さん:そう言われると、タイル張りのテーブルにしてよかったと思います。実はこれまで3回も「このデザイン、うちの店でパクッてもいいですか」と聞かれました(笑)。

うどん一杯の満足を追求した「とり天ぶっかけ」

――「たけうちうどん店」は、「とり天ぶっかけ」発祥のお店として知られています。うどんと鶏肉の天ぷらを組み合わせるアイデアは、どのようなきっかけで生まれたのでしょう。

竹内さん:師匠は讃岐地方の「釜玉うどん」を関西に広めた人でした。当時、関西では珍しかった釜玉うどんを食べようと、お客さんが楽しみにやってくる。その様子を見て、「飲食店には核となるメニューが必要なんだ」と学びました。

そして、「自分にとって核となるメニューはなんだろう」と考え、思いついたのが、鶏の天ぷらと合わせたうどんだったんです。

――確かにお客さんにとっても、名物メニューがある店は「選ばずに済む」気軽さと「はずれがない」安心感があります。

竹内さん:自分もサラリーマン時代は、ずっと設計図とにらめっこでした。ランチタイムくらいぼんやり過ごしたかった。メニューを開いて悩むのさえもめんどくさい。

だから、つい足が向いてしまうのは、メニューを選ばずに済む、はずさない店でした。

椅子に座ればおいしい定番料理が目の前にどんと提供され、何も考えずにそれを食べて、さっと帰る。そんなひと時に癒やされていたんです。

――「とり天ぶっかけ」が生まれるまでに、他のメニューを試作しましたか。

竹内さん:していません。冷たいぶっかけうどんがメインのお店にするのは決まっていて、あとは上に乗せるものを考えていました。実は初めに思いついたのは鶏の天ぷらではなく、唐揚げでした。唐揚げ定食って、みんな大好きでしょう。オフィス街のランチメニューで最も人気があると思います。だったら、うどんに唐揚げを乗せてみようと考えました。

でも、唐揚げそのままだと、うどんに合わないだろう、それなら「天ぷらにしてみようか」とひらめいて、試作を始めたんです。

――ゼロから味を作り上げるとなると、大変ですよね。

竹内さん:はい。その時点で僕の頭の中のイメージは唐揚げですから、天ぷらではないんです。まず、唐揚げのレシピから天ぷらに合わなさそうな材料を引いて試作しました。そこから、ぶっかけだしとのバランスを考えた調整をし、ちょうどいいところをみつけました。

完成したのは開店前、ギリギリのタイミングでしたが、その甲斐あって、よそにはまねできない味になりました。後からとり天ぶっかけを始める店が増えましたが、同じ味にはならないはずですよ。

――鶏の天ぷらだけではなく、独特な食感の麺も人気を集めています。「たけうちうどんならではの味」を追求する上では、どんなことにこだわっていますか。

竹内さん:国産小麦を使い、粘りがある麺にしています。細くて、しなやか。口あたりがよい。そんな食感を目指しました。

実は師匠が打つうどんは「ザ・讃岐」と言える、太くてねじれがあるワイルドな麺でした。でも、僕はどうしても細くて粘りのある食感の方が好きで。師匠と同じ味わいではないけれど、「自分のうどんだったらこの麺」だと、そこはこだわりました。

――鶏の天ぷらを別添えではなく、うどんの上に乗せてしまおうと思われたのはなぜですか。

竹内さん:洗い物の数を減らしたかった。うどんに天ぷらを乗せたら、器一つで済みますから。それに、うちはカウンターテーブルです。皿を並べるスペースは取れません。皿が別にあると面倒だと感じるお客さんもいるでしょうしね。器一つで完結すれば、うちもお客さんも、どちらも都合がいい。

――常にサラリーマンのランチをベースに考えているんですね。

竹内さん:そうなんです。単に鶏の天ぷらを乗せているだけではなく、ボリュームがあります。「うどん一杯で唐揚げ定食と同じだけの満足感を味わっていただこう」と決めていましたから。「よし、午後からまた働くぞ!」と気合が入るうどんになっていると思います。

お客さんと仲よくも悪くもない、ちょうどいい距離感

――接客について心掛けていることはありますか。

竹内さん:こちらから積極的に話しかけはしません。話さないというより、話せないですよ。調理で手がいっぱいですから。

ただ、「お客さんがストレスを感じていないかどうか」は気にかけていますね。行列ができていて、いっこうに列が前に進まないと、イライラしたり、ストレスを感じたりする人も出てくるでしょう。なので、混雑時は食後にスマホをいじっていて席を立たないお客さんがいると、仕方なくそっと声をかける場合があります。

16席がスムーズに循環している状態をキープし、それによって、お客さんが快適に食事できることが理想です。「できるかぎりお客さんに干渉はせず、それでいて店全体の流れを見る」。それが、気を付けている点ですね。

――あえて干渉しないのも、一つの接客スタイルといえますね。

竹内さん:お客さんと仲よくも悪くもない、そんなちょうどいい距離感を大切にしています。「おいしいものを食べたい」と願うお客さんを、味で満足させる。その信頼感でつながるのが、うどん屋のあるべき姿じゃないかな。「愛想のいいおっちゃんとしゃべりたいから」というお客さんで成り立つようなお店もあるでしょうけど、自分は目指していませんから。

うちの常連さんは、店主と客がベタベタしないところに居心地のよさを感じて来てくれているんじゃないかと思います。

――お客さんの口コミがTwitterなどSNSで拡散される時代です。お客さんからの反応はチェックしますか。

竹内さん:しないですね。エゴサーチをした経験はないです。見れば心が折れちゃいそうだし、下手に迎合してお店の軸がぶれるようなことはしたくありませんし。「自分は心が弱い」と思っている人は見ない方がいいですよ。

――「たけうちうどん店」の代名詞と言える名物メニュー「とり天ぶっかけ」を大切にすること、お客さんがストレスを感じないようにお店をよどみなく回転させる気配りが、常連さんに支持され続ける秘訣(ひけつ)だと感じました。最後に、この先お店をどうしていきたいか、抱負があったら聞かせてください。

竹内さん:現状維持ですね。現状維持って、まるで攻めていないように思われるかもしれないですが、接客や味のクオリティーの維持を心掛けているうちに経営が安定してきて、今年は開業以来最高の売り上げを記録しました。現状を維持しようとする気持ちがあるからこそ、少しずつ前に進んでいけているのかなと思うんです。

【お話を伺った人】

竹内具大さん

2006年に開業した「たけうちうどん店」店主。兵庫県生まれ。CADオペレーターを経てうどん店を開業した異色の経歴を持つ。「とり天ぶっかけ」の店として知られ、連日行列が絶えない。500gの麺に大ぶりな鶏肉の天ぷらが5個もトッピングされ、ボリューム満点。サクサクの食感と隠し味は試行錯誤の末に誕生した。全国に多くの「とり天ぶっかけフォロワー」を生んだが他の追随を許さぬ不動の人気を誇っており、「食べログ」が西日本で注目する「うどん WEST 百名店」にも5年連続で選出されている。

取材・文/吉村 智樹
京都在住。フリーライター&放送作家。近畿一円の取材に奔走する。著書に『VOWやねん』(宝島社)『ビックリ仰天! 食べ歩きの旅 西日本編』(鹿砦社)『吉村智樹の街がいさがし』(オークラ出版)『ジワジワ来る関西』(扶桑社)などがある。朝日放送のテレビ番組『LIFE 夢のカタチ』を構成。

撮影:中島真美

編集:はてな編集部

 

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