来年も“最高”のトーナメントとなりそうだ(撮影:GettyImages)

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12月20日(米国時間)にオーガスタ・ナショナルが2023年マスターズの出場資格を「変更しない」と発表した。
これを補足しながら言い換えると、「従来の出場資格を満たしていれば、どのツアーの選手であってもマスターズに出場できる」という意味であり、オーガスタ・ナショナルはLIVゴルフ選手の出場を制限したり拒否したりはしないという意思表示でもあった。
その1日前の19日時点で、マスターズの従来の出場資格を満たしていた78名のうちの実に16名がLIVゴルフへ移籍した選手だった。全体の20%以上にあたる16名のLIVゴルフ選手を、もしも排除してしまったら、来年のマスターズがきわめて淋しい顔ぶれになることは言うまでもない。
だからオーガスタ・ナショナルはLIVゴルフ選手の受け入れを決めたのかと問われたら、答えは「イエス」ではある。
マスターズを最高のフィールドにしたいというのは、オーガスタ・ナショナルの永遠の願いだ。それなのにトッププレーヤー16名を欠いてしまったら、そのフィールドが世界最高ではなくなることは明らかだった。
しかし、オーガスタ・ナショナルが重視したのは、単に選手たちの世界ランキングや勝利数に基づくフィールドの良し悪しのみではなく、それ以上に大切なことを見過ごすことができなかったからだと私は思う。
マスターズ委員会からの招待状が届いたとき、LIVゴルフ選手のブライソン・デシャンボーは、すぐさま、その招待状をマーブル模様のテーブルの上に丁寧に広げ、写真を撮って自身のSNSで発信していた。
「今年はクリスマスが少し早く来た!」
工夫を凝らして撮影した写真には、そんな一文が添えられており、そこには「マスターズに出られる」というデシャンボーの純粋な喜びが溢れていた。
今年の全米アマチュアで2位になり、その資格でマスターズ初出場が決まっていたベン・カーも、SNSに招待状の写真をアップし、「夢が叶った。待ちきれないよ」と発信していた。
米国男子ツアー選手もLIVゴルフ選手もアマチュア選手も、オーガスタ・ナショナルに行けること、マスターズで戦えることに対する一途な想いを抱いている。その想いが彼らのSNSからひしひしと伝わってきた。
LIVゴルフが存在しなかった以前のゴルフ界は、選手たちのそうした一途な想い、ピュアな喜びがダイレクトに素直に感じ取れる世界だった。
毎週毎週の優勝への想い、メジャー・タイトルへの想い、愛する家族や友人、恩師への想い。「そのために僕はゴルフをしている」という彼らの口癖のようなフレーズは、そうした一途な想いのためのものだった。
しかし、LIVゴルフが創設され、米国男子ツアーやDPワールドツアーとの対立が深まっている昨今は、選手たちの喜怒哀楽が対立構造における喜怒哀楽に代わってしまうこともあり、彼らの笑顔や涙、発せられる言葉の真意がファンに伝わらないケースが増えている。
誰にとっても、心からは楽しめないゴルフ界になりつつあることは、ゴルフ界の危機ともいえる状況だ。
そんな中、どのツアーの選手であるかに関わらず、「従来のマスターズ出場資格を満たしていれば、マスターズに出ていいですよ」とオーガスタ・ナショナルが決めたワケは、選手たちが「なぜゴルフをしているか」「何のためにゴルフをしているか」という原点を見つめ直し、そこにある一途な想いを大切にするべきだと考えたからに違いない。
選手の一途な想い、ピュアな喜びが、じんじん伝わってくるからこそ、ファンは拳を握り締めながら応援し、ともに喜び合うことができる。それがゴルフの良さであり、本当の楽しさなのではないだろうか。
2023年マスターズが、そこにいるべきすべての選手が集結するマスターズになるよう導いてくれたオーガスタ・ナショナルの決断は、ゴルフを愛する人々の笑顔を取り戻す最高のクリスマス・プレゼントだったのではないだろうか。
文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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