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 新型コロナウイルスの影響により倒産する企業や失業者が増える一方で、恩恵を受けている業界も存在する。その最たる例が、せっけんなどを販売する化学工業メーカーだ。殺菌・消毒用せっけんなどの需要はコロナ禍で急増。コロナ倒産や失業が話題に上がりやすいなか、特需業界の人間は嬉しい悲鳴を上げている。

◆社員は年明けからほぼ無休。今までにない好景気

「会社名を伏せてくれるなら」と取材に応じてくれたのは、せっけんメーカーで管理職を務める山川さん(40代・仮名)。山川さんの所属する会社は、東京に本社を置く中小企業だ。戦前から稼働している老舗ブランドだが、TV CMなどの広告は一切出しておらず、長年の信頼とクチコミだけで業績を保ち続けている。

「今年の1月から3月までの間に、売上が3億も伸びました。うちは小さい会社なので、短期間にそれほどまでの売上は普段なら出ません。ひと月の出荷ケースも数千ケースと、去年とは比べ物にならないくらい需要があります」

 会社の従業員は100名にも満たず人手不足のため、提携会社の社員を借りて稼働している状態だ。

「一般社員にはローテーションで休みを取ってもらっていますが、僕のような管理職の人間はほぼ休み無しで働いています。週に1回休めるかどうか……。僕は他県からの単身赴任なので、週末に家族のもとへ帰られないのはつらいですね」

 コロナ特需の勢いは衰えることなく、今も取引先の企業や販売店からの受注が絶えない。売上が増加したおかげで、数千万から数億する工場機械も買えるようになった。

「社長に同行して機械メーカーへ行ったとき、値段も見ずに『コレちょうだい』って決めていました(笑) 今までなら、他社と比較して少しでも安く買えるように値段交渉していましたが……。買えるうちに買っておこうって感じなんでしょうね」

 需要急増で激務な一方、社員への還元も充実しているという。

◆臨時ボーナスの現物支給。単身者には食費負担も

「提携会社から来てもらっている社員さんには、『頑張ってくれているから』と全員にiPhone SEが配られました。もちろん新型のですよ。定価で買っても6万円くらいするでしょ? 使いたい人はそのまま使えるし、要らない人は売ればお金になる。税務面でもその方がよかったんでしょう」

 この施策は受け取った社員に好評だったそうだ。自社の社員には今期のボーナス増額が約束されている。会社が儲かれば自分たちの給料も上がる、と激務であっても社員のモチベーションは高い。

「僕みたいな単身赴任組や独身の人は、自炊する暇がなくて外食やコンビニばかりになりがちです。この数か月で、僕も含めて『食費が大変』という人も多い。そういう人のために、食費としてクオカードが配られたり、社長が勤務終わりにご飯を奢ってくれたりしています。若い人は会社の飲み会を嫌うけど、僕くらいの年齢だと喜んで行きますね」

 社内の様子は順風満帆であっても、それを外では口には出せないという。

「コロナで儲かっているなんて言えば、苦労している人たちに何て言われるか分からない。大っぴらには喜べないし話題にできないですね。家族にも『周りにはあまり言わないように』と注意しています。僕の仕事を知っている人に何か聞かれたときは、お金周りの話は避けて『休みなくて大変なんだよ〜。あ、よかったらコレ使って』と会社のせっけんや消毒スプレーを配っています。宣伝にもなるし、喜んでもらえるので」

 影があれば光もある。自粛警察・マスク警察に続き、「コロナ勝ち組叩き」の風潮も強まっているが、勝ち組には勝ち組なりの苦労があるようだ。<取材・文/倉本菜生>

【倉本菜生】
福岡県出身。フリーライター。龍谷大学大学院在籍中。キャバ嬢・ホステスとして11年勤務。コスプレやポールダンスなど、サブカル・アングラ文化にも精通。Twitter:@0ElectricSheep0