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あの有名な2シーターのクーペにインスパイアされたという完全な電気SUVを、フォードが11月17日(米国時間)に発表した。その名も「Mustang Mach-E(マスタング マッハE)」という新モデルは、車高が高い4ドアモデルが形式的にも機能的にも「マスタング」の名にふさわしいのか、これから長年にわたって熱心なファンの論争の的になることだろう。

「フォードの「マスタング」は、かくして電気SUVとして生まれ変わる」の写真・リンク付きの記事はこちら

完全な電気自動車(EV)であるマッハEの特徴や性能の詳細は、来年の正式発売まで明らかではない。しかし、まったくゼロの状態から、わずか2年強で今回の発表(しかも「ブランド大使」のイドリス・エルバも一緒だ)にまでこぎつけた道のりは、まさに目覚ましいスタートと言っていいだろう。

この10年のフォードは、最初の5年に「Focus Electric」で短期間だけEVに手を出したことを除けば、ハイブリッド車にエネルギーを注いできた。一方、テスラや日産自動車、ジャガー、BMW、ゼネラルモーターズ(GM)、ポルシェ、アウディ、ヒュンダイなどはEVの市場を築き上げ、ゼロエミッションのモデルを本格展開している。そんな状況が17年までは続いていた。

ところが17年になってフォードの上層部が、ガソリン車をやめるタイミングが到来したと判断した。EVの技術や消費者の関心、そして規制の状況を考慮してのことだ。そして、フォード初の完全EVをゼロからつくるために、「Team Edison」という社内プロジェクトが立ち上がった。

全米の充電ネットワークが利用可能に

フォードは当時すでに自社のラインナップからのセダンをなくすと公言していたことから、SUV(特にフォードのクルマになかったクロスオーヴァーなモデル)は自然な選択肢だった。しかし、そういったクルマを誰が買うのかという問題があった。

「わたしたちはテクノロジーや、それが消費者の世界をいかに本当に変えたのかという点にフォーカスすることにしました」と、フォードのバッテリーEV担当のブランドディレクターであるジェイソン・カストリオタは言う。彼の(おそらくはバラ色の)視点から見たときに、「それは消費者それぞれの人生から“摩擦”を取り除くか、本当に好きな何かを増幅させるか、そのどちらかでした」

そこでフォードは、新しい技術によって自分が好きなものが増え、そうでないものが減ることを期待しているようなドライヴァーを満足させることに集中した。こうしてたどり着いたのが、気軽に利用できる充電ステーションのような要素だった。

フォードは充電ネットワークをもつElectrify Americaなどの企業と提携し、すべての充電器にひとつのアカウントでアクセスできるようにした。150kWの充電器による10分間の充電で、マッハEは最大47マイル(約76km)走行できるという。

またマッハEでは、テスラ車でおなじみの無線によるソフトウェアのアップデートが可能になる。新しいインフォテイメントシステムは、機能をカードのように画面に表示し、それをシャッフルしながら操作したり、15インチのスクリーンと一体化した物理的な大型ダイヤルからアクセスしたりできる。

“マスタング”であるために

設計に取りかかる段階で、Team Edisonはマスタングに興味をひかれたという。マスタングの熱狂的なファン層が、EVのユーザー層と似ていることに気づいたのだ。どちらの層も、エキサイティングでほかとは違う何かを求めている点が共通している。

そこで開発チームは、マーケットと既存顧客とを対象にした実態調査を水面下で実施したあと、マスタングにインスパイアされたクルマとして新型車をブランディングすることに決め、「マッハE」の名を与えた。したがって、新しい電気SUVは「正式なマスタング」ではない。

それでも「ポニーカー」という愛称で呼ばれた元祖マスタングと、デザイン上の共通点はある。例えば、低く配置されたサメの鼻を思わせる「シャークノーズ」デザイン、余裕のあるロングノーズ、大きな“おしり”の部分、縦長な3本のテールライト、そして全力疾走するポニーのロゴがそうだ。

時間が限られていたことから、デザインチームはCADツールに頼った。クルマの見た目や形状を画面上で変更できるので、クレイモデルの制作にかける時間を削ることができたのだ。

「月曜にスケッチを出して火曜に選び、水曜にCADモデルを構築し、木曜にクレイモデルをつくって金曜にプレゼンする、といった具合でした」と、デザインマネージャーのクリス・ウォルターは言う。「期日が迫るなか、ひらめきの瞬間が訪れました。若い顧客が求めるであろうテーマや流動性、官能性を踏まえ、これが“マスタング”であるために必要なヴィジュアルのパワーが見えてきたのです。そして、これがEVであるという直感も得られました」

ナスカー用のシミュレーターまで活用

だが、もしフォードがマッハEを社会的に認められるような魅力的なEVにすることができなければ、それらには何の価値もなくなる。フォードは完全なEVを開発した経験こそ限られているが、マッハEの開発にはハイブリッドに関する多くのノウハウを取り入れている。

それに、クルマの設計や洗練されたエアロダイナミクスによって走行距離を“稼ぐ”ことはお手のものだ。最終的な空気抵抗の係数を明らかにしていないが、最終的な製品に「もちろんワクワクしている」のだという。

マッハEには、装備や内装の違いによって後輪駆動(リアに大型モーターが1台)の5つのグレードが用意され、四輪駆動(フロントに小型モーターを追加)がオプションで選べる。さらに最上級の「GT」はフロントとリアに大型のモーターを備えるが、これらのモーターの仕様は明らかになっていない。

フォードの開発チームは、ノースカロライナ州にある同社のモータースポーツ「NASCAR(ナスカー)」用レーシングシミュレーターを用いて、シャシーを調整した。これはフォードの量産モデルとしては初めてのことだ。シミュレーターでは、実際のコースを走らせる前にエンジニアがさまざまな組み合わせを試し、タイヤのコンパウンドについてまでシミュレーションした。

バッテリーは内製

搭載されているバッテリーは社内で開発したものだ。リチウムイオン電池のセルが、ふたつあるパックの大きさに最適化されて設計されている。

「安全性については、さまざまな角度から取り組んでいます」と、電動パワートレインを担当するチーフエンジニアのV・アナンド・サンカランは言う。「過充電や高温によってバッテリーがショートしないようにするほか、熱伝導からの保護、最適な冷却状態の維持、そして衝撃からの構造的な保護といったことです」

防水性のあるバッテリーは、容量によって2種類が用意される。標準バッテリーの容量は75.7kWhで、長距離モデルは98.8kWhとなる。これらはピックアップトラック「F-150」のEV版や、噂の絶えないEV版「マスタング」のクーペなど、これから登場するであろうフォードの新しいEVにも容易に適用できる。

ポルシェよりも速い?

これまでのところ、フォードはマッハEの性能についての詳細は明らかにしていない。モデルにもよるが、時速0-60マイル(同約97km)の加速は3.5〜5.5秒になるという。

なお、エントリーモデルとなる「Select」の価格は43,895ドル(約477万円、7,500ドルのEV税控除を除く)からで、後輪駆動と四輪駆動が選べる。航続距離は230マイル(約370km)の見通しだ。「Premium」モデルは50,600ドル(約550万円)からとなる。

“マスタングらしさ”の究極的な指標になる「GT」モデルは、2021年の発売時の価格が60,500ドル(約658万円)からになる。出力は、後輪駆動モデルの255馬力・306ポンドフィートから、四輪駆動モデルの332馬力・417ポンドフィートまで幅がある。

GTにはアダプティヴサスペンション「MagneRide」が装備され、モーターの出力は459馬力と612ポンドフィートになる。一部のグレードで選べる大容量バッテリーを選べば、航続距離は300マイル(約483km)以上になる。

フォードはGTの細かな仕様について公開していないが、チーフエンジニアのロン・ハイザーは心配していない。「四輪駆動のベースモデルのマッハEは、ポルシェのマカンターボよりも速く走れるでしょうね」と、ハイザーは言う。「GTは『911 GTS』に届こうかという性能になります」

したがって、マッハEはマスタングとは見た目こそ異なるかもしれないが、同じような印象を受けることになるのは間違いないだろう。

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