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●拡大し続けるディープラーニングのエコシステム
NVIDIAは10月5日、都内で開発者向けイベント「GPU Technology Conference Japan 2016(GTC Japan 2016)」を開催、基調講演にNVIDIAの共同創業者 兼 CEOであるJen-Hsun Huang氏が登壇し、NVIDIAが「AIカンパニー」として成長を今後も続けていくことをさまざまな角度から語った。

冒頭、同氏は1990年代のPC-インターネットの普及期から振り返り、2000年代のモバイル-クラウド時代を経て、2016年の現在、AIとIoTの普及による新たなコンピューティングの時代が始まったと説明し、GPUを活用したディープラーニング技術の進化がそれをもたらしたことを強調。「すでにイメージ認識の分野ではコンピュータが人の能力を超え、音声認識も人間同等の領域に到達している。人間は見て、聞くことでインテリジェンスを生み出す。コンピュータもその段階に突入したと言える。だからこそ、AI革命の舞台が整ったと言える」(同)とし、NVIDIAがインテリジェンスを加速させるAIコンピューティングカンパニーとして同分野に注力してきたことを振り返った。

また、GPUの活用範囲が広がるに従い、GTCも世界規模へと成長し、参加者数も2014年には3700名だったものが、2016年には全世界で1万6000名まで増加した。また、GPUを活用したいエンジニアによるSDKのダウンロード数もこの2年で3倍増の40万DLに、ディープラーニング開発者も同じ期間で25倍の5万5000名まで増加し、世界的にディープラーニングの活用が進んでいることを説明。すでにディープラーニング技術がデータセンターをはじめとしたさまざまな産業分野で活用されていることを示し、IoT時代の本格到来により、ディープラーニングの学習サイクルがAIの成長を加速させ、ムーアの法則を超す勢いで成長していき、さらなるインテリジェンスを生み出すことが期待されるとした。

「誰もがディープラーニングにアクセスして、生産的な活用できるといった仕組みを、エンドツーエンドで提供することがNVIDIAの目的だ。これをエコシステムの全体に向けて実現していきたい」と同氏は語り、ディープラーニング向けに開発されたGPUアーキテクチャ「Pascal」がその中核になるとしたほか、推論処理を加速する「TESLA P4/P40」や性能最適化推論処理エンジン「TensorRT」など、エコシステムが順調に広がっているとした。

●AIカンパニーへの転身を目指した新SoC「XAVIER」
では、こうしたニューロネットワークを使ったパターン認識でどういったことができるのか、という話となるが、その端的な例として、NVIDIAはMail.ruとコラボレーションしてMail.ruが提供しているモバイル端末向けアート風動画エディター「Artisto」を、Pascalを活用することで、ニューラルネットワークアルゴリズムをベースにしたリアルタイムビデオストリームへと進化させた。この進化版Artistoは、あらゆる芸術家の画風を学習し、それを新たなアートスタイルにリアルタイムで適用していくことを可能とするもので、会場を映し出す映像をリアルタイムでピカソの画風に変換する、といったことを可能とする。同氏曰く、ニューラルネットワークのトリミングについてはTESLA P100で、推論についてはP40を活用して実現しているとしていた。

さらに同氏はIoTの普及を支えるGPU搭載組み込みシステムモジュール「Jetson TX1」や、自動運転の開発を支援する自動運転車両向けプラットフォーム「DRIVE PX2」などを紹介し、自動運転用OS「DRIVEWORKS ALPHA1」を10月末ころをめどに提供することを明言。以降も、数カ月おきにアップデートを進めていくとした。

気になるのは、今後のGPUの発展の方向性である。その点について同社は、16nm FinFETプロセスを採用し70億トランジスタを集積したAIスーパーコンピュータSoC「XAVIER(エグゼビア)」を9月末ころに開催したGTC Europeにて発表し、GTC Japan 2016でもその概要を語っている。このSoCは、次世代GPUアーキテクチャ「Volta」を512コア搭載するほか、8コアのカスタムARM64ビットCPU、新たなコンピュータビジョンアクセラレータ、そして2基の8K HDRビデオプロセッサを搭載するほか、ASIL Cレベルの機能安全も備えるものとなる。同氏はこれを「ディープラーニング、コンピュータビジョン、HPC-インテリジェントマシンといった技術の交差点向けに設計されたもの」と表現。DRIVE PX2を超す性能を1/4の電力(20W)で実現できるとした。

なお、同SoCは2017年第4四半期に、自動運転車を開発している自動車メーカー、ティア1サプライヤ、スタートアップ企業、研究機関などに向けて提供が開始される予定であり、同氏は、こうした取り組みを今後も進めていくことで、「すべての人のAIカンパニーになる」と宣言して締めくくった。

(小林行雄)