「主張」と「節度」の間で悩むことも

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【ゲイリーマン発 日本のリアル】

 前記事では、最近盛り上がりを見せている「同性婚」の議論について筆者なりの現実的な見解を示しました。その2となる今号では、「ゲイフレンドリー」を標榜するビジネスについて書きたいと思います。

そもそも「ゲイフレンドリー」な商売が成立する条件

 ここ数年散見される「日本におけるLGBT市場規模は●兆円!」などという煽り記事に対する懐疑的な姿勢も、何度か筆者はこのニュースでも取り上げて来ました。

 特にここ最近はそうした記事は加速的に増えているように見受けられます。渋谷区の「フィーバー」に引っ張られる形で起きていることかと思いますが、筆者はこうした傾向にも、より冷静なフォローが必要だと考えております。

 率直に言って、LGBT市場が日本において数兆円の規模があるという論調は当事者から見て"誇大広告"である可能性が非常に高いのではないかと見ております。

 そもそも、LGBT市場というもの自体、恐らくLGBT(この議論の場合ほとんどは正規雇用や一定以上の収入のあるゲイ)が趣味や娯楽や生活に使う金額の総額を出したものだと思いますが、その総額を指して「●兆円」ということにあまり意味がないと考えております。

 と言うのも、LGBTはこうした論調が台頭するよりもずっと昔から普通の生活をして買い物をしてきたわけで、それぞれ「娯楽産業」とか「アパレル産業」「インフラ産業」等にカウントされていた数字を、LGBTが使ったお金だけを切り離して●兆円と宣伝した所で、それは「0円」だったところに突如数兆円の市場ができるわけではなく、既にどこかにカウントされていた数字を再編して提示しただけなので、この市場の伸びしろは、巷で騒がれている以上に限定的なのではないかと筆者は見ております。

 また、こうした記事等の煽りを受けてか、最近では「ゲイフレンドリー」「ゲイ専用」という接頭語をつけたサービスが生まれてきていますが、これも肝心要の同性愛者当事者から、期待されるほどの支持はされないと考えています。

 そもそも彼らが狙う「LGBT市場」は、すなわち一定以上の収入があり、可処分所得が同年代の家族持ちの男性よりも多い男性同性愛者たちの財布を狙っているもののようですが、彼らは「ゲイ」である以前に、「非常に洗練された消費者」でもあります。

 独身貴族を謳歌し、あちこちで良いものを買って身につけ、良いサービスを受け慣れている男性たち…どうでしょうか。彼らが「ゲイフレンドリー」とか「ゲイ専用」という接頭語がついただけで、無数にある優良な商品やサービスの中から、わざわざ選択肢を制限されたそのサービスなり商品を優先的に選択するとは考えづらいです。

 また、「ゲイフレンドリー」「ゲイ専用」等の接頭語が強力な集客力を発揮するのは、「同性愛者であるが故に商品の購入やサービスの提供を拒否される商売」のみであって、例えば今の日本で「ゲイフレンドリー」を名乗るカフェやレストランを作ったところで、同性愛者たちがそこで爆買をすることは考えられません。

 ゲイであるが故に入店を拒否されるお店が街にあふれていれば話は違いますが、日本のゲイたちはゲイフレンドリーかどうかよりも、美味しい料理やコーヒーを出してくれるところかどうかという判断基準で選択をするでしょう。

 このような、LGBT市場●兆円!という主張に踊らされ、一般の企業が少なくない投資をした結果、結局そんなモノは存在しなかったじゃないか!!となる可能性もかなり高いと思いますし、上記のような数字のトリックを使って何も知らない企業担当者に"誇大広告"をして回ることは、いずれ僕達のコミュニティに後遺症を残す事態になるのではないかという恐れもありつつ、一抹の不安を抱えているのでした。

著者プロフィール

ゲイライター

英司

東京・高円寺在住のアラサーゲイ。ゲイとして、独身男性として、働く人のひとりとして、さまざまな視点から現代社会や経済の話題を発信。求人広告の営業や人材会社の広報PR担当を経て、現在は自社媒体の企画・制作ディレクターとして日々奮闘中。都内のゲイイベントや新宿二丁目にはたびたび出没(笑)

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