試合前から緊張した面持ちのオシム監督<br>【photo by Kiminori SAWADA】

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 現在66歳。ユーゴ代表監督を始め、欧州のビッグクラブで指導経験のあるオシム監督だけに、自身の感情をコントロールするのは当然のことかもしれない。

 アジア杯初戦のカタール戦。60分に高原の芸術的なゴールで先制した。しかし終了間際の87分、阿部の反則からセバスチャンに直接FKを決められ試合は1−1のドローに終わった。

 試合直後のテレビ・クルーのインタビューでは、「内容を見ていればどういう結果か分かると思う。勝ち点6を取ってもおかしくない内容だった。事故、あるいは不注意の結果こうなった」とチームに苦言を呈した。

 その後、ロッカールームでは怒りが爆発したようだ。試合後の選手たちの情報によると、「俺はプロとして命を賭けてこの試合に臨んだ。お前らはアマか。オレと同じ気持ちで試合に臨んだのか!」と激怒したという。

 ところが一転、試合後の公式会見に現れたオシム監督は、時おり笑顔も交えながらアジア各国の記者団との質疑応答に答えていた。

「試合の結果はそれほどショッキングなものではない。フランクに言うと、今日の試合には驚いた。日本はフットボールをプレーしていたが、美しいことを効果的な結果に結びつけることが出来なかった。よく走り、良いサッカーをしたが、チームは勝ち点3を取れないことを知った」と冷静に振り返っていた。

 これが前任者のジーコ監督やトルシエ監督なら、ロッカールームの怒りをそのまま記者会見で吐露し、試合結果の責任を選手に転嫁していただろう。結果は結果として冷静に受け止め、その結果に一喜一憂して感情を爆発させるのではなく、冷静に対処する。そう考えると、試合後のロッカールームと記者会見でのコメントのどちらが本音なのか、判断も難しい。たぶん、オシム監督にとって本音は二つあるのかもしれない。選手に伝える本音と、日本を始め、優勝候補に注目するアジア各国のメディアにリリースする本音の二つが。すでに次の試合に向けて、オシム監督の戦いは始まっていたと断言してもいい。だからこそ、それぞれの場でコメントを使い分けていた可能性が高いのではないだろうか。

 唯一、「我々は次の試合、UAEのことを考えなければいけない」というのが、共通した本音なのかもしれない。

六川亨

57年9月25日生まれの49歳。月刊サッカーダイジェストの記者を振り出しに、隔週、週刊サッカーダイジェストの編集長、月刊カルチョ2002、月刊プレミアシップ・マガジン、月刊サッカーズの編集長などを歴任。その傍ら、フリーのサッカージャーナリストとしてW杯本大会や予選を始めEUROなどを精力的に取材。今年10月には「フロムワン・サッカーメディアセミナー」を開講し、セミナー長を務める予定。