育成年代の重要性について語ったリノ・ロベルト氏【写真:編集部】

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スペイン人×日本人サッカー指導者対談|第4回】欧州各国リーグの中でいまだに高い“スペインの壁”

 欧州サッカーにおいて、これまで日本の選手たちはドイツ・ブンデスリーガではいくつもの成功例を生み、イングランドのプレミアリーグでは岡崎慎司(レスター)が、イタリアのセリエAでも中田英寿(当時ローマ)がリーグ優勝を経験した。だがスペインのリーガ・エスパニョーラでは、まだタイトル獲得という明確な成功がなく、日本の選手たちにとって最も高い壁になっている。

 リノ・ロベルトと吉住貴士――。スペインと日本両国の育成現場を知る2人の対談のテーマは、なぜ日本の選手たちがスペインで活躍できないのか、に及んだ。

 ◇ ◇ ◇

リノ「ドイツは優勝を争うバイエルンやドルトムントと下位のチームに差がある。もちろん、スペインもバルサやレアル・マドリードが突出しているが、それでも簡単に勝てる試合は一つもない。またスペインの子供たちは、5〜6歳の頃から体幹作りのための体操を続けている。それはスペインに限らず、欧州全般に言えることです」

吉住「確かにスペイン人は身体の使い方が上手い。ボール扱いが下手でも、身体をぶつけられて奪えないんです」

リノ「7〜8歳の久保建英(現・FC東京)を見た時は、本当に凄かった。ただしボールを持てば、攻撃面では素晴らしいけれど、細くて小さいので守備では苦戦をした。バルセロナへ行ってからは、相手に研究され、右足側に持たされるなど困難な状況になった。だんだん大人に近づき、強くはなったけれど8歳の頃のようなプレーはできなくなっている印象だ」

相手との駆け引きを「育成年代から学ばせなければいけない」

吉住「スペインは戦術が凄く整理されていて、選手の理解度が高いんです。僕の指導者養成講座の先生が、ヒムナスティック・タラゴナの関係者で『鈴木(大輔/現・浦和レッズ)を知っているか?』と声をかけられたので、評価を聞いてみたんです。『足も速い。身体もヘディングも強くて良いディフェンダーだ』と誉めていましたが、反面『この選手を押さえろというタスクは忠実にこなす。でもマンマークを外してでもカバーに行かなければいけない局面で、そこにいない』とのことでした。スペインでは12歳以下で身につけていて、みんなできると話していました。つまり、それを知っているかどうかで違ってしまう。

 高校選手権を見ていても、素晴らしい対応を見せた選手が、次に同じ状況では全然違う選択をしてしまうことがあります。要するに最初のシーンでは、自然にできてしまっただけで、理解をしているわけではないから再現性はない。ただし逆にできるポテンシャルは持っている。あとは知識を持つ指導者がいれば身についていくはずです」

リノ「小学生年代のクラブが集まるワールドチャレンジ決勝で、バルセロナが1-0で大宮アルディージャを下した。バルサは終始自分たちのリズムでプレーし、相手を疲れさせていた。相手を疲れさせる。それもサッカーだ。僕も対戦相手に素晴らしい選手がいた時に、マンマークをつけたら凄く嫌がり交代になった。こうした駆け引きを育成年代から学ばせなければいけない。

 トレーニングの時に、3バックから4バックへの移行などは『山』『川』など、サッカー以外の言葉で伝わるようにしておく。それもなしに、いきなり試合でシステムを変更しようとしても無理な話だ。一方でこうした準備をしておけば、選手たちも『相手が3トップの時は5バックが守り易かったな』などと引き出しが広がっていく」(文中敬称略)

(最終回へ続く)

[指導者プロフィール]

■リノ・ロベルト
1972年4月26日生まれ。UEFA(欧州サッカー連盟)スペイン連盟の指導者資格を持ち、2002年からアトレチコ・マドリードでカンテラの指導に携わり、2017年に来日。埼玉県のジュニアユースチームでU-15監督を務めた。スペイン連盟からは、主に指導者対象の戦略セミナーを任された。今年から「ファーダンサッカースクール」のプロ育成クラスのメインコーチを務めている。

■吉住貴士
1986年12月8日生まれ。国見高校時代に全国制覇し、鹿屋体育大学では主将を務める。大学卒業後は長崎総合科学大学附属高校のコーチを6年間務めたが、その後スペインに渡り現地のチームで4年間指導。現在はRCDエスパニョールジャパンアカデミーの責任者。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記〜青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。