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●今の家電レベルにWi-Fiは不要

バルミューダは2019年2月12日、空気清浄機の新モデル「BALMUDA The Pure」を韓国で発表しました。韓国で先行発売し、日本にも3月中旬に上陸します。なぜ日本メーカーであるバルミューダが、韓国で新製品を先行発表したのか。そこには韓国の空気に対する意識と、バルミューダ代表取締役社長の寺尾玄氏(以下、寺尾社長)が掲げる「人々を幸せにする」という理念がありました。寺尾社長のインタビューをお届けします。

○空気清浄機における致命的な欠点

――まず今回の「BALMUDA The Pure」で、「光」に着目した理由はなんでしょうか。

寺尾社長:空気清浄機で最大の問題は、清浄能力ではありません。今の空気清浄機はどれを選んでも、空気を十分キレイにできます。でも、空気清浄機がちゃんと働いているのかはよくわからない。つまり「体感できない」ことが問題なのです。おそらく、一番なにをしているかわからない家電だと思っていました。

寺尾社長:ならばホコリを吸い込んでいる様子が見えればいいんじゃないか、というアイデアからスタートしました。BALMUDA The Pureをジェットモードにした状態で、掃除機をかけると、(BALMUDA The Pureが)粒子を吸い込んでいるのが本当に見えるんですよ。

ですが光を「演出」といわれるのは不本意ですね。あれはデザインの一部。光以外のなにも見せたくないと思ったんです。光があるからこそ、本体は極力シンプルにし、「光の柱」というコンセプトの道具として仕上げました。

――空気清浄機にWi-Fiを搭載し、アプリで遠隔操作したり、部屋の汚れを確認したりできるものが増えています。Wi-Fiを搭載しなかった理由を教えてください。

寺尾社長:たとえばWi-Fiチップを搭載するだけで、原価がすごく上がります。原価ですから、それを売値に反映させなければならない。

それと、今の家電レベルだとIoTはあまり意味がないと思っているからです。スマホで「空気が汚れてるね、またはキレイな状態だね」って、わかってどうするの? っていう。体験につながらないんですよ。技術的なアドバンスがあるからって、ユーザーの喜びに結びつかなければなんの価値もないので。

寺尾社長:IoTが道具と一体になってユーザーの体験を変える、よくするっていうのは、遥かに遠いと思っています。当面、我々が取り扱ういわゆる家電ジャンルの製品に対して、Wi-Fiはいらないんじゃないかな。

たとえばテレビをネットにつなげば、(YouTubeやAmazonプライム・ビデオなど)見るコンテンツが変わりますよね。ならばIoTの価値が十分にあるといえます。人々が見るのは「テレビ本体」ではなく「コンテンツ」だから。わたしの考えですが、IoTはデバイスでなくソフトウェアに対してしか効かないと思うんですよ。

●韓国で先行発売するワケ

バルミューダは韓国で12の直営店を展開しています。韓国は空気汚染が進む中国の隣に位置することもあり、空気に対しての意識が非常に高く、日本より大きい空気清浄機の市場があります。バルミューダ初の空気清浄機「AirEngine」は、日本の10倍も韓国で売り上げました。

韓国でバルミューダは、いわゆる高級家電ブランドとして認知されており、結婚祝いでバルミューダのトースターや、生まれてくる子どもを想って空気清浄機を贈る人も多いのだとか。

○人類を喜ばせるために、つくる

――今回、なぜ韓国で先行発表という形となったのか教えてください。

寺尾社長:2012年にバルミューダ初の海外展開として、韓国で空気清浄機「AirEngine」の販売を開始しました。そして、バルミューダの空気清浄機を最も使ってくれているのが韓国の人々なので、じゃあ韓国で発表しましょうと。

寺尾社長:韓国の人々の嗜好性も関係していると思っています。「ものの形の美しさ」に対する強い興味と行動力を持つ人たちだと認識していて、韓国の大手家電メーカーもずいぶん前から、日本メーカーとはケタ違いってくらいデザインに力を入れています。そういった人たちに、バルミューダのデザインが受け入れられたから、というのもありますね。

――今後も海外で先行ローンチということはあるのでしょうか。

寺尾社長:そういった機会は十分にあると思います。我々がなんのために仕事をしているかといえば、「人を喜ばせるため」。人というのは人類を指していて、日本人に限ったわけではない。多くの人が喜んでくれる場所があれば、そこで先行ローンチしていくのは考えられます。

――お話ありがとうございました!

○成長するバルミューダ

バルミューダは2003年に、寺尾社長が1人で立ち上げた会社。当時のオフィスは自宅で、従業員はもちろん寺尾社長だけでした。それが2018年には97人の社員を抱え、売り上げは100億円を超える会社となりました。「家電という道具を通して、心躍るような、素晴らしい体験」をテーマに、快進撃を続けてきたバルミューダ。寺尾社長は、「今後もトースターや炊飯器などで順当にモデルチェンジをしていく」と述べ、新たな領域への参入意欲もありそうでした。今後もバルミューダの動向に注目です。