「ノートe-POWERニスモS」はこんなにも熱い
ノートe-POWERニスモSに乗ってみた(筆者撮影)
内燃機関であるエンジンと電気のモーターを組み合わせて走るハイブリッド自動車。最近は輸入車において48Vのマイルドハイブリッド(モーターをエンジンのアシストのみに使う方式)などが増えつつあり、「いよいよ通常の内燃機関だけでは将来的な存続が厳しいか?」とも思えるような空気が漂う。
東洋経済オンライン「自動車最前線」は、自動車にまつわるホットなニュースをタイムリーに配信! 記事一覧はこちら
私たちユーザーにとっても、次にクルマを買うとしたら少なからず電気および電気的な何かが加わったパワーソースを意識することだろう。モーターのみで走行する純粋なEV(電気自動車)にシフトするほどは思い切れず、かといってピュアな内燃機関車を買うのもどうなのか? というのはまさに、イマドキの悩ましさだろう。
11月4日配信の「スバル『XV』ハイブリッドは一体何がスゴいか」で紹介したスバルXV Advanceはマイルドハイブリッドで、モーターがわずかにアシストしてくれる機構だし、「ベンツ『Cクラス』最新進化に見た驚異の走り」(9月28日配信)でレポートしたメルセデス・ベンツCクラスも目玉はBSG(ベルトドリブン・スターター・ジェネレーター)と呼ばれるマイルドハイブリッドだった。
そうした内燃機関を電化したプロダクトが増えていく中にあって、こうした流れにおけるある意味発端といえるのが、日産自動車「ノートe-POWER」だろう。
「走りの良さが評価された」
このモデルは今から2年前の2016年に登場して、それまではトヨタ自動車「アクア」やホンダ「フィット」の後塵を拝していた日産ノートを、いちやく登録車ナンバー1の売り上げとなる人気車種へと成長させる立役者となった。
e-POWER(筆者撮影)
ノートe-POWERはコンパクトカーでは初めてとなるシリーズハイブリッドを搭載するという、ユニークな存在として市場投入された。はたしてこれがどう判断されるか私たち、自動車ジャーナリストも興味津々だったが、ヒット車となった。日産いわく「走りの良さが評価された」という。
これには驚かされた。なぜならトヨタのアクアやホンダのフィットはご存じのように、コンパクトクラスのハイブリッドとして「安価」であることや「燃費の良さ」で選ばれるクルマであり「走りの良さ」は二の次、三の次であるはず。
そうしたカテゴリーにおいて「走りの良さ」で評価されたのだから意外だしユニークである。ではなぜ「走りの良さ」かといえば、それはシリーズハイブリッドであるがゆえに、エンジンを搭載してガソリンを入れる仕組みではあるものの、そのエンジンはタイヤを駆動せずに発電を行うだけで、走りはモーターの駆動によって行われるからである。
そう、ユーザーは100%モーター駆動による、これまでのコンパクトカーにはない力強さによる優れた加速フィーリングや、音や振動が少ないことによる静けさ、そしてモーターの滑らかさによる走りを評価したわけだ。
100%モーター駆動(筆者撮影)
確かにハイブリッドの場合は、モーター駆動で走れるEVモードもあるが、それは限定された範囲での話で、エンジン駆動との併用という感覚である。そこからするとe-POWERの走りは多くの人に印象的なものとして感じられるだろう。
もちろん100%モーター駆動というなら、ピュアEVの「リーフ」でも同様なのだが、ノートe-POWERが魅力的なのは、これまでと同じようにガソリンスタンドに行けばいいわけで、ピュアEVのように残りの電池残量を気にしなくていいというメリットがある。充電スポットを探す手間よりもガソリンスタンドを探す手間のほうが、はるかに精神衛生的にも優れている。そう考えると、現実的な解を持った電動駆動車両であり、なおかつ乗ってみたらこれまでにない感覚があって新鮮。しかもこれが手軽に買える、というところで人気を得たのだろう。
さらにパフォーマンスをアップ
そんな日産ノートe-POWERはその後、さらにスポーティなサスペンションや専用装備を備えた「ノートe-POWERニスモ」を2016年に追加した。そしてこのモデルをベースに、さらにパフォーマンスをアップさせたのが「ノートe-POWERニスモS」(以下ニスモS)である。
ニスモS最大の特徴は、インバータやコンピュータ(VCM)、リチウムイオンバッテリーコンピュータ(LBC)に専用チューニングを施したこと。
というよりも、ノートe-POWERの後に登場したミニバンのセレナe-POWERや新型リーフに採用した技術をスライドすることでパフォーマンスアップしたモデルである。
パフォーマンスアップ(筆者撮影)
この結果モーターの最高出力は80kWから100kWへ向上し、モーター最大トルクも254Nmから320Nmへと向上。さらに発電用エンジンも58kWから61kWへと性能をアップしている。
そしてこれにより0-100km/hの加速タイムで実に1.7秒も短縮しているのだから、動力性能において圧倒的な差を実現した1台といえるわけだ。
実際に乗ってみてどう感じたか? これが想像以上にニスモとの差を感じさせるものであった。というのも車両重量1250kgのコンパクトカーにもかかわらず、最大トルクは320Nmに達するのだから、アクセルを踏み込んだ瞬間に2.0Lターボ並みの力強さが、内燃機関とは比べものにならないレスポンスの良さで路面に伝わるので、体が一気にシートに押し付けられる。
そしてそのままグイグイと加速していく様は圧巻だ。さらに今回はテストコースでスラロームやハンドリングを試せるコーナーも走ったわけだが、ここではリーフのニスモを彷彿とさせる一体感の高さを存分に味わえた。
新時代のスポーティさを味わうには最適なパッケージ
やはり電動駆動であるがゆえに、アクセルでコーナリング中の姿勢を細かにコントロールできる。しかもリーフニスモと違ってこのe-POWERニスモSは軽量なノートのボディであるため、コーナリング自体もリーフニスモより軽快で身のこなしがより俊敏な感覚を伴うのだ。
それにしても、リーフのときと同じように電動駆動でスポーツドライビングを一度味わうと、通常のエンジンの反応が鈍く感じるほど。
クルマとの一体感の高さを存分に味わえた(筆者撮影)
そう考えると現在、日産の電動駆動ラインナップで味わえるこの走りは、モーターという新世代のメカが生み出した新たな時代のクルマとの一体感であり、対話性だろう。まさに、新時代のスポーティさを味わうには最適なパッケージといえるだろう。
日本には優れたコンパクトカーがたくさん存在しており、それぞれにスポーティな味付けが施された、いわゆるホットハッチと呼べるモデルが多数存在している。
しかしそれらはすべて、これまでの内燃機関を前提に作られた走りの熱さを表現したモデルである。そうした中にあって日産ノートe-POWERニスモSというのは、パッと見た目では、いわゆるホットハッチに属すだろう見た目を持っているし、シャシーに関してもいわゆるホットハッチの手法でチューニングがなされている。
ノートe-POWERニスモ(筆者撮影)
しかしながら、秘めたハートはほかとはまったく違うもので、生み出す熱さもまたまったく種類の異なる、いや次元の異なるものだといえる。
それは例えれば、これまでのホットハッチの熱さはオレンジの炎なのに対して、このニスモSの熱さは青い炎のような感覚。つまり同じ炎でも、まったく種類の違う走りの熱さを持っている、とでもいおうか。