群像2018年6月号

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講談社による群像新人文学賞を受賞し芥川賞候補作でもある北条裕子氏の小説「美しい顔」に、石井光太氏の著書「遺体 震災、津波の果てに」(新潮社)との類似表現があるとの報道が6月末から続いている。講談社は7月3日、一部報道によって盗用を行ったとの誤った認識を与える事態となったと抗議する声明を公開した。また、近日中に「美しい顔」の全文を無料公開する。

講談社は声明冒頭で、「美しい顔」における参考文献未表示の過失については認め謝罪。7月6日発売の「群像」8月号巻末に告知を掲載するとした。参考文献の未表示とともに、類似した表現が生じたことに対する石井氏らへの謝罪、不快な思いをした遺体安置所関係者へのお詫びが記される。

その上で、一部の報道により「本作と著者について中傷、誹謗等がインターネット上等で散見され、盗用や剽窃などという誤った認識を与える文言まで飛び交う事態」となったと説明。「これらの不当な扱いによって、本作と著者およびそのご家族、新人文学賞選考にあたった多くの関係者の名誉が著しく傷つけられたことに対し、強い憤りを持つとともに、厳重に抗議いたします」と表明した。今回の問題は「参考文献の未表示、および本作中の被災地の描写における一部の記述の類似に限定される」との見解を示し、「著作権法にかかわる盗用や剽窃などには一切あたりません」と断じた。

今後の対応として講談社は、北条氏の尊厳を守るとともに、同作の評価を広く読者と社会に問うため、近日中にホームページ上で「美しい顔」の全文を無料公開する。このほかの参考文献の著者や関係者に対しても、誠意をもって協議していくとしている。

<「群像」8月号巻末に掲載される告知>

小誌二〇一八年六月号 P.8〜P.75 に掲載した第六十一回群像新人文学賞当選作「美しい顔」(北条裕子)において描かれた震災直後の被災地の様子は、石井光太著『遺体震災、津波の果てに』(新潮社)に大きな示唆を受けたものです。主要参考文献として掲載号に明記すべきところ、編集部の過失により未表記でした。文献の扱いに配慮を欠き、類似した表現が生じてしまったことを、石井氏及び関係各位にお詫び申し上げます。また、東日本大震災の直後に釜石の遺体安置所で御尽力された方々に対する配慮が足りず、結果としてご不快な思いをさせたことを重ねてお詫び申し上げます。

本作の主な参考文献は以下の通りです。

北条裕子「美しい顔」群像二〇一八年六月号 主要参考文献

『遺体 震災、津波の果てに』石井光太(新潮社)『3.11 慟哭の記録 71 人が体感した大津波・原発・巨大地震』金菱清編/東北学院大学 震災の記録プロジェクト(新曜社)『メディアが震えた テレビ・ラジオと東日本大震災』丹羽美之/藤田真文編(東京大学出版会)『ふたたび、ここから 東日本大震災・石巻の人たちの50日間』池上正樹(ポプラ社)文藝春秋二〇一一年八月臨時増刊号『つなみ 被災地のこども80人の作文集』(企画・取材・構成 森健/文藝春秋)