多忙な中、議員会館で話をしてくれた朝日健太郎氏 先月、V・プレミアリーグが終了し、男女とも全日本のメンバーが発表となった。中垣内祐一と中田久美、80、90年代のバレー人気をけん引した2人が代表監督に就任したこともあり、東京五輪に向けて、注目は高まっていくだろう。

 もうひとつ、バレーファンの間で話題となったのが、インドアバレー代表経験者であり、人気選手である越川優とゴッツこと石島雄介が今季をもってビーチバレーへの転向というニュースである。こちらも目標となるのは2020年東京五輪。そして、メダル獲得であるという。

 ビーチバレーに関していえば、日本は男女ともリオ五輪に出場していない。そのような状況下で、目標達成は本当に可能なのか? 越川らと同じようにインドアバレー代表からビーチバレーに転向し、2度の五輪出場を経験した参議院議員・朝日健太郎氏のもとを訪ね、ビーチバレーの魅力や特性を挙げてもらいつつ、2人の五輪出場の可能性について、聞いてみた。

――越川選手・石島選手のビーチ転向のニュースを聞いて、最初どのように思われましたか?

朝日健太郎氏:以下朝日 一番適任な選手たちが転向してきてくれたなという印象です。数年前に遡ると、僕はJVA(日本バレーボール協会)のビーチバレーボール事業部にいました。インドア選手の転入促進プロジェクトというのがありまして、やはり石島選手、越川選手というのは候補者の上位に来る人材でした。ですから、リオ五輪が終わった区切りで、自発的に決断してくれたのはとてもよかったなと思います。


 2人が「適任」たるゆえんは、もちろんフィジカル的なもの、背が高い、運動能力が高いというのは言わずと知れた必要条件なのですが、僕自身がビーチバレーボールに転向して求められた要素として、競技経験値や選手の個性がありました。その点、彼ら2人は目立つ存在で、パフォーマンスの表現方法に長(た)けているというのはビーチバレーボールにおいて強みなんです。当たり前ですが、6人制と違って1チーム2人なので、個に求められる能力がとても大きい。石島選手と越川選手が名コンビになるかどうかはまだわかりませんけど、選手としてのポテンシャルは素晴らしいので夢がありますね。

 あとは自分の意思を表現できる選手は強い。持って生まれたものと、Vリーグの第一線やナショナルチームで活躍してきた実績と、この2つを兼ね備えた選手というのは、ビーチバレーボール業界としては大変よい選手が来てくれたなと思います。

――ビーチバレーの魅力を改めて、教えてください。

朝日 6人制だと試合に出ていなかったり、勝利への貢献度が低かったり……。それがもちろんチームワークですし、納得したうえでメンバーとしているのだけど、そういった部分がビーチバレーボールにはない。自分自身の責任がすべてです。

 あとは開放的な会場設計で、音楽もかかっていて、雰囲気も明るい。五輪では観客が両脇に生ビールを抱えて来ていました。やっている選手もノリノリです。海岸線がない国のほうが盛り上がるんですよ。非日常体験なんでしょうね。

――日本では女子選手が注目を浴びたりしましたが、まだ人気スポーツとは言えません。世界でビーチバレーボールはどれほどの人気なのでしょう?


朝日 メジャーとまでは言い切れないもしれないですけど……。五輪競技の中ではメジャーかもしれません。賞金としてはテニスの10分の1〜50分の1と言われています。

――年俸はどれくらいですか? プロとして生活できるのでしょうか?

朝日 トップ選手で1億円くらいじゃないですかね。スポンサー収入を含めて。一番メジャーな大会に優勝して10万ドルくらい。2人で10万ドルなので割ると500万円くらいです。それを3つ4つ獲っていくと、数千万円くらいにはなる。僕らが一番稼いだ時でも、1シーズン、2人で6〜7万ドルだったと思います。10万ドルには届かなかった。

――ビーチバレーにはどんなフィジカルが求められるのですか?

朝日 力強いジャンプ、砂の上で動き続けられる下半身の強さが求められます。でも、Vリーグの第一線でやれていれば、フィジカル的には十分です。高くジャンプするというよりも、”タフ”っていう能力が一番必要になってきます。

――東京五輪出場、そしてメダル……。越川選手、石島選手は、そこまでたどり着けますか?

朝日 東京五輪までの時間は正直短いですが、世界の第一線で戦うと考えれば、(インドアに比べて)ビーチバレーボールのほうが遥かにメダルに届く可能性が高いです。というのも、ビーチバレーはテニスとかゴルフのような個人競技に近い。 また、試合回数が多いというのが特徴。インドアの公式戦で、全日本は強豪国であるアメリカ、ブラジルと年に1回か2回しか対戦できませんが、ビーチバレーなら年に10回も20回もやることができますから、そのなかで揉まれて勝機をつかんでいく。プロセスがまったく違うんです。

 もちろん、ビーチバレーも世界との差はありますが、その距離がそんなに遠くない。まだ追随できる距離にある。”勝負の循環”が6人制の国別対抗の大きな循環よりもビーチバレーは早い。昨年のリオ五輪を振り返ると、イタリアはわずか4年でトップに来ました。男子は96年当時、アメリカ・ブラジルしかいない状況だったので、日本もそこに入っていけた。僕らが退いてから、日本は選手の入れ替えがほとんどない。彼ら(越川、石島)がこちらへ来ると、日本のレベルが加速度的に上がります。


――五輪出場は間に合うと……。ビーチバレーはポイント制で、ポイント保持ランクで上位にいることで大会への出場が決まりますね。東京五輪はどうなのでしょう。

朝日 開催国枠があります。彼らが出場するにあたっては、世界ランキングでどのあたりに位置するかというのが非常に重要です。負けてもいいから世界大会に出て、1ポイントでも2ポイントでも獲ること。日本国内で5年、10年競技を続けている選手たちと比べて、彼らはポイントがゼロ。数年経てば実力的に上回るかもしれないけど、ルール上、ポイントが並んでいないと、そもそも勝負の舞台に上げてもらえない。

 ターゲットを五輪と考えれば、ブラジルのチームに勝つとか、アメリカのトップチームと並ぶんじゃなくて、徹底的に試合に出て強化していく考え方をするべきだと思います。

――試合に出て、ポイントを得ていくのがまず大事になると。

朝日 私の現役当時は優勝ポイントが600ポイント、2位が500ポイント、ベスト8で250ポイントがもらえました。予選で1回戦負けだと得られるのはたった4ポイントなんです。そんなところから始まるんです。

 1試合勝つと、足して2人で8。これが2つ3つ勝ち進んで、予選通過すると一気に100ポイント以上になる。この境界線を越えられるかどうかというのが大事。

 ちなみに私がこの境界線を越えたのが3年目か4年目。いかに効率的にポイントを貯めていくかを考えておく方がいいです。徹底的に世界で転戦し続ける。そのための体力と経済力も必要です。


 予選は水曜日に始まるんですけど、朝集合して、対戦相手をチェックして、3試合勝てば予選通過というシステム。予選は10時から試合が始まるのですが、最初の頃なんか、予選1戦目を30分くらいで負けるんです。10時半には一週間の任務終了です(笑)。

 そして、その会場で午後に練習する、だけど、試合が行なわれているので、練習できないこともあります。次の日、日の出前に来て練習するんですが、しばらくすると試合の関係者がやってきて、ウォーミングアップをするため、追い出されてしまうんです。だから、試合が終わるのを待って、日没までまた練習します。その間、何もやることがない。こういう生活が、半年以上続きました。

 そのうえ、ルールもよくわかっていませんでしたから。6人制の感覚で「なんでいまのがドリブルなんだ!」と抗議して。審判が困り果てていた顔を覚えています(苦笑)。

――話を越川選手と石島選手に戻しますが、2人はコンビを組むほうがいいですか?

朝日 いいと思います。ただ、いきなり組んでしまうと、ビーチバレーのイロハがわからなすぎるので、最初だけはベテランと組んだ方がいいかもしれませんが。2人が組むのであれば、わからないなりにお互いに補い合いながらやる。やっぱり2人でやるのが一番いいと思います。

――見る方もワクワクしますよね。

朝日 あの2人なら、プライドだったり、意地だったりを見せてくれると思います。僕は最初、西村(晃一)さんと組んでいましたけど、本当にひどかった。中学生までしかバレー経験がないビーチバレーボール愛好者の方に、負けていましたから。


――逆に言えば戦術などで補えることが多いってことですよね?

朝日 そうなんです。風があるだけでミスが出てしまう。体力や技術は圧倒的に我々の方がすごいんですけど、経験や戦略で負けてしまうんです。でも半年後、彼らに全部勝って、ギャフンと言わせました(笑)

――2人も最初はその洗礼を受けることになる?

朝日 受けると思います。見た目以上に本人たちは相当きついと思います。結果的に3点か4点差しかないんですけど、それがすごく遠いんです。

――東京五輪に向けての展望と2人へのエールをお願いします。

朝日 彼らが2020年東京五輪でビーチバレー代表として出る可能性は、すごく高いと思います。強みとしては圧倒的なこれまでのバレーボールでの経験値。この経験値は群を抜いて高いわけですから、個性もフィジカルも人気もある。あとはどれだけボールに触れるか。元々の力量が違いますからね。期待してます!

※東京五輪のビーチバレー出場権については、2018年1月ごろIOCとFIVBの協議で決定される。リオ五輪を踏襲すると、開催国枠1ペアを含む最大2ペアが出場できる。世界選手権優勝ペア、オリンピックランキング15位以内、コンチネンタルカップ、世界最終予選による出場枠がある。

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