イヌは「お手」をする方が利き手

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右利きの人と左利きの人がいるが、右利きの人が圧倒的に多いのはどうしてだろうか。また、いつの時代から右利きが多くなったのだろうか。

古来、様々な説が出ているが、180万年前の初期人類から最古の「右利き」の証拠が見つかった。米カンザス大学の研究チームが、人類進化の専門誌「Journal of Human Evolution」の2016年11月号に発表した。

イヌの利き手は「お手」をさせるとわかる

動物にも右利き、左利きがあるそうだ。脳神経学者の八田武志・名古屋大学名誉教授の著書『左対右 利き手大研究』によると、イヌにも利き手がある。どうやって調べるかというと、「お手」をさせるのだ。右手55%、左手44%、両利き1%という結果だった。チンパンジーやオランウータンの場合は、内側にピーナッツバターを塗った筒を渡し、どちらの指でなめるかを見る。チンパンジーは右利き、オランウータンは左利きが多い傾向がみられた。ニホンザルの場合は、大半の利き手が明確ではないが、驚いた時に母ザルがどちらの手で子ザルを抱えるかを観察すると、ほとんどの場合、左手に抱えて逃げた。

人間の場合は約9割が右利きだ。その理由については、左側に心臓があるため、右手で刀などの武器を持ち、体を守りながら戦う「防御説」。石器時代から右利き用の道具が作られてきたため、人々が右利きに順応した「環境説」がある。確かに、ハサミやゴルフクラブ、自動改札機、回転ずしの回る方向(右回り)に至るまで、現代社会は右利き専用のものばかりで、左利きには不便だ。

「言葉」を話す脳が左脳だから右利きが優位に

最近、有力な説が「右脳・左脳説」だ。「左右学」を研究している西山賢一・埼玉大学名誉教授は、2015年4月12日付の日刊ゲンダイ「人類の9割『右利き』はなぜ?」のインタビューにこう説明している(要約抜粋)。

「右利きが増えた理由は、約6万年前の『言葉』の誕生です。より複雑な道具を作り、集団で狩りをするには、言葉によるコミュニケーションが必要不可欠。急速に言語脳である左脳を発達させた人類は、結果的に左脳とつながっている右半身が優位になり、右利きが増えていったと考えられます」

人間の脳は、おおまかにいうと、左脳が右半身、右脳が左半身をコントロールしている。言語をつかさどる左脳が発達したため右利きが増えたという。では、なぜ左利きの人が1割存在するのか。西山名誉教授はこう推測する。

「左利きは(クリエイティブな働きをする)右脳が優位で、誰も考えつかない独創的な武器を作るなどして必要とされたのでは。論理的な左脳だけでは円滑なコミュニケーションが成り立たない。社会の潤滑油としての役割も担ったと思われます」

カンザス大学が発表したプレスリリースによると、デイビッド・フライヤー名誉教授(人類学)は、アフリカのタンザニアで見つかった約180万年前の初期人類ホモ・ハビリスの化石のあごの部分から、右利きであることを示す最古の証拠を見つけた。前歯の唇側を調べると、擦り傷がたくさんあり、ほとんどの傷が左上から右下に流れていた。この傷は、口にくわえた硬い食べ物を左手で引っ張り、右手に持った石器で切断する時に、食べ物が歯の表面にこすれてできた。

数十万〜数万年前まで生きていたネアンデルタール人は右利きが多かったことがわかっているが、それ以前の人類も右利きが多いことを推測する有力な手掛かりになるという。ということは、ホモ・ハビリスも言葉を話した可能性があるということだろうか? その点については、フライヤー教授はプレスリリースの中で、慎重にコメントしている。

「今回の発見は、ホモ・ハビリスの脳が類人猿より我々に近く、左右対称ではなかった可能性を示唆しています。類人猿では右利きの割合はほぼ50-50、人間は9割。化石からは脳の構造まではわかりませんが、さらに研究が進めば、右利きが言語能力の出発点であることを突きとめることができるでしょう」