北海道で発生した、実の子どもを山中に放置した事件は連日ニュースを騒がせていましたが、この事件は欧米でもショッキングな出来事として大きく報道されたようです。NY在住でメルマガ「ニューヨークの遊び方」の著者・りばてぃさんは、この事件に対する欧米の報道から「一つ気になること」を見つけたとのこと。それは、子どもの「しつけ」という言葉に対する日本と欧米の大きな考え方の違いと関係があるようです。

日本語と英語で異なる「しつけ」の意味

(1)子どもを一人にさせない欧米

ニューヨークの街角や公園などでは、幼い子ども達を連れたベビー・シッターやナニー(Nanny)さんたちの姿を頻繁に見かける。

チビッ子たちと、子ども好きなナニーさんが、歌とか歌って楽しそうに遊んでいる姿は、とても微笑ましいし、とにかく可愛い。一緒に遊びたくなっちゃう。

あちこちに公園が多く、また、共働き家庭も多いためなのか、ニューヨークでは、ナニーさんはとても身近な存在。

こちらの各種メディアでは、優秀なナニーさんをどうやって見つけるかとか、ナニーさんと子ども達の心温まる触れあいエピソードなどがよく話題になってるし、ナニーさんをテーマにしたドラマや映画も多い。

男女平等が進んだ近年では、男性のナニーさんもいらっしゃって、2002年に放映された人気ドラマ『フレンズ』のシーズン9第6話は、「キュートなベビーシッター(邦題)」(原題は、The One with the Male Nanny、直訳すると、男性ナニーの回)だった。

こうしたナニーの役割とか、さらに、子育て全般に関する日米の文化や慣習には、とても大きな違いがある。

いろいろな違いがあるけれど、中でも特に、日本人がビックリさせられるのが、アメリカ(だけじゃなくて、たぶん欧米諸国全般)の「子どもを一人にさせない」という考え方だろう。

考え方というか、もうこのあたりに関する法律もかなり違っている。

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アメリカでは、子どもを一人にさせておくと、もうそれだけで児童虐待(child abuse)とか、育児放棄(neglect)って話になって、逮捕されることも珍しくない。

しかも、日本人の感覚からすると信じられない話だが、親も一緒に行っているスーパーの駐車場とか、自宅の裏庭や、自宅の中(つまり、子どもだけでのお留守番)ですら、子どもを親の目の届かないところに放置してたって罪で逮捕され、何百万円単位の罰金を課せられたり、育児相談所に呼び出されたりもしてるのだ。

おまけに、そんなニュースがしょっちゅう報じられている。

〔ご参考〕
●Mom let 4-year-old wander alone in Walmart parking lot
〜スーパーの駐車場で4歳児を放置(自分は車内にいた)して逮捕

●Soldier charged with leaving young children alone
〜米軍勤務の兵士の女性、すぐに帰ってこれるトレーニングのため、4歳と3歳の子どもを、鍵をせず自宅内に残して外出したところ、外に出て遊んでいた子ども達が保護され、逮捕、保釈金2万ドル(約220万円)支払うことに。

●This Mom of 3 Got in Serious Trouble For Letting Her Kids Play Outside ? and She’s Not Having It
〜カナダの例で、自宅の裏庭で10歳と5歳の子どもだけで遊ばせていたところ、近所に住む「心配した市民」から児童虐待や育児放棄の疑いがあると役所に通報され、入念な取調べを受けることに。

他にも類似のニュースは無数にあって、試しに「leaving a child alone」(子どもだけで放置する)をGoogleなどで検索すると、家や車の中や公園に子ども放置して逮捕されたというニュースが山ほど出てくる。これじゃ、ナニーが重視されるのも当然だろう。

あと、こうした文化背景があるためか、日本では人気テレビ番組として、25年以上も続いている『はじめてのおつかい』(日本テレビ)を、初めて見た欧米の方々が、

「幼い子ども一人だけでおつかいに行かせるなんて日本人はクレイジーだ」

と大騒ぎすることもある。

試しに、「Hajimete no Otsukai」で検索してみたら、つい最近、5月30日にイギリスのニュース・サイトで記事になってた。

そのタイトルは、「なぜ、日本人は、安心して子どもを一人で外出させられるのか?」(Why Japanese parents feel safe letting their children travel alone)

この記事では、欧米とは比べものにならないほど、とてつもなく日本の治安が良いから、と結論付けている。

うーむ。まぁ、それはそうなのだけど、社会の背景にある文化や慣習などの違いによる影響も、当然、かなり大きなはずで、そっちの分析の方がより重要なんだけど、どうやらあまりにも日本の治安が良過ぎるので、そこで思考停止になっちゃってるっぽい。

〔ご参考〕
●Why Japanese parents feel safe letting their children travel alone

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(2)日本語の「しつけ」は罰も含む

とにかく、そんなわけで、欧米の感覚では、「leaving a child alone」(子どもだけで放置する)ということは、それだけで犯罪的な行為として強く認識されており、世間の関心もやたらに高い。

だから、日本で起こった北海道の男児置き去り事件は、その発生直後から、欧米諸国の各種メディアでも、かなりたくさん報じられることになった。

アメリカだけでなく、イギリス、カナダ、オーストラリアあたりの全ての主要TV局や新聞がニュースに取り上げてたほどだ。

なにしろ、「leaving a child alone “home”」(自宅に子どもだけで放置する)とか、「leaving a child alone in a “car”」(車に子どもだけで放置する)だけでも、しょちゅう逮捕されたりして騒ぎになっているのに、今回は、「leaving a child alone in “mountains”」(山に子どもだけで放置する)とか、「leaving a child alone in “woods”」(森に子どもだけで放置する)などというタイトルになってるのだ。

たぶん、そんな記事のタイトルを見た欧米の方々の中には、その見出しを二度見、三度見して、「マ、マウンテン? なんだって?!」とか、「ウ、ウッズに? なんじゃそりゃ!!!」などと、ビックリして飛び上がった方も、結構、いるんじゃないかと思う。

そのくらいありえない話なのだ。

しかも、その男の子が6日ぶりに見つかったということで、この事件は、欧米でも輪をかけて大ニュースになっている。

結局、無事に保護されて本当に良かったんだけど、いろいろたくさん海外メディアの関連報道を見ていて、1つ気になったことがある。

それは、海外メディアでは、ほとんどどこも「『しつけ』として置き去りに・・・」とは報じていない、ということだ。たぶん、『しつけ』としてと報じた海外メディアは、1つもないのかもしれない。

その代わり、『罰として、懲らしめるため』(as punishment)置き去りにしたと報じている。

例えば、CNNは、

「日本の男の子が山で行方不明『罰として』両親が置き去りに」

〔ご参考〕
●Japanese boy missing in mountains after being left by parents as ‘punishment’

報道の中には、「男の子が日本の森で行方不明『罰として』両親が男の子を車から”蹴り出した”」などと、両親に対する怒りが込められたと思われる、恐ろしいタイトルに脚色されてた記事もあった。

そこまで酷くなくても、アメリカ最大手の全国紙のUSAトゥデイも、「『罰として』森に置き去りにされた男の子が消えた」(USA Today)とか、政治系のニュースに定評のある真面目なワシントン・ポストにまで、以下のように、もはや、しつけでも、罰としてでもなく、ただ『捨てられた』と報じられる例まである。

「熊でいっぱいの森に『捨てられた』7歳の日本の男の子の捜索にフラストレーション高まる」

しかも、捨てられた場所は、「熊でいっぱいの森」(bear-filled woods)っていう、ひじょーに衝撃的というか、もはやフィクションみたいな現実にはありえない見出しだ。

〔ご参考〕
●Boy missing in Japanese forest after parents kicked him out of car as punishment
●Boy left in woods as punishment disappears
●Frustration grows in search for 7-year-old Japanese boy abandoned in bear-filled woods

次ページ>>日米でここまで違う。「しつけ」という言葉の意味

もちろん、英語にも「しつけ」を意味する「discipline」という単語や、「teach a child discipline」のように子どもにしつけを教えるという表現は多々ある。

でも、今回のように山に置き去りにするのは、欧米では、「discipline」(子どもに規律などを教える行為)じゃなく「punishment」(罰を与えたり、懲らしめる行為)になるということだろう。あるいは、もはやしつけや、しつけるための罰でもなく、ただ捨ててきた、と。

この現象をよくよく考えてみると、逆に言えば、日本語の「しつけ」には、英語の「discipline」の意味だけでなく「punishment」の意味も含まれるということだ。

うーむ。でも、これってどうなのだろう?

規律を教える行為と、罰を与えたり懲らしめる行為がまったく同じ「しつけ」という1つの単語で表現されるってのは、それで別に何も問題ないのだろうか。

だって、自分がしつけられる子どもの立場に立ってみると、親でも学校の先生でも誰でもいいから大人から、「どうやらキミは、まだ『しつけ』が足りないようだね・・・」なんて言われたら、めっちゃ怖いじゃん。「えー、どっちの意味なの?教えてくれる方?それとも罰?懲らしめられるの?」って無駄にビクビクしそう。

あと、よくよく考えてみると、「うちは『しつけ』を厳しくしてますから・・・」みたいなことを自信満々で言う、教育ママさんっぽいお母さんとかに会ったら、ちょっと怖いわー。「どっちなの?ちゃんと教える方?それとも、懲らしめる方?」って内心ドキドキしそう。

でもまぁ、とは言うものの、これはこれで日本の文化や慣習の一端ということなのかも?これはこれで、何か意味があるのかもしれないし。

ただ、英語で話すときは、「しつけ」の意味について、ちょっと気をつけた方がいいかもしれないけど。

image by: Shutterstock

 

『メルマガ「ニューヨークの遊び方」』より一部抜粋

著者/りばてぃ
ニューヨークの大学卒業後、現地で就職、独立。マーケティング会社ファウンダー。ニューヨーク在住。読んでハッピーになれるポジティブな情報や、その他ブログで書けないとっておきの情報満載のメルマガは読み応え抜群。

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出典元:まぐまぐニュース!