築き上げてきたパスワークの精度を突き詰めるのではなく、手数をかけずにゴールを目指す――。中1日で試合が続く中、技術的な修正を施す時間はほとんどないとはいえ、安直とも言える手法に傾斜してしまった佐々木監督。「勝つことから逆算した時、(オリンピック)出場権を獲得するための流れがそういう形になった。勝つための選択だった」と、予選敗退が決まった今、指揮官は振り返っている。結果が出ない日々、最も強い焦りを感じていたのは佐々木監督だったのかもしれない。

 なでしこジャパンは攻撃のリズムを掴めないまま、0−1で後半へ。そして58分に追加点を許すと、いよいよ悲観的なムードが漂った。7分後、敵陣でボールを奪った横山が1点差に迫るゴールを決めたが、反撃はここまでだった。1−2。残り2試合で2位中国との勝ち点差は「6」に開き、オリンピック出場は絶望的なものとなった。そして7日の第4節・ベトナム戦のキックオフを待たずして、4大会ぶりの予選敗退が決まった。

■2020年へ、問われる分析と検証

 6チームの総当たり、各チーム5試合ずつを戦う最終予選で、2試合を残して敗退決定。あまりにも不甲斐なく、そして予想だにしなかった結末を迎えた。前年のワールドカップで準優勝を果たしたチームが、オリンピックのアジア予選で敗退――。結果の落差が大きい分、ドラスティックな改革へと舵を切る機運は高まるだろう。JFAの大仁邦彌会長は「新体制をスタートさせる」と、監督交代を含めた体制一新を示唆した。田嶋幸三次期会長が「2020年に東京オリンピックを控えている。そこへ向けてスタートを切らないと」と言えば、野田・女子委員長も「新たな体制作りを速やかにしっかりとやる時期だと思う」と口を揃えている。

 ただ、忘れてはならないのは、開幕前の準備や今大会のプロセスを詳細に分析・検証することだ。田嶋氏は「これがサッカーの怖さだと思う。なでしこは上位2チームに入る力を持っている。それでも、短期決戦の中で修正することができなかった」と言う。今振り返れば、4連勝でオリンピック出場を決めたオーストラリアが初戦の相手だったことは不運だったかもしれない。白星スタートを切っていれば、以降は全く違う流れになっただろう。そう考えると、例えば大会開幕前に親善試合を組んで実戦の雰囲気に慣れておくことはできなかっただろうか。自国開催の利を活かせる策だったはずだ。上田栄治・副女子委員長は「インターナショナル・マッチデーに試合を組むのが難しい日程だった。現場から(試合開催の)要望は特になかった」と話している。今後に向けた1つの検討材料になるだろう。

 短期決戦の難しさや対戦順の妙があり、「ホーム開催は初めてだったからかなり影響していた部分はある」と大儀見が言うように、自国開催であったこともプレッシャーとなってマイナスに作用した面はある。「たられば」を言っても仕方がないが、勝負を分けたのは紙一重の部分だ。以前であれば「うまくいかない時でも結果が出て、それでカバーできていた」(岩渕)ところで、優位性を保つことができなかった。それだけ、アジアのライバルとの差は拮抗している。そんな中で、第3節・中国戦のように相手の強みを引き出すような戦い方を展開してしまっては、勝利は遠ざかる。果たしてスカウティングは十分に機能していたのか。細かい課題は山積だ。

“打倒・なでしこ”を掲げ、対策を講じて立ち向かってきたライバルたちのレベルアップを身をもって知ることとなった今大会。大儀見は「現状維持では退化していく一方。一つひとつのプレーの向上を追い求めていかないと周りに追い越されてしまう」と警鐘を鳴らす。東京オリンピックを29歳で迎える熊谷は「“追われる”立場であることを理解して、想定して準備をしないと勝ち続けることは難しい。それを痛感した大会だった」と話し、「ゼロからのスタートになると思う。2年、3年は長いようで短い。できることをやっていかないといけない」と、危機感を示した。

 2020年を前に、リオデジャネイロ行きの切符を逃したショックはあまりにも大きい。だからこそ、今大会の経験を無駄にしてはならない。最終節は9日19時35分、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)との対戦だ。「近隣国で、常に良い勉強をさせてもらえるライバル。とにかく勝つための準備をしていく」と、佐々木監督は言い切った。敗退が決まっても、これは単なる消化試合ではない。目の前の勝負にこだわる姿勢を貫き、勝利とともに大会を終えてほしい。

文=内藤悠史