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今や、学生の約5割が利用している奨学金制度。大学の学費値上げや、経済の低迷による親の収入低下などを原因に、利用者は増え続けています。ところが、卒業後奨学金の返済ができずに困窮する人が増えているのも現状です。具体的な返済例を見ながら、奨学金の注意点、危険性、賢い利用方法を考えてみましょう。

○大学〜大学院の6年間で400万円以上の額に

日本学生支援機構が実施し、大学、大学院などへの進学を希望する人への学費の貸付制度、いわゆる「奨学金」の利用者が増えています。奨学金には、特に優れた学生を対象に、無利息で貸与される第一種奨学金、第一種よりもゆるやかな基準で、利息付で貸与される第二種奨学金の2種類があります。

月々の貸付額は、第一種は学校の種別などによって異なり、私立大学へ自宅外から通学の場合は6万4,000円、自宅通学5万4,000円です。第二種の貸付額は、3万円〜120万円までの5種類があり、必要に応じて選択をします。

自宅外通学で私立の4年生大学、その後大学院の修士課程2年コースへ進んだとします。この6年間、第一種奨学金を受け続けた場合、大学4年間での借入総額が307万2,000円。大学院2年間で120万円になります(大学で月額6万4,000円、大学院で月額5万円借りた場合の試算)。

第一種は無利息とはいえ、6年間で総額427万2,000円は相当な金額です。それぞれを月賦で返済すると、大学分の返済が返済期間18年で月額1万4,222円、大学院が返済期間12年で月額8,333円となります。返済が始まるのは大学院卒業後になり、大学、大学院分を合わせると、12年間は月額2万2,555円の返済が必要です。

学校を卒業した後、安定した就職先を見つけられる保証はありません。無事就職できても、新卒の平均給与は20万円程度なので、月2万円を超える返済を続けるのは、大きな負担です。18年もの返済期間中には、結婚や住宅購入などのライフイベントもやってくるでしょう。マイホーム取得のローンを組みたくても、奨学金の返済が重く、やりくりの目途が立たないという事態も考えられます。

そして奨学金の返済が滞ると、年10%の延滞金が課され、さらに返済が厳しくなります。滞納が3カ月続くと、個人信用情報機関のブラックリストに名前が掲載され、クレジットカードを作ったり、ローンを組むことが難しくなったりする可能性もあります。滞納が9カ月以上続くと一括払いを求められ、その後は財産差し押さえや裁判になるケースも。

奨学金といえども、返済や取り立てに関しては民間の金融業者と変わらず、甘く見ると身を落とすことになりかねません。実際、奨学金の支払いができず、自己破産した事例もあるのです。

奨学金を利用するなら、借り入れ前に返済額をシュミレーションして、返済計画を立てておきましょう。就職後は、生活に余裕ができるまで、実家やシェアハウスで暮らすなど、生活費を抑える努力も必要です。

それでも返済が難しければ、奨学金の返済額を半額ずつにできる減額返還、一時的に返済をストップする返済猶予願いを速やかに提出しましょう。年収が300万円以下なら、申請によりこれらの措置を受けられます。ただし、返済額が減るわけではなく、返済期間が延びるだけです。全額返済の義務に変わりはありません。

「卒業すればなんとかなる」と安易に考えず、自分の社会的信用と卒業後の約20年の生活に大きく影響するものだということをしっかり理解したうえで、上手に付き合っていくことが大切だといえるでしょう。

○著者プロフィール

大竹のり子
エフピーウーマン代表取締役
ファイナンシャルプランナー(CFP(R)認定者)

出版社の編集者を経て、2005年4月に女性のためのお金の総合クリニック「エフピーウーマン」を設立。
現在、雑誌、講演、テレビ・ラジオ出演など多くのメディアを通じて、女性が正しいお金の知識を学ぶことの大切さを伝えている。「マネーセンスを磨けば、夢は必ずかなう! 」(東洋経済新報社)、「老後に破産しないお金の話」(成美堂出版)などお金の分野での著書は40冊以上に及ぶ。一般社団法人金融学習協会理事。
お金との正しい付き合い方が学べる無料マネーセミナーも受付中。

(FPwoman)